ストーリーで飲む! 初めての欧州ビール in 新橋ビアライゼ

2018.5.29

社会

0コメント
ストーリーで飲む! 初めての欧州ビール in 新橋ビアライゼ

写真/ゆきぴゅー

「ペローニ・ナストロ・アズーロ」、「ピルスナー・ウルケル」、「グロールシュ・プレミアム・ラガー」……。外国産ビールの銘柄だが、それぞれどこの国で作られているビールか知っているアナタはちょっとしたビール通だ。アサヒビールは、この4月から3銘柄の国内販売をスタート。早速、3銘柄が飲めるお店があると聞きつけ、サラリーマンの聖地・新橋に向かった。

世界中で醸造され飲まれているピルスナービールの元祖

着いたところはビール通から絶大な支持を得るビアホールレストラン「BIER REISE(ビアライゼ)’98」。お話を伺ったビアマイスター松尾光平さんは、毎日カウンターに立ち、とっておきの一杯をサーブする、この道30年の大ベテラン。

そんな松尾さんが「私自身、大好きなビール」と紹介するのが「ピルスナー・ウルケル」だ。チェコのピルゼンという街で作られているこのビールは、世界中で親しまれる黄金色をしたピルスナービールの元祖として知られている。

ピルスナー

ビールのスタイルのひとつ。現在、世界中で醸造され、飲まれているメインストリームのラガー(下面発酵)ビール。1842年にチェコのピルゼンという街で誕生した。

「ピルスナー・ウルケル」。カウンターに座るお客さんにビールを渡すとき、松尾さんが銘柄を言いながら必ずグラスの底を持っていたのが印象的だった。

「ピルスナー・ウルケル」は、チェコの麦とチェコのホップを使って、チェコの人たちがチェコの水で作っている地産地消のビール。向こうではどこのビアパブに行っても見かけるチェコでは知らない人はいないナンバー1のビールだ。ちなみに、チェコは国別一人あたりのビール消費量が24年連続1位という統計がある世界一ビール好きの国。実に日本人の約3~4倍に当たる量だ。

「現地のガラス職人さんなどは、お昼休みにウルケルを飲んでもいいと言われているらしいですよ」と話す松尾さんは、「ウルケル」を製造するプルゼニュスキー プラズドロイ社の本社やピルゼンにある醸造所へも何回か訪れたことがあるそうだ。

ビアライゼでは、「ピルスナー・ウルケル」を4月から樽詰めで置くようになった。これには松尾さんも「ビールを注いで30年になりますが、『ウルケル』をレギュラーで出せて毎日飲めるなんて信じられません」と目を細める。

「BIERREISE’98」代表取締役社長の松尾光平さん。かつて東京・八重洲にあったビアホールの名店「灘コロンビア」でビール注ぎの名人といわれた故・新井徳司氏のお弟子さんだ。スラリとした長身で物腰がやわらかい紳士的な印象を受けた。

正統派のビール好きが好む「ウルケル」は常連客の認知度高し

「うちはビール好きのお客さんが多いので『ウルケル』の認知度は高いですよ。8割くらいの人は知っているんじゃないかな。3杯飲む人だったら必ず1杯は飲むビールですね」(松尾さん)

カウンターに座った常連さんは、もちろん「ピルスナー・ウルケル」がどこの国のどういうビールかはご存知だ。「このビールはなんといっても苦味と甘みと香りのバランスが絶妙なんです。飽きずに、ずっと飲み続けられるビールですね」とグラスを傾けながら話してくれた。

ライブ感を味わえるカウンター席。目の前に立ってビールを注ぐビアマイスター松尾さんから、ビールにまつわるうんちくを教えてもらえるかも?

とはいえ、4月から樽詰めを飲めるようになったことを知らない人はまだ多い。「えっ、なんでウルケル飲めるの?!」とびっくりするそうだ。

「飛行機で12時間かけて行かないと飲めないビールを日本で、生樽詰めで飲めるというのはビール好きにはたまらないのでしょう。ヨーロッパの高級ビール、それもピルスナーの元祖を飲めるという喜びがあるんじゃないでしょうかね」(松尾さん)

そんな話を聞きながら実際に松尾さんがサーブしてくれたピルスナー・ウルケルを飲んでみると、なるほどおいしい! 普段飲んでいる国産ビールより苦味が主張するが、その後にほのかに口の中に広がる香りがまろやかなのだ。

「ウルケル社は注ぎ方にこだわりを持っている会社」と松尾さん。タップの開け方と締め方、グラスを持つ手の高さや角度などチェコで実際に学んできたという。

 

こちらは「新しく入った金髪美人」と紹介してくれた「ピルスナー・ウルケル」のタップ(ビールサーバーの注ぎ口)。「まだなかなか言うことを聞いてくれないんだけれど、そのうち馴染んでいくでしょう」

コロナやヒューガルデンなど、近年はさまざまな場所で輸入銘柄を目にするようになったが、実は日本国内での輸入ビールの市場はわずか1%程度といわれる。外でも家でも圧倒的に国産ビールが飲まれているということになる。

実際、私も普段飲むのは国産ビールばかり。そのわずか1%の市場において、根っからのビール好きが集まるここビアライゼでの温度差にはちょっとびっくりした。

JR新橋駅のSL広場から徒歩3分ほどのところにある「BIERREISE’98」。オープンは1998年で今年20周年を迎えた。店名の「ビアライゼ」はドイツ語で“ビールの旅”を意味する。

