銀行主導のスマホ送金アプリ「Money Tap」が日本のキャッシュレス化を牽引

2018.3.14

経済

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銀行主導のスマホ送金アプリ「Money Tap」が日本のキャッシュレス化を牽引

日本のキャッシュレス化は世界に遅れているといわれるなか、SBI Ripple Asiaを中心とした金融機関の連合体が、国内外為替の一元化に向けた動きを活発化。分散型台帳技術(DTL、ブロックチェーン)を用いたスマホによる送金アプリ「Money Tap」の今夏リリースを目指す。

日本のモバイル決済の利用率は数%

世界ではキャッシュレス化 が進んでいる。最も進んでいるのはスウェーデンといわれており、スウェーデン中央銀行によると、2015年に国内で使われた決済手段のうち現金の占める割合はわずか2%。商店だけでなく銀行での現金取り扱いも少ない。クレジットカードやデビットカードに加え、2012年にリリースされた、スウェーデンの6つの銀行が共同開発したモバイル決済アプリ「Swish(スウィッシュ)」の普及の影響が大きいようだ。

また、中国ではテンセントの「WeChat Pay(ウィーチャットペイ/微信支付)」やアリババの「Alipay(アリペイ/支付宝)」が普及し、世界各国でスマホを使った決済が広がっているが、個人消費における決済手段の約半分を現金が占める日本では、クレジットカードやSuica・楽天Edyといった電子マネーの利用が多く、モバイル決済の利用率は数%にとどまる。

そんななか、日本における次世代送金システムの商用化に向け、自ら動いていこうという意思によって、「内外為替一元化コンソーシアム」(以下、コンソーシアム)という金融機関の連合体は生まれた。

全国61行が参加する金融機関の連合体

2016年10月、SBIホールディングス傘下のSBI Ripple Asiaを中心に地域金融機関やインターネット専業銀行等を含む42行によって発足したコンソーシアムは、個別の銀行が取り組むことができないインフラそのものを議論していくもので、2017年7月時点で61行が参加することになった。

SBI Ripple Asia代表取締役・沖田貴史氏によると、世界200カ国以上で国際送金に使われる金融システム「SWIFT(スイフト)」や国内の金融ネットワークは、利用時間の制限、コスト、システムの概念などにインターネット以前の仕組みが使われていることもあり、非効率な部分があった。あらゆるものがデジタル化され、グローバル化される世の中では、銀行に代表される金融システムにもイノベーションが求められるようになってきたという。

コンソーシアムの目的は“効率的な決済”を実現すること。そのために分散型台帳技術(DTL、ブロックチェーン)などを活用し、[国内外為替の一元化][24時間リアルタイム決済][送金コストの削減と新市場の開拓]を目指している。当初は15行程度の予定がここまで増えたのには、「多様化によるニーズの変化やブロックチェーンなどの新たな技術に対する興味が高かったことも要因のひとつに挙げられる」(沖田氏)と。

SBI Ripple Asia株式会社代表取締役・沖田貴史氏

コンソーシアムは、「RCクラウド」と呼ばれる国内外為替を一元的に扱う決済プラットフォームを構築し、実証実験を行なってきた。その成功を受け、今度は商用化に向けて、ITシステム、内外為商用化、仮想通貨やブロックチェーンなどの利用に関するさまざまな検討を推進。

そして2017年11月には、米Ripple社のブロックチェーン技術を用いた法人向けソフトウェアソリューション「xCurrent」 を実装した商用版「RCクラウド2.0」が完成。当初は「RCクラウド」の構築のみを行なう予定だったが、商用化を見据えた検討のなかで、スマホによる送金アプリ「Money Tap」を構築するに至った。

画期的な送金アプリ「Money Tap」

「Money Tap」は、[早い][安全][便利]をキーワードにしたキャッシュレス送金アプリ。24時間365日、リアルタイムに送金することができ、銀行とAPI連携し指紋認証などの生体認証で送金が可能。ネーミングが示す通り、数タップで送金が完了し、銀行口座を用いた送金だけでなく電話番号やQRコードにも対応した手軽さが魅力だ。

家族や仲の良い友人、または自分のものであっても銀行口座の番号を覚えていることなど無いが、スマホがあれば電話番号はわかるし、電話番号を知らなくてもQRコードで送金できるため、今の生活スタイルにとても合っている。もちろん、自分から自分への送金も可能。

操作性は高く使い勝手も良いが、利用者にとって最も大きなメリットは手数料がほとんどかからなくなること(ただ、実際の手数料は各銀行が設定するため異なる可能性がありそうだ)。

手続きの簡略化は、利用者のメリットだけでなく金融関係のコスト低減をもたらす。それを可能にしているのは、「決済」という単機能に絞っているため。今後は、各銀行がリリースしているアプリに組み込まれることでより多機能なものが実現されていく予定で、将来的にはATMや銀行窓口業務においても、「Money Tap」のDTLで構築したネットワークを活用することが可能になるという。

「使い勝手とセキュリティを両立するアプリ。DTLを使った新たな金融ネットワークの最初のアプリといえます」(沖田氏)

銀行が取り組むことに分がある

こうしたインスタントペイメントと呼ばれる小口決済システムの火付け役は、金融機関ではなくVenmo(ベンモー、現在はPayPal傘下) という米ベンチャー企業がさきがけと言われている。

中国のアリババ、テンセント、米Facebook、Apple、Amazon、Squareなど、銀行の業務領域を侵食するネット大手の“破壊的サービス”は脅威だが、スウェーデンの「Swish」やアメリカの「Zelle」など、それら対抗するように銀行が連合して展開するサービスも登場している。

「銀行のサービスは必要だけれども、銀行は必ずしも必要とされているわけではない。Fintech企業のサービスは、資金決済法に準拠しているため、プリペイドのバリューに置き換えて送金するやり方が主流。そのため出金ができなかったり、出金する際に手数料がかかったりするケースがあります。『Money Tap』は銀行主導の決済ソリューションですので、銀行口座をそのまま使うことができます。UXと合わせてもFintech企業と遜色のない、むしろより優れたものをご提供できるのではないかと思います」

今後、「Money Tap」は、住信SBIネット銀行、スルガ銀行、りそな銀行の3行が先行商用予定で、2018年夏をめどにサービス展開を目指す。その後はコンソーシアム参加行を中心に随時増加。

また、国内為替だけでなく、国外為替の機能の追加も議論されているほか、ネットショッピングの送金、飲食店での割り勘、アルバイト代の日払いといった個人間決済での利用が想定されている。

このようなフリクションレス(摩擦のない)決済によっていずれキャッシュレス化が実現すれば、利便性の向上とともに社会コストの低減が見込まれる。また、それらを前提とした自動決済店舗などのサービスの普及や、まだ存在しない新事業の創出も期待できるかもしれない。