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エキセントリックでないと務まらないのか?ナンバーワンに駆け上がるIT企業の創業者たち

2016.11.10

企業

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世界を席巻する企業の創業者はどんな人物だろうか。従業員からの信頼が厚い? 最高のエンジニア? たぶん、どちらでもない。Appleのスティーブ・ジョブズ、Microsoftのビル・ゲイツ、Facebookのマーク・ザッカーバーグ……有名なIT企業の創業者たちに共通するのは”エキセントリック”であることだ。一風変わった世界企業の経営者の素質に迫ってみたい。

IT企業の創業経営者はネタの宝庫

『バトル・オブ・シリコンバレー』(1999)
『ソーシャル・ネットワーク』(2010)
『スティーブ・ジョブズ』(2015)

これは何だろう? まあ、3番目は主人公がそのままタイトルになっているのでわかりやすいが、いずれもIT業界の経営者たちを主人公にした映画のタイトルである。探せばきっともっとあると思われる。

1番目の映画は、PC黎明期のMicrosoftのビル・ゲイツとAppleのスティーブ・ジョブズの成長と戦いを描いた映画であり、2番目はハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグがFacebookを立ち上げ、成長させていく物語。そして3番目は、ジョブズ没後の2015年に作成された伝記映画である。

しかし、考えてみれば、これはなかなか珍しい事態ではないだろうか。ある産業の、起業と成長、そして企業間のバトルをめぐって、現役の経営者(残念ながらジョブズは2011年に亡くなり、ゲイツは2014年にMicrosoftの会長職からも引退したが)を主人公にした映画が、こんなに何本もつくられる産業はほかにはない。なぜ、IT業界はこんなに映画や伝記のネタに事欠かないのだろうか?

IT業界の経営者として著名な人たちを挙げてみよう。

■スティーブ・ジョブズ:Apple共同創業者でありCEO(2012年~2015年の時価総額世界ナンバーワン企業)
■ビル・ゲイツ:マイクロソフト共同創業者でありCEO(1999、2000、2003年の時価総額世界ナンバーワン企業)
■ラリー・ペイジ&セルゲイ・ブリン:Google共同創業者(現在はペイジが持ち株会社であるアルファベットのCEO。2016年には短期間であるが、Appleを抜いて時価総額世界ナンバーワン企業に)
■ジェフ・ベゾス:AmazonのCEO
■マーク・ザッカーバーグ:FacebookのCEO
■ラリー・エリソン:オラクルのCEO

もちろん彼ら以外にも、小説になりそうな経歴やエピソードを持つ経営者は数多い。ただ、ここでは、自分が創業し、経営した企業を何らかの世界一に押し上げた経営者ということで、彼らに注目してみよう。

世界が求める技術を見抜く力

彼らが映画や伝記にも描かれる理由の一つは、間違いなく「面白い経営者、激しい経営者」ということだろう。彼らは皆、優れた技術者であり、同時に強烈な個性とエゴと執念を持った人たちだ。そして、自分たちが作り出す製品やサービスに圧倒的な自信を持っている。

ここで言っている”優れた技術者”というのは、必ずしも”優れた発明家”であることを意味しない。よく知られた話だが、Microsoft飛躍のきっかけとなり、IBMのPCに採用されたOS、「MS-DOS」は、もともとは、シアトル・コンピュータ・プロダクツという中小企業からのOEM製品だった。

また、Facebookの場合は、彼らが成長する以前に、先行する大きなSNSサービスとしてFriendster(フレンドスター)やMyspace(マイスペース)が存在しており、ザッカーバーグがSNSの概念を具体化したわけではない。そもそもFacebookは、ハーバード大学時代にザッカーバーグがかかわっていたConnectUという企業から、「自分たちが考えたSNSのアイデアとソースコードを盗んだ」として訴訟も起こされている(結果はザッカーバーグが勝ったが、判決は「原告はFacebookの株式6500万ドル分を受け取ることで和解すべき」というものであって、必ずしも全面勝訴というわけではない)。

ジョブズにいたっては、「『優れた芸術家はまねをし、偉大な芸術家は盗む』とピカソは言った。だからすごいと思ってきたさまざまなアイデアをいつも盗んできた」という名言を残しているくらいである。

しかし、発明家ではないということが、技術者として優れていないということではない。彼らは、実際の経済で通用する技術は何か、自分たちの製品・サービスがさらに発展させていくためには、どのような技術が必要か……ということに関しては、非常に優れた洞察力を有していた。

そして、こうした技術を”自分でつくる”ことには拘泥せず、外部から人を招くなり部下にゆだねて開発していったのである。

こうした技術・製品の代表的なものとしてはMicrosoftのワード、エクセルといったOfficeのアプリケーション群、Googleのアドワーズ、アドセンスといった広告サービス、Amazonのアマゾンの「推奨(レコメンデーション)エンジン」、AppleのiPod、iPhone、iPadなどがある。これらの経営者たちは”どこに注力すべきか、どの技術を製品化すべきか”を見抜く目が非常に優れていたのである。

