経済

新たに計画された経済対策 事業規模28.1兆円の正体

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安倍政権が閣議決定した「未来への投資を実現する経済対策」。”28.1兆円の事業規模”といわれているが、実態が見えてこない。経済対策という抽象的表現ではなく、具体的政策という”中身”を見てはじめて、政府の政策の将来的効果を推し量ることが可能になる。

「未来への投資を実現する経済対策」

アベノミクスを一層加速させるため、2016年8月2日に安倍政権によって打ち出された、事業規模28.1兆円とされる新たな経済対策。子育てや介護の環境整備、社会全体の所得・消費の底上げ。観光振興や農林水産物の輸出促進などを目的としたインフラ整備。国際情勢に伴うリスクへの対応や、国内企業や事業者に対する支援の拡充。災害復興、防災対策への強化。これらを主軸とした総合的な対策。

アベノミクスを一層加速させるため、2016年8月2日に安倍政権によって打ち出された、事業規模28.1兆円とされる新たな経済対策。子育てや介護の環境整備、社会全体の所得・消費の底上げ。観光振興や農林水産物の輸出促進などを目的としたインフラ整備。国際情勢に伴うリスクへの対応や、国内企業や事業者に対する支援の拡充。災害復興、防災対策への強化。これらを主軸とした総合的な対策。

GDPを踏まえた「経済的効果」の意味

「事業規模28.1兆円の経済対策」の「事業規模」という言葉は、本当に曲者だ。素直に読むと、政府が28兆円分の”支出”を実施するものと受け止めてしまうが、現実は異なる。まずは「経済対策」について、「日本の国内総生産(以下、GDP)を押し上げる政府の支出」と、定義しよう。GDPを押し上げるためには、誰かが消費や投資としてモノやサービスを購入する必要がある。どれだけ莫大なお金が動いたとしても、消費・投資としての支出がなければ、GDPは増えない。

筆者は民主党政権時代の「子ども手当」について、経済的効果が薄いと批判していた。理由は、子ども手当としてお金を振り込まれた家計が、その分、消費や投資として使ってくれなければ、GDP拡大効果はゼロになってしまうためだ。読者が子供にお小遣いをあげても、GDPは増えない。お小遣いをもらった子供が、店舗でお菓子を買う(=消費する)と、GDPの民間最終消費支出は増える。今回の安倍政権の経済対策には、上記の「手当系」の政策が含まれている。

低所得者への給付措置

政府は経済対策の一部として、消費を喚起し、消費税率8%への引き上げの影響を緩和するため、低所得者向けの簡素な給付措置の2年半分に相当する15000円を一括して現金給付することを決定した。対象は、住民税が課税されていない約2200万人である。2200万人に15000円を給付するとなると、単純計算で3300億円の予算が必要になる。無論、現在の日本はデフレーションという需要不足に苦しめられているため、3300億円の支出を政府がしたとしても、それ以上にGDPが増えるのであれば、経済対策としては合格点だ。それでは、簡素な給付措置としての3300億円の政府支出が、果たして幾らのGDPの拡大効果をもたらすのだろうか。実は、事前には誰も分からない。

先にも触れた通り、給付や手当系の支出は、そのお金が消費や投資に回さない限り、GDPを拡大しない。無論、今回の給付対象は低所得者層であるため、15000円の現金給付の多くが消費に回る可能性は、あるにはある。しかしながら、現在の日本の家計の消費性向が下がってきていることに鑑みると、低所得者層であっても、15000円の多くを貯蓄に回す可能性を否定できない。対象を低所得者層に絞ったという点は評価できるが、給付金系の経済対策がフルでGDPを押し上げるか否か、誰も保証することができない。これが、手当系や給付系の財政出における”欠点”だ。

中小企業・小規模事業者への貸付関連

閣議決定された経済対策には、「中小企業・小規模事業者等へのセーフティネット貸付制度等の金利引き下げ」が含まれている。もちろん、資金繰りに苦しむ中小企業や小規模事業者にとって、セーフティネット貸付の金利引き下げが”延命”に貢献する可能性はゼロではない。とはいえ、現在の中小企業や小規模事業者が苦境に陥っているのは、別に貸出金利が高いためではないのだ。”仕事がない”か、もしくは”銀行からお金を借りられない”からこそ、経営難に陥るのである。

現在の国内銀行の貸出態度は、中小企業に対してすらバブル期並みに緩和されている。ところが、21世紀初頭の不良債権処理以来、金融庁のマニュアルが厳格化されたため、銀行は中小零細企業に対し貸し出しを増やしにくい状況に置かれている。また、政府が政府系金融機関の貸出金利を引き下げたとしても、企業側が貸し出し条件を満たすのは容易ではない。政府が本気で中小企業や小規模事業者の資金繰りを支援したいならば、金融庁のマニュアルを緩和する方がはるかに効果的であり、規模も大きくなる。いずれにせよ、政府が中小企業や小規模事業者への低金利貸出枠を拡大したとしても、実際に借り入れが増え、消費や投資に向かうか否かは、給付系政策同様に未知数だ。

財政投融資・建設国債によるインフラ整備

政府は財政投融資で借り入れた資金を超低金利でJR東海に貸し付け、リニア新幹線の大阪延伸を最大2037年まで前倒しすることを決定した。もっとも、JR東海からしてみれば、政府から資金を借りたとして、すぐに名古屋-大阪間の建設工事にかかる必要はない。2037年までに名古屋-大阪間のリニア新幹線開業を目指すなら、アセスメントを2025年頃に開始すれば十分に間に合う。というわけで、金額は兆円単位ではあるものの、財政投融資による経済効果がいつ出るのかは、事業主体となる民間企業側の経営方針に依存してしまうのだ。

では、建設国債の場合はどうか。政府が建設国債で資金を調達し、整備新幹線や港湾整備などのインフラ整備を公共投資として実施した場合、用地費等がないと仮定して、支出金額分、必ずGDPが増える。また、経済効果を”いつ”出すかについても、政府が主体的に決定することが可能だ。

今回の経済対策において、政府は今年度予算として6.2兆円の国費を投じる。内閣府は短期的なGDP押し上げ効果を1.3%と見込んでいる。今年度に支出される、いわゆる「真水」が6.2兆円というわけだが、新聞は「事業規模28.1兆円の経済対策」と書き立てる。別に、嘘というわけではないのだが、少なくとも経営者は、見出しの数字をそのまま信じるのではなく、上記のように”中身””政策効果がいつ出るのか””真水の規模”といった細部にも注意を払う必要がある。

未来への効率的な投資のために、経済対策の効果検証を

「真水」とは、政府が直接使う金額のこと。その投資したお金によって、付随する産業や消費が喚起されて、景気が上向き、GDPも増えていくことを政府は狙っている。今回は6.2兆円使って、28.1兆円の効果が出るというものだ。

例えば、1億円の支出で景気を刺激して、10億円の消費がされたとすれば、乗数効果が10倍ということで、これは一般的には効率的な投資と言える。15000円の支出をしても、それがすべて貯蓄に回れば、将来的には消費に回るかもしれないが、直接的な乗数効果はないに等しい。

政府は長期的な視点も入れながら、時代にあった国民への投資をするべきで、本当にこの投資で、28.1兆円の効果がいつ、どのようにあったのか、後々検証するべきだ。それも、投票行動に反映されるべきものだからである。