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世界を浸食するIT 破壊と創造の産業

2016.11.10

企業

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企業の時価総額を指標にしたとき、現在の世界トップランキングには多くのIT企業が名を連ねる。少し前まではエクソンモービルなどのエネルギー系や、ゼネラル・エレクトリックといったコングロマリットが上位を占めていたが、何が変わったのか。そこには、浸蝕性の高いIT業界特有の性質が関係しているようだ。

御三家が台頭 目まぐるしく変わるIT業界の覇権

世界の企業の時価総額ランキングにおいて、2000年以降で世界一であった企業は、ここ4年がApple、その前の5年がエクソンモービル(ただし2010年だけはペトロチャイナ)、そして、その前の6年のうち4年がゼネラル・エレクトリック(GE)、2年がMicrosoftとなっている。

結局、軍需産業から金融までを網羅するコングロマリットであるGEを除けば、石油エネルギーとITの企業が世界一を取り合っているわけだが、ここに来て、IT企業の勢いが増してきている。

特に、2015年から2016年にかけてGoogle、Amazon、Facebookといった、いわばインターネット御三家の勢いが目立つ。2016年8月末の米国市場での時価総額を見ると、なんとIT企業がトップ5を独占。これは、ITバブルが喧伝された1997年~2000年代初めにもなかった状況だ。

■ 1位:Apple

■2位:アルファベット(Googleの持ち株会社)

■3位:Microsoft

■4位:Amazon

■5位:Facebook

もうひとつ、IT分野で注目すべきは、これらの企業の中で最も古いMicrosoftが1975年の創業であり、Appleは1976年、Googleが1998年、Amazonは1994年、Facebookにいたっては2004年と、創業10年~40年の企業が、世界トップ10にまで上り詰めているということだろう。

実は、ここに挙げた以外のIT企業も何回かこのランキングで1位になっている。IBMは1980年代まで世界一の常連だったし、インターネットブームのときにはシスコシステムズが、そしてその前後にはMicrosoftが時価総額世界一となっている。日本のバブル絶頂期の1989年には、NTTの時価総額が世界一だったこともある(これは日本の株価全体が高かったことによる特異現象だろうが)。

これだけ業界上位の会社が入れ替わっているのもIT分野だけ。今やシスコはランキング36位、IBMは41位、NTTはトップ50にも入っておらず、かつての1位企業の凋落も激しいのだ。

新興企業が大企業を凌駕する世界

しかし、なぜ、IT企業はこれほど高く評価され、かつ、その入れ替わりが激しいのだろうか? それを考えたときに、1997年にハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が唱えた「イノベーションのジレンマ」が思い起こされる。

簡単に言えば、「技術パラダイムが大きく変わるような技術革新が起きるときに、従来の技術での成功者は、彼らが正しい経営をしていても、否、正しい経営をするがゆえに新しい技術の時代の覇者にはなれない」というものである。

これは、おそらくIBMのケースを考えるとよくわかる。言うまでもないが、1980年代までのIBMは世界最大のコンピューターメーカーであり、世界市場の5割以上を席巻し、利益の8割を支配していたと言われている。

しかし当時の大型コンピューターは、1台数億円~数十億円もする高価な機械であり、それを導入できたのも、いわゆる”大企業”だけだった。そこにパソコン革命が起きた。

インテルによってマイクロプロセッサーが開発され、1台数十万円程度のPCでも、一応は、コンピューターとしていろいろな計算や情報処理ができるようになった。ただ、その性能はIBMの大型コンピューターとは比較にもならない程度のレベルであり、また、1台の販売によって得られる売上げも利益も、文字通り”何桁”も違っていた。

したがって、当然だが、IBMの顧客はパソコンなどに注力するよりも、大型コンピューターの性能を上げることを求めたし、IBMの株主たちは、大型コンピューターに集中して、大きな売り上げと利益を得ることを優先した。それはそうだろう。1万台近いPCの売上げが、やっと大型コンピューター数台程度の売上げにしかならないのだから。

しかし、PCは、それまでコンピューターなどとまったく縁のなかった個人や中小企業に確実に浸透していった。それだけではなく、「ムーアの法則」※1に導かれた半導体の性能向上によって、パソコンの性能が急激に高まっていった。

そして、その結果、PC市場は大型コンピューター市場をはるかに凌駕するまでに成長し、IT市場の覇者の立場はIBMからマイクロソフト、そして半導体メーカーであるインテルに移っていったのである。

※1 ムーアの法則

インテル創業者の一人であるゴードン・ムーア博士が、1965年に自らの論文上で唱えた「半導体の集積率は1年半から2年で2倍になる」という半導体業界の経験則。理論的根拠があるわけではないが、過去には概ねこのスピードで技術は進歩してきた。
ただ、最近は、半導体の消費電力や発熱、微細加工技術の困難化と膨大な開発費の問題などで、ムーアの法則の限界が近づいているとも言われている。

PCからスマホ・タブレットが主役に

ところが変化はこれにとどまらない。情報処理を行う端末の主力が、PCからさらにタブレットやスマートフォンに移り、また、インターネットが登場し、普及していくことによって、”ITを使う時間”の主力が、一つの端末で独立して作業をするよりも、ほかの人々との情報交換や情報の共有を行うことに移ってきたのだ。

考えてみれば、私たちがPCの前で黙々と表計算や文章を作成している時間よりも、メールのやり取りをしたり、SNSを見たり書き込んだり、ネットで調べ物をする時間の方がはるかに多くなっている。もちろん会社勤めで、社内での事務仕事が中心の人たちは、まだまだPCに触れている時間が長いだろう。しかし、世の中一般の個人まで視野に入れると、もはやPCはIT社会の主役ではないと言っても間違いではない。

