航空業界はLCCの時代? 鉄壁の3大アライアンスにも異変

2018.6.9

経済

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航空業界はLCCの時代? 鉄壁の3大アライアンスにも異変

LCC(ローコストキャリア=格安航空会社)の急伸は、航空業界に強烈な価格競争を引き起こし、FSC(フルサービスキャリア=既存航空会社)も戦略変更を余儀なくされている。さらには、鉄壁を誇ってきた3大航空連合(グローバル・アライアンス)の結束にもじわじわと綻びを与えはじめている様子。このまま時代はLCCに傾くのか。

FSC航空連合の綻び

世界の大半のFSCが組するスターアライアンス(SA)、ワンワールド(OW)、スカイチーム(スカイ)の「3大航空連合」の狙いは、コードシェアリング(共同運航)によるコスト削減が主軸で、仲間同士が路線・機体を相乗りし、少ないコストで新路線を開設するのと同じ効果を期待している。

加えて燃料や資材などの購入や販促も共同で進めたり、予約システムなどを一本化したりすればスケールメリットによる恩恵も大きい。利用客の囲い込みアイテム「マイレージサービス」(FFP)もその一種。世界中を網羅する航空連合のFFPは利用客にとって魅力的で、エアライン側としては顧客囲い込みの強力な武器となる。

3大航空連合(グローバル・アライアンス)

スターアライアンス

  • 盟主:ユナイテッド航空
  • 加盟社数:28社
  • 就航国:190カ国以上
  • 主な加盟航空会社:ANA、中国国際航空(エア・チャイナ)、ルフトハンザ、スカンジナビア、タイ国際、シンガポール、トルコ、アシアナ(韓)

ワンワールド

  • 盟主:アメリカン
  • 加盟社数:14社
  • 就航国:150カ国以上
  • 主な加盟航空会社:JAL、英国航空、キャセイパシフィック、カンタス、イベリア、フィンランド、マレーシア

スカイチーム

  • 盟主:デルタ
  • 加盟社数:20社
  • 就航国:180カ国以上
  • 主な加盟航空会社:エールフランス、大韓航空、アエロフロート、KLM、中国南方、中国東方、チャイナエアライン(台湾)、ガルーダ(インドネシア)

ところが既存料金よりはるかに安いLCCが世界中に羽を広げはじめると、FFPによるポイント加算よりも、LCCを使った方がお得という状況が生まれており、FFPの神通力も徐々に弱まりつつある。

事実、欧州の空では市場のほぼ半分を薄利多売のLCCが握るまでに伸張、日本でも国内線の乗客のほぼ2割はLCCを利用するほどに。世界の空はここ20年余りの間、3大航空連合に収斂、FSCの大半がいずれかに加盟し、3陣営による三つ巴の戦いというのが当然の姿だった。だが、LCCの急成長によってこの枠組みに綻びが見えはじめている。

3大航空連合はそれぞれ、SA=ユナイテッド、OW=アメリカン、スカイ=デルタ、といったふうに、アメリカの3大メガキャリア(巨大航空会社)が盟主となっているのだが、加盟エアラインを徐々に増やし規模を拡大したのはいいものの、逆にメンバーの総意を取り付けることが難しくなり、その結果、相対的に盟主のメガキャリアの意向が通りやすくなる、という弊害も。

フットワークの軽いLCCがFSCの足下を脅かしている現在、航空連合内の利害調整に時間を取られ、思い切った対抗策を打ち出せないようでは本末転倒。

こうしたことから、同じ航空連合内の航空会社と新たに2社間の提携を結んだり、さらにはライバルのアライアンスの会社と提携を試みたり、といった動きも活発化。2016年にSA加盟のANAがスカイのベトナム航空に出資した件や、OW加盟のJALがスカイのエールフランス-KLMと共同運航に乗り出した例はその典型だ。

LCCのアライアンスが拡大中

一方、LCCではこれとは正反対に航空連合を結成する動きが出はじめている。2016年1月には世界初のLCCアライアンス「U-FLY」が発足、当初は南海航空グループ傘下のLCC4社が結集したに過ぎなかったが、その後、韓国のLCCも合流。

また、これに触発されたように、同年5月にはアジア太平洋を守備エリアとするアライアンス「バリューアライアンス」が誕生。バニラエアのほか、タイ、フィリピン、シンガポール、オーストラリア、韓国6カ国・7社が結集した。こうした動きは今後も拡大するはずで、今後、世界の空は……、

  • 綻び始めたFSCの3大航空連合
  • 中小LCCによる航空連合
  • エアアジア(マレーシア)、ノルウェー・エアシャトル(ノルウェー)、サウスウェスト(アメリカ)、ライアンエアー(アイルランド)など頭一つ飛び抜けた独立系LCC
  • FSCが主導するLCC

の4タイプが複雑に絡み合った、まさに“混戦模様”となる雲行きだ。

LCCの弱点、原油価格高騰の悪夢

急成長のLCCだが、もちろん弱点はある。最大のアキレス腱は、じわじわと上昇する原油価格だ。

高料金のFSCを利用できない新興国の巨大な潜在需要客を掘り起こし、世界の人的交流や観光需要、さらには経済活動に寄与したLCCの貢献度は計り知れない。だが、コストを極限まで圧縮して低料金を全面に掲げるLCCのビジネスモデルの場合、極端な話、原油価格が1ドルアップしただけでも収益率が大きく悪化しかねない。

一般に航空会社の燃料費は営業費用全体の20~25%といわれ、最も大きな出費であるのが普通。この値上がりはFSC、LCC両者に等しく悪影響を及ぼすが、前述のようにLCCは新興国の中所得~低所得、さらには「安いから乗ってみようか」という先進国の利用客がメーン。彼らにとって数千円の運賃(燃油サーチャージ代も含む)アップは致命的で、利用客は一気に減ってしまうはずだ。

翻ってFSCの場合、ファースト/ビジネス・クラスといった利益率の高いビジネス客や富裕層が上得意。数千円の運賃アップ程度で彼らが搭乗を諦めるとは思えない。こうなるとFSC側が有利かもしれない。

6月現在、原油価格 (WTI先物)は1バレル=65ドル水準を推移。2017年の夏頃が同40ドル代だったことを考えると、1年で1.5倍強に高騰。2大原油輸出国サウジアラビアとロシアの減産やアメリカの在庫調整、イラン、北朝鮮、シリア情勢などが主な押し上げ理由で、今後、原油価格がさらに上向く状況となれば失速するLCCが続出、という悪夢も現実味を帯びてくる。

このように、現在の世界の空は、群雄割拠、下克上の戦国時代そのもの。市場が急拡大していても、視界良好で追い風が吹く“ブルースカイ”というよりは、むしろ熾烈な戦場の“レッドスカイ”と言った方がいいかもしれない。