通称「マルエフ」はアサヒのフォーチュンビール

2018.06.04

経済

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写真/ゆきぴゅー

2018年を「ビール改革元年」と位置づけ、積極攻勢に出ているアサヒビール。新たな醸造管理技術の導入による、泡立ちとキレ味がさらに向上した「アサヒスーパードライ」を4月から順次出荷しているほか、5月15日から「スーパードライ」の前身といえる「アサヒ生ビール」の缶タイプを期間限定で発売しているのをご存知だろうか。通称「マルエフ」と呼ばれるこのビール、全国でも限られた飲食店でしか飲めなかった知る人ぞ知る銘柄なのだ。

100年超の歴史を持つビール銘柄

アサヒビールの前身である大阪麦酒社が1900年に発売した日本初の瓶入り生ビールがルーツといわれる「アサヒ生ビール」。私も期間限定発売された日に、いつも行くスーパーで見かけたので缶を買って飲んでみた。

びっくりするほど爽やかで飲みやすく、すうぅと喉に入っていく感じ。食事と一緒にゴクゴクといくらでもいけちゃう印象だ。この「アサヒ生ビール」は通称「マルエフ」と呼ばれ、100年を超えて受け継がれる銘柄として知られる。

アサヒ生ビール(F)

マルエフとは社内で使う開発記号、隠語のこと。Fは幸運や富を意味する「FORTUNE(フォーチュン)」からきている。ちなみに「スーパードライ」の開発記号はFX。

今回の「アサヒ生ビール」は缶商品の期間限定発売だけではなく、これまで首都圏・近畿圏・四国を中心とした一部地域でのみ販売してきた樽生の展開エリアを3月から全国に拡大。5L入りの樽生も新発売した。一部の飲食店でしか飲めなかった伝説のビールが、地域拡大、品種拡大され再び盛り上がりつつある。

ビアライゼでの「マルエフ」人気はすさまじかった!

「アサヒ生ビール」はビール好きの間ではどんな位置づけなのだろうか? 東京・新橋にあるビアホール「BIER REISE(ビアライゼ)’98」のビアマイスター松尾光平さんに聞いてみた。どうやらビアライゼでは「マルエフ」の呼称のほうが浸透しているらしい。

ビールを注いで30年のビアマイスター松尾光平さん。

「『マルエフ』はたしか『スーパードライ』より1、2年前に出たんですね。当時、業績が傾いていたアサヒさんが社運をかけて出したビールで、これが相当売れたんですよ。私の“おっしょさん”(ビアホールの名店「灘コロンビア」の故・新井徳司氏)も〈これは良いビールだ。間違いなく売れる!〉と言って気に入り、樽詰生が出てからはずっとそれ一筋でした。

その後“おっしょさん”も亡くなり、八重洲にあったお店もなくなりましたが、私は今でも引き継いだこのビールサーバーでアサヒ樽詰生を出し続けています。なぜって、このビールおいしいんですよ」(松尾さん、以下「」は松尾さんの発言)

松尾さんが“おっしょさん”と呼ぶ故・新井徳司さんから受け継いだ氷冷式サーバーは、昭和24年から使われ続けている年代物。「しっかり手入れしていけばちゃんとおいしいビールを出してくれるものですよ」と松尾さん。

20年前の開店当初から「マルエフ」を樽で出しているビアライゼでは、“とりあえずの1杯”として一番多く飲まれているビールだ。「本日の樽生」と書かれたメニューの一番上に載っていることからもその人気がうかがえる。

「逆に『スーパードライ』はうちでは1年に50杯くらいしか売りません。年に1樽しか出ないんです」と、アサヒビールの担当者が聞いたら喜んでいいのかわからないような言葉が飛び出したことも付け加えておこう。

大ヒットビール「スーパードライ」の陰に

「スーパードライ」とは違う酵母を使って造られているという「マルエフ」は、“コクがあるのにキレがある”というコンセプトで1986年に売り出された。

「味としては真逆なので、“コクがあるのにキレがある”という表現は本来、矛盾するものなのですが、私は文武両道みたいでいいなと。造る方は大変だったと思います」

社運を懸けて発売された「マルエフ」はヒットする。ところが、翌年発売された「スーパードライ」は“キレ味冴える辛口”として売り出され、「マルエフ」を上回る勢いで大ヒット。アサヒは後発の「スーパードライ」に力を入れることになり、その後、「マルエフ」は缶と瓶で売られることはなくなった。大阪の吹田市の工場のみで造られてきた樽詰が全国約1600店舗の飲食店でのみ提供されてきて、今に至る。そのうちの一軒がビアライゼということだ。

「おそらくアサヒさんは“カニバリ”(=共食い)を恐れたんでしょうね。この『マルエフ』は、そんな経緯もあって『スーパードライ』という化け物みたいなビールの後ろに隠されちゃった形なんです。だけどビール好きには支持があった」

真のビール好きが集うビアホールレストラン「BIER REISE(ビアライゼ)’98」@新橋

短い栄華の後、ひっそりと愛されてきた「マルエフ」が持つ“物語”には惹かれるものがある。ビアライゼで不動の人気だというのがわかったような気がした。

「そのビールにどのような物語があるのか、知らない人にはちょっとお話してから味わってもらうようにしています」と言っていた松尾さんのことだから、きっと何百回と繰り返し伝え続けてきたに違いない。

ビアライゼでは20年前の開店当初からずっと「アサヒ生ビール」を出している。

以前ビアライゼを取材した際、チェコナンバーワンのビール「ピルスナー・ウルケル」のことを聞いた常連さんは「マルエフ」についてこう話す。

「『マルエフ』と『ウルケル』はアルコール度が4.5%と4.4%とほぼ同じで、日本の標準的なビールよりは少し弱め。だからどちらも飲み続けられるんです。ここではいつも『マルエフ』を2杯飲んでから『ウルケル』にいきます」

»ストーリーで飲む! 初めての欧州ビール in 新橋ビアライゼ

これを聞いて私は、今度ビアライゼに行ったらカウンターに座って、迷いなく1杯目は「マルエフ!」と注文しようと心に決めたのだった。

最後に、松尾さんに聞いたビールのおいしい飲み方を皆さまにも伝授。まず、ビールを飲むときは泡をすすってはいけない。泡は飲まず残すイメージで。そして頭はあまり傾けずに、グラスの底を持ち上げるように飲むといいらしい。

実際やってみるとグラスに鼻を突っ込む形になるので、必ず鼻の下に白いヒゲができる。そしてビールはなるほど、おいしいのであった。

メニューに“アサヒが誇る伝説のビール”と書いてある「マルエフ」は435mlで650円。