攻められても守れない創業経営者たち

ビジネスに対する苛烈なまでの執着心と競争心も、彼らに注目が集まる理由の一つだ。

ジョブズが、その激しい自我と強烈な自己主張ゆえに1985年から1996年までの間、Appleを追放されていたのはよく知られた話だし、Amazonでは、ベゾスの強烈すぎる個性と社員への要求によって、多くの幹部が長続きせず会社を去っている。

普通は、このように強烈な経営者は、メディアや株主、金融機関、あるいは従業員から敵視され、長くその地位にとどまれない。

確かに、技術革新が緩やかで、業界順位が1つ2つ逆転するのに5年も10年もかかるような産業では、組織の融和性を重視し、社員のやる気を出させ、技術開発なども市場の動向を見ながら慎重に投資していく方が企業は安定するだろう。

しかし、どうもIT分野というか、技術革新の激しい成長分野では、そういう融和的なリーダーでは会社の成長はおぼつかないようである。少なくとも”世界一”を目指すような企業のリーダーは、ときに批判されるくらい苛烈でなくては、企業を引っ張っていけないのではないか。

考えてみれば日本もそうであった。本田宗一郎の強烈な個性は有名だし、ソニー創業者の井深大と盛田昭夫のコンビはGoogle創業者の2人を思い起こさせないでもない。

逆に、ジョブズやベゾス、ペイジらが、今日の日本の大企業の経営者になったとして、成功するかどうかは定かではない。彼らは”攻め込む”ことは得意だが、維持すること、守ることは必ずしも得意ではないように思われる。株主や金融機関などと対立して追放されそうな気もする。

株式を肥やしに成長するIT企業の戦略

最初に掲げたアメリカの代表的なIT企業は、今、世の中で盛んに主張されるコーポレートガバナンスやCSR、情報公開や株主重視とは無縁なようにも見える。AppleやGoogleの秘密主義は有名な話だし、グーグルにいたっては、株式を「議決権あり」と「議決権なし」に分けて、外部株主の意見で経営が左右されないような措置まで取っている。

また、Amazonが創業以来配当をしたことがなく、Googleも今のところ無配である。かつてはMicrosoftもAppleも無配であった。

考えてみればこれは大変なことかもしれない。株主たちを満足させるためには、これらの企業は株価の上昇によってしか報いることができないのである。そのためには持続的な成長が必要になるし、よほど自社を成長させることに自信がなければ取り得ない戦略である。

また、創業者たちは多くの場合、大量の自社株式を保有しているのだから、配当をすれば自分の所得はケタ違いに増える。実際、日本でも、また世界でも、いわゆる役員報酬(給料)は低く抑えているが、多大な配当収入で実は大金持ち……という経営者はいくらでもいる。

しかし、AmazonもGoogleも配当をしない代わりに、その資金を「成長のための投資にあてる」ことを公にしている。これは株主を軽視しているだけととらえられがちだが、実は、自分の所得も投資にあてて成長を目指しているともいえるのだ。

日本に革新的な経営者が生まれないのは何のせい?

世界を席巻するIT企業の経営者たちは、いずれも一癖も二癖もある剛腕ぞろいであり、彼らだからこそ、ここまで企業を引っ張ってこられたのは確か。ジョブズ亡き後のAppleが、今までのような革新的な成長企業であり続けられるかどうかは不明だ。

しかし、それ以上に問題なのは日本の状況だろう。何社かのベンチャー企業は、売上高で数千億から1兆円を視野に入れられるところまで成長してきている。しかし、その数はあまりに少ない。そして新進の企業たちは、ことあるごとに金融機関や証券会社の介入によって、挑戦的な投資や技術開発を行うのが非常に難しくなっている。

AIやIoT、FinTech(フィンテック)など、新しいITの成長分野が目の前に広がっているが、果たして、そこで世界に飛躍できる日本企業は登場してくるだろうか。そもそもそのようなことができる経営者はいるのか? 決して楽観視できる状態ではない。

日本は「個性×参謀」のコンビ型

 

現在の日本で、強烈な個性を持つ創業経営者と言えば、ソフトバンクの孫正義氏や、ファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井正氏などだろうか。

孫氏は2016年6月、ニケシュ・アローラ氏という後継者を退任させ、柳井氏も以前、外部から招聘した玉塚元一社長を辞めさせ、自分が復帰している。決して褒められたことではないが、その強烈なリーダーシップで結果を出し続けているのだから、企業群を率いることには長けているのだろう。

僕の取材経験からも、成熟した大企業を率いる社長と、創業期から成長期を迎える企業を率いる社長はまったくタイプが違うと思っている。ただ、日本社会では、狂信的な技術者にはそれを補う相棒が必要な気がする。

ソニーの盛田昭夫氏(優秀な営業)と、井深大氏(優秀な技術者)のコンビはソニーを世界的な企業に育てたし、ホンダの本田宗一郎氏には藤沢武夫氏という名参謀がついていた。発明王・豊田佐吉氏の息子、喜一郎氏(トヨタの創業者で技術者)には、販売の神様・神谷正太郎氏がいた。

IT業界ではないが、文化の違う日本的な経営には強烈は個性とともに、名参謀が必要なのではないか。とは言っても、最近の日本の経営者の中には、そもそも強烈な個性を持った人が先の2人くらいしか見当たらないのも事実なのだけど。

 

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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