そして、この時代になって、スマホやタブレットの世界の主役としてAppleやGoogleが、そしてインターネットの世界の主役としてAmazonやGoogle、Facebookが急伸してきた。つまりITの世界では、市場での技術パラダイムを一変させるような破壊的技術革新が頻繁に起こってきているのだ。

これは、例えば、自動車の分野の基本技術である「内燃機関」の技術が、1886年のダイムラーベンツによるガソリン自動車の発明から130年間、基本的には変化していないことと比べると大きな相違であり、この変化と成長の激しさが、IT業界が”世界一の企業”を次々と産み出している原動力でもある。

物理法則の制約を受けないIT技術

なぜIT分野ではこんなに変化が速いのだろう? その背景には、デジタルの世界では物理法則による制約が少ないということがありそうだ。

アナログの世界では熱や重力と慣性、摩擦などのさまざまな物理法則との闘いがあり、新しい技術が出現したとしても、それを実用化するまでには膨大な障害を克服しなければならない。

つまり、自動車のエンジンの出力を十倍にして1000馬力のエンジンを開発し、それを使った自動車を造ろうと思ったら、それだけの燃料の爆発に耐えるエンジン材料の開発、ピストンとシリンダーの間で発生する摩擦の制御、爆発の熱への耐性などさまざまな問題を解決しなくてはいけない。

仮にエンジンができたとしても、その動力を伝えるギアやクランクシャフトの強化、強大な動力を地面に伝えるためのタイヤの開発など、気が遠くなるような数の課題を解決しなければならない。

ところが、ITの世界を見ると、この10年、20年の間に半導体の価格当たり性能は何万倍にもなっているし、通信回路の伝達能力も何万倍にもなっている。つまり、デジタルの世界では、その進歩を制約する物理法則の壁が著しく低かったといっていい。この結果、新しい技術が登場し、それを実用化するまで時間が非常に短くなった。

考えてみれば、デジタル通信の革命であるインターネットが登場したときに、「まだまだ安定しない、不確実な技術で、仕事にはとても使えない」と言った人がいた。実際、2000年頃には、まだ日本の通信の王者であるNTTはISDN※2を主力の通信技術に据えていた。しかし、今日の光インターネットの通信速度は、ISDNの2万倍にもなっている。これだけの変化が起きるときに、いくら安定しているからといって、古い技術を使おうという人はいないだろう。

※2 ISDN

Integrated Services Digital Networkの略。交換機・中継回線・加入者線まですべてデジタル化された、公衆交換電話網。NTTがサービスをしていたINS64などがよく知られているが、通信速度がMAX128キロビット/秒と、この1000倍、1万倍の通信を可能とする光インターネット網などと比較すると、決定的に通信速度が遅く、NTTも2025年までにサービスを終了すると発表している。

 

他産業もかき回す!IT技術の影響

もう一つIT技術の大きな特徴を掲げるとしたら、この分野での技術革新は、他産業に多大な影響を与えるということだろう。下に挙げるのは、流通業(小売)と広告業の日米の代表的な企業とIT企業の過去10年の売上げ数値を比べてみたものである。

<広告代理店収入>

■電通(連結):約178億ドル(2006推計)→128億ドル(2015/12期)
■オムニコムグループ:約110億ドル(2006推計)→153億ドル(2014)
■Google:約106億ドル(2006公表)→745億ドル(2015)

<小売り・流通売上高>

■Amazon:約101億ドル(2006推計)→1070億ドル(2015)
■シアーズ(百貨店、連結):約563億ドル(2005公表)→251億ドル(2016/1期)
■セブン&アイ(連結):約390億ドル(2006公表)→496億ドル(2016/2期)

10年前には、日米の代表的広告企業と同程度の売上げしかなかったGoogleは、今や、その5倍程度の売上げを記録。同じく小売業には、10年前には代表的企業の5分の1程度の売上げしかなかったAmazonが、2倍~4倍の売上げを記録している。利益で比べれば、この差はもっと拡大する。

これ以外にも、出版業やマスメディア、金融業などに、IT技術によって構造変革を余儀なくされている企業は数多い。IT技術の革新がほかの技術と比べて、インパクトが大きいことがわかる。

センサー&製造技術で日本企業の巻き返しなるか

そして、ITの世界の技術革新は、いまだ終わる気配を見せていない。先日の将棋ソフト不正使用疑惑で注目されたが、AI(人工知能)の進歩は日進月歩で、2045年には人間を凌ぐという説もあるし、自動車の自動運転などのIoT(Internet of Things)分野の進歩はとどまる気配もない。

考えてみれば大型コンピューター時代は、世界チャンピオンのIBMと曲がりなりにも競い合う立場だった日本企業は、PCからモバイル&インターネット時代へと進むにつれて、どんどん存在感がなくなっている。IoT時代には、日本が得意といわれているセンサー技術や、製造技術が再度重要になってくるが……。日本企業が再び逆襲する日は来るのだろうか。

日本のIT企業が集約されれば世界を席巻することも

 

かつて都市銀行と呼ばれる銀行は13行もあった。北海道拓殖銀行が潰れ、それぞれのグループに吸収合併され、現在までにメガバンクは3行に集約された。

電機業界も以前は世界に通用するメーカーが両手でも足りなかったが、三洋電機やシャープは解体、外資の手に落ちた。自動車も三菱は日産に買われ、スズキとトヨタが手を組む時代だ。損保もメガは3社になった。

これほどまでにたくさんの企業がグローバルに展開できていたことの方が奇跡で、ようやく世界と戦えるだけの合従連衡が起きつつある。

IT業界ではそう簡単ではないだろうが、もう少し淘汰され、集約が進めば、日本の技術力で世界を席巻することは不可能ではないと思っている。しかし、それには、税制や規制緩和など、政治の改革も必須だが。

 

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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