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アサヒの欧州ビール事業買収は「スーパードライ」ブランド海外普及拡大の布石となるか

2017.01.10

企業

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アサヒグループホールディングス(以下、アサヒGHD)は、2016年10月、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー 以下、ABインベブ)から英国のSABミラー社が保有していた西欧ビール事業の一部を買収した。ビールメーカー3社と販売会社1社を約2945億円で取得する大型買収だ。続けて12月には、ABインベブからチェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの東欧5カ国で展開されるビール事業を買収することも発表。それらは欧州で中長期的に安定した事業基盤を獲得すると同時に、アサヒビールの主力ブランド「スーパードライ」の海外展開を推し進めることにつなげるという。その戦略とは?

欧州ビール事業主要銘柄

ペローニ ナストロ・アズーロペローニ ナストロ・アズーロ[イタリア]
イタリアのナンバーワン・メーカーが送るプレミアムビール。口当たりが爽やかですっきりとした味わい。イタリア料理との相性がバツグン。ターゲットは洗練された20~30代の男女。

グロールシュ プレミアムラガーグロールシュ プレミアムラガー[オランダ]
2種類のホップを用いたプレミアム・ピルスナービール。軽い苦みとバランスの取れた味わいが特徴。ターゲットはオープンマインドを持った人。クリエイティブで自ら考える人。

ミーンタイム ロンドン・ペールエールミーンタイム ロンドン・ペールエール[イギリス]
カスケードホップとセンテニアルホップ、ケントゴールディングホップを使っており、ホップの複雑な味わいやシトラスの香りが特徴。苦みを楽しめるが、後味はさわやか。

収益性の高いプレミアムビール事業の買収で”稼ぐ力”を強化

今回買収が完了した西欧ビール事業の年間販売数量は合計約5700万箱(1箱=12.66L)で、アサヒGHDの国内ビール事業の約3分の1強に相当する。イタリアでシェア・ナンバーワンを誇るペローニ、創業400年の歴史を持つオランダのグロールシュ、新興ながら勢いのあるイギリスのミーンタイム。いずれもプレミアム(高級価格帯)ビールに強みを持ち、収益性の高い事業を展開している。

アサヒ

また、買収合意した東欧ビール事業では、年間販売数量は合計2億5000万箱の規模を誇り、チェコ、ポーランド、ルーマニア、ハンガリーの4カ国のビール市場でシェア1位、特に一人当たりのビール消費量が世界一のチェコにおけるシェアは4割を超えている。単純合算すると3億箱を超える事業規模だ。

買収の狙いは、アサヒGHDが中期経営方針にうたう「持続的成長を目指した”企業価値向上経営”を深化させるために国内収益基盤の盤石化と国際事業の成長エンジン化による『稼ぐ力』の強化を行う」ことにある。

アサヒGHDの酒類事業は、EBITDA(税引前利益に特別損益と支払利息、減価償却費を加算した値)が売上高に占める比率が24%と高い。ABインベブの39%に次ぎ世界の大手ビールメーカーの中で2位につけている。

買収した西欧事業は、2016年3月期実績の売上高約860億円(1ユーロ=115.5円で換算)に対し、EBITDAマージン率は約21.6%に上る。また、前年に比べても売上高と利益が共に1割以上伸びている。また、買収合意した東欧ビール事業でも、2016年3月期実績でEBITDAマージン率は約30.1%を誇り、ともに高い収益性のある事業だ。

ペローニはイタリアのシェアトップであるだけでなく、イギリスやオーストラリアなどの海外でも人気。ペローニの高級ブランド「ナストロ・アズーロ」は、イギリスの「スーパープレミアム」カテゴリーで首位に立っているし、グロールシュもオランダでは2位のシェアを持つ。ミーンタイムは新興クラフトビールメーカーとして年率50%ほどの急成長ぶりだ。

アサヒ2

プレミアムビールの市場自体も拡大基調にある。世界のプレミアムビール市場規模はビール市場全体の約2割程度だが、レギュラービールに比べ、欧州では成長率が高い。例えば、イギリスではビール市場全体の数量ベースは微減するなか、金額ベースは3.5%増と、数字からも消費者の高級志向が読み取れる。

欧州向けスーパードライを内製化して拡販狙う

買収した事業の拡大と並んでアサヒGHDが期待するのが、主力ブランド「スーパードライ」の欧州展開の加速だ。現在、欧州事業はロンドンに統括支店を構え、生産はイギリス、ロシア、チェコでライセンス生産を行っている。

今回の西欧ビール事業買収に伴い、アサヒGHDは統括会社としてアサヒヨーロッパをロンドンに新設。2018年を目標に、買収した現地の工場でスーパードライの生産を行っていく予定だ。

小路明善社長はロンドンで現地社員たちと意見を交わすなかで、「現地社員からアサヒの技術や品質、マーケティングに対する関心の高さ、学ぼうという姿勢を感じた」といい、研究開発や生産・品質管理、マーケティングなどさまざまな場面でのシナジーに期待を寄せている。

アサヒ3西欧ビール事業について都内で会見したアサヒGHD・小路明善社長(2016年11月24日)。

ペローニの工場は、SABミラー傘下時代にもグループ上位の品質評価を得ていた。グロールシュも2004年に工場を更新し、最新鋭の設備を揃えている。優れた生産拠点を使った内製化により、品質や鮮度の管理をこれまで以上に徹底するとともに、工場の稼働率を高めて収益性を上げることが可能だ。アサヒGHDはさらに販路も利用しながら、高品質なスーパードライを拡販する考えだ。

プレミアムビール・メーカーとしてのポジションを堅固に

スーパードライは、海外ではプレミアム価格帯のビールとして売り出し中。スーパードライを中心とするアサヒブランドの海外ビール売り上げは、2011年に約550万箱だったのに対し、2016年は1000万箱に迫る勢い。品質への評価も高く、イギリスやアメリカ、ベルギーの国際ビール品評会で各賞を受賞している。

スーパードライの販売数量は、欧州では2015年実績で100万箱程度。特にイギリスで人気が高く、54万箱を売り上げている。スーパードライのテイストやメタリックシルバーの缶デザインなどが、都市部の消費者層に受けているようだ。今後も家庭用と業務用の両輪で拡販を進め、欧州での売り上げを早期に倍増させることを目指す。

アサヒ4

「メーカー再編が進む市場環境のなかで、当社は規模を追求していくのではなく、世界のプレミアムビール市場で独自のポジションを取りたい」(同社広報)。

アサヒGHDは、世界の各地域でプレミアムブランドを多く保有し、展開する企業として、世界市場での立ち位置を確固たるものにしていく考えだ。

アサヒビール公式ホームページ

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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