瓶がかわいいオランダの「グロールシュ」、高級志向のイタリアの「ペローニ」

チェコのナンバー1のビール、「ピルスナー・ウルケル」の話が長くなってしまったが、ビアライゼでは他の2ブランドはどういう位置づけなのだろうか。まずはオランダ最古のビール会社、ローヤル・グロールシュ社が製造する「グロールシュ・プレミアム・ラガー」から。

「うちではボトルでピルスナーを出していますが、こちらも人気があるビールですよ。なんといってもこのボトルがオシャレでしょう」(松尾さん)

「グロールシュ・プレミアム・ラガー」と「ペローニ・ナストロ・アズーロ」は瓶のみの提供。「グロールシュ」は、今では珍しいスイングトップボトルがおしゃれ。ポンッと開けるその瞬間から楽しめるビールだ。

今では珍しいスイングトップ式のボトルを採用しているグロールシュは、瓶をシュポンッ!と開ける瞬間がたまらない。「このビールはボトルを開けるところから物語が始まるんです」と松尾さんは言う。なんだかワクワクするではないか!

一方、イタリア語で“青いリボン”という意味の「ペローニ・ナストロ・アズーロ」は、イタリア産のトウモロコシを原料に醸造される爽やかな飲み心地が特徴のプレミアムビールだ。

「このビールは食事をしながら飲むのにぴったりのやわらかいビールです。ボトルもかわいいし味も良いので、若い人にウケるでしょうね」(松尾さん)

この「ペローニ・ナストロ・アズーロ」と前述した「ピルスナー・ウルケル」は、世界50カ国以上で売られている人気ブランド。そしてアサヒビールの看板商品である「スーパードライ」も世界50以上の国と地域で販売され、支持を得ている。

「ピルスナー・ウルケル」(缶)の製造ライン。

 

ペローニの工場外観(イタリア・パドヴァ)。

アサヒグループホールディングスは、この3つのビールをグループ会社となった欧州各社の販路に乗せて“プレミアムビール”というカテゴリーの世界ブランドにしていくのが狙いだ。

ストーリーを伝えてあげれば、お客さんはついて来てくれるはず

今回、アサヒビールが国内販売を開始した「ペローニ・ナストロ・アズーロ」、「ピルスナー・ウルケル」、「グロールシュ・プレミアム・ラガー」を、それぞれタイプが違うビールと松尾さんは言う。

「アサヒさんは良いバランスで手に入れたなぁと思います(笑)。あとはこれをどう売るか。どれも素晴らしいビールだからこそ、どこでも飲めるということにはしないはず。置く店にこだわっていくのでしょうね」(松尾さん)

ピルスナービールの元祖「ピルスナー・ウルケル」を樽詰めで入れているお店は少ない。良い注ぎ手を必要とするビールなので、どこでも置けるというわけにはいかないのだろう。

輸入ビールというカテゴリーでは、ストーリーが必要なのだとアサヒビールの担当者。もちろんおいしいことが前提だが、どういうこだわりで造られているか? どんなオンリーワンの歴史があるのか?など、消費者に、そのブランドが持っている世界観を伝えていくことが大切だという。

そのビールを買ったこと、飲んだことで得られる体験や満足感が重要視される、いわば“モノよりコト”な流れがビール業界にもあるのだ。「グロールシュ・プレミアム・ラガー」の格好良いスイングトップボトルを開けるのは、誰々と行くあのお店!というようなストーリーは、消費者のビール選びに大きく影響することになるだろう。

ビアライゼ名物のメンチカツは、上質な挽き肉と粗めにカットされたタマネギの甘みが際立つ一品。濃厚ブラウンソースとの相性もバツグンで、添えられたポテトサラダと茹でキャベツもビールに合う。

ビールとは“胸膈を開く為に妙なり”

1842年にドイツ人醸造士がチェコのピルゼンにやってきてビールを造ったところ、硬水と軟水の違いで、それまでヨーロッパで造られていた褐色のビールとは違う美しい黄金色をしたビールができあって当時の人々は驚いた……。それが今や世界中で愛飲されているピルスナーの始まりという唯一無二のストーリーが、「ピルスナー・ウルケル」にはある。

私は今回、それを教えてもらって飲んだからこそ、異国のビールをよりおいしいと感じたのだろう。

「若い人の“ビール離れ”の話を聞きますが、作り手の物語を伝えてあげれば、お客さんは食いついてくるんじゃないかなと思います。だから私はそれがどういう物語があるビールなのか、知らない人には少しお話をして、知ってもらってから味わってもらうようにしています」(松尾さん)

わずか1%の輸入ビールの市場も数年後には大きく変わっているかもしれない、そんな気がした松尾さんの言葉だった。

福沢諭吉は「西洋衣食住」という著書の中で、ビールとは“胸膈を開く為に妙なり”と書いている。つまりビールは胸の内を明かして飲むのにふさわしいお酒だということ。たしかにビールは仲間とワイワイやりながら飲むのが一番おいしい。さあ今年も、冷えたビールをゴクリと飲み干す瞬間がたまらない季節がやってきた。