投資をする上で、何にどんな比率で投資するかというポートフォリオの作成は苦労する。従来は金融のプロが担ってきたこの役割を、機械が自動的にやってくれるとしたらどうだろう。コンピューターが資産運用してくれるロボ・アドバイザーの普及によって、投資シロウトが安心して資産運用できる時代は来るだろうか?
にわかに資産残高を増やすロボアド市場
FinTech(金融テクノロジー)の中でも最近よく耳にするロボ・アドバイザー(ロボアド)は、コンピュータープログラム(アルゴリズム)が個々の投資家の志向に合わせたポートフォリオを作成し、自動的に資産運用するサービスのことだ。
日本ではまだなじみが薄いが、先行するアメリカでは、ゴールドマン・サックス、メリルリンチ、フィデリティなど大手金融機関が参入していて、2015年末時点のロボアド市場における資産残高は6兆円を超え、2020年には230兆円を超える予測もあるという。
日本では、株式会社お金のデザインによるTHEO(テオ)が2016年2月にロボアドサービスを開始したほか、当初は招待制だったWealthNavi(ウェルスナビ)も2016年7月から一般公開。大手もみずほ銀行のSMART FOLIO(スマートフォリオ)、三菱UFJ国際投信投資顧問のPORTSTAR(ポートスター)、大和証券が2017年1月に公開するロボアドを利用したラップ口座サービスなど、徐々に裾野を広げている状況だ。
運用ポートフォリオはETF(上場投資信託)で構成され、「新興国株」「先進国国債」などの地域や性質の異なるアセットクラスを複数組み合わせ、バランス良く分散投資することを目指す。売買やリバランスでの手数料はかからないことが多い。
若い人向きなロボアドの有用性
もともと、ポートフォリオによる資産運用は、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)といった金融のプロが彼らの理論によって手掛けてきたもので、対面で接客するのが基本だった。日本の個人資産1700兆円のうち、約半分を占める60歳以上の高齢者にとってはおなじみの方法だが、ネット証券が当たり前の20~30代の若い世代は、経験がない人がほとんどではないだろうか。
一方、ロボアドはすべてクラウド上で行われるため、PCやスマホだけで済んでしまう。モバイルに慣れた世代にとっては、断然ロボアドのほうが親しみやすいといえる。実際、THEOの利用者は20~30代が全体の58%を占め、保有資産は500万円未満が52%、さらに約9割が資産運用未経験者だという。
また、コンピューターが人の代わりに働くロボアドは、人件費を低くできるため、コスト面でもFAより安くすることができる。手数料は1%未満~1%とサービスによって異なるが、投資一任報酬のみというところが多い。
最も有用な点は、金融機関側の販売戦略を気にしなくてよくなること。手数料商売の証券会社は、機関投資家などの大口のほうが大事なため、小口には”売りたい商品を薦めてくる”という話を聞いたことがあると思うが、ロボアドではそれを心配する必要はない。
まだまだ発展途上、データ集積で化けるロボアドの未来
メリットばかりに思えるロボアドだが、まだ人間の能力を超えられない点も多い。例えば、ロボアドは人物のプロファイリングを基に資産運用を行なうのだが、年齢や運用期間、資産の持ち方などの簡単な質問に答えるだけで、その判断基準が心もとない。対面接客では感じることができる信用の根拠に乏しいのだ。
また、AI(人工知能)を基にするロボアドは、長期的に検証する必要のある投資においてはディープラーニングが進む速度が遅く、特に人間より優秀な答えを出すには至っていないという。
それに、結婚や出産といったライフステージの変化における経済的な問題について、ロボアドがどれだけ対応してくれるかもちょっと疑問だ。
囲碁や将棋で人間を凌駕するAIだが、投資分野においてはまだ実績が浅く、過度な期待はできない。しかし、それもデータの集積によって一気に改善されることは大いに考えられる。むしろ近年ではよくあることだ。ロボアドが常識になる社会は、そう遠くないのかもしれない。