アサヒグループホールディングスが掲げる、環境経営における気候変動に関する新たな中長期目標「アサヒ カーボンゼロ」。国内グループ企業において持続可能な地球環境の実現を目指すという計画とはどのようなものなのか。進行中の施策、取り組みを追った。
脱炭素に向かう世界情勢
地球温暖化をはじめとする環境問題の解決について、世界の潮流は“脱炭素”に向かっている。地球温暖化の要因となる温室効果ガスは、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどから成り、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やすことで大気中に大量に放出される二酸化炭素は温室効果ガスの中でも大きな割合を占める。つまり、化石燃料に頼らず、再生可能エネルギーの活用を進めることが温室効果ガスの削減につながるのだ。
脱炭素の動きが加速したのは、2015年12月にフランス・パリで開催された「第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)」。そこで採択された「パリ協定」では、世界的な平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃以下にする長期目標とともに1.5℃以下に抑える努力目標が設定され、各国に目標を達成するための計画と行動の実施などが定められた。
同年9月に国連サミットで採択された2016年~2030年までの国際目標「持続可能な開発目標(SDGs)」も踏まえて、2018年4月にアサヒグループが掲げたのが、温室効果ガス排出量削減の目標「アサヒ カーボンゼロ」だ。
2050年までに温室効果ガス排出量“ゼロ”へ
「『アサヒ カーボンゼロ』では、まずは日本国内のグループ会社から取り組みをはじめ、中間目標としては2030年に温室効果ガスを30%削減(2015年基準)。最終的な目標としては、2050年までに温室効果ガス排出量“ゼロ”を目指していきます」
そう語るのは系列のアサヒプロマネジメント株式会社CSR部の環境グループリーダーを務め、エネルギー管理士でもある倉重武志氏。
温室効果ガス排出量は、具体的にはサプライチェーン(原料調達・製造・物流・販売・廃棄など一連の流れ)から発生するものを指す。このサプライチェーン排出量は3つの“Scope”で構成されている。Scope1は自社(工場・オフィス・車など)での燃料の使用による直接排出。Scope2は自社が購入した電気・熱・蒸気の使用による間接排出。Scope3のバリューチェーンからの排出は、原材料調達から輸送、販売、廃棄、リサイクルなどScope1、2を除いた部分が該当する。2030年までに温室効果ガス排出量30%削減というのは、各Scopeでそれぞれ割り当てられたミッションとなる。
あらゆるフェーズでCO2削減を目指すアサヒグループの施策
目標達成に向けてイメージしていることは大きく3点。
「1点目はさらなる省エネ化。2点目は再生可能エネルギーの積極的活用。3点目はバリューチェーン全体での取り組みです。特に2点目と3点目はアサヒグループのみではできないので、さまざまなステークホルダーと情報交換し、連携をしながら進めていく必要があります」(倉重氏)
省エネについては、主に自社工場での省エネ設備の導入や商品の製造工程の見直しを行い、エネルギー効率を高めていくという。例えばビール工場で麦汁を煮沸する際に出る熱や蒸気を回収して、再び熱源として再利用する「排熱回収、再利用」、ビールを缶に充填する前段階で冷熱を回収して別工程で有効活用する「冷熱回収」などだ。
ほかにも総合エネルギー効率を高めるコジェネレーション(熱電供給)設備、石油からよりクリーンな都市ガスへの燃料転換なども進めているという。
コジェネレーション(熱電供給)
エネルギー源より電力と熱を生産し、供給するシステム。例えば、燃料(ガス)の燃焼により発電を行うと同時に燃焼排熱も利用して蒸気を作ることでエネルギーを有効利用できる。
再生可能エネルギーの活用については、「グリーン電力証書システム」を採用。「グリーン電力」とは風力、太陽光、バイオマスなど自然エネルギーにより発電されるだけでなく、CO2を発生させないという“環境付加価値”も付いた電力。「グリーン電力証書」とは、その環境付加価値のみを証書として発行し、販売されるもので、通常使用している電力の使用量と同等の量を購入すればCO2オフセット(相殺)となり、グリーン電力を使用しているとみなされる。
このシステムを活用し、2009年から「アサヒスーパードライ(350ml缶)」及びギフトセット内のビール類の製造にグリーン電力を活用。現在もCO2オフセット商品として全国で販売されている。また、本社ビルで使われる電力もまたグリーン電力証書システムですべてCO2オフセットされている。
「『アサヒスーパードライ』は食品業界では初めて製品の製造に自然エネルギーを活用しました。活用したグリーン電力量は累計約1.8億KWhと大きなCO2削減効果を生んでいます。今後も再生可能エネルギーはCO2削減に大きく寄与できる手段として、いろんなスキームを活用できるように推進していく予定です」(倉重氏)
バリューチェーンにおける取り組みについては、容器包装では軽量化や簡素化、物流では同業他社や異業種との共同配送やモーダルシフト。商品販売では自動販売機やビールサーバーの省エネ化などが挙げられる。
「物流においては、他社と協力することでCO2削減のみならず効率化など大きな効果が得られています。自動販売機などの機器については、よりCO2排出が少ない省エネタイプを展開中です」(倉重氏)
容器包装については、容器資材すべてに植物由来原料を使用した「三ツ矢サイダー」PET1.5Lを限定発売しているほか、2018年5月にアサヒ初となる“ラベルレス”のミネラルウォーター「アサヒ おいしい水 天然水 ラベルレスボトル」PET600ml・PET1.9Lが登場した。
「『アサヒ おいしい水 天然水 ラベルレスボトル』は環境負荷の低減を目的として、ペットボトルに貼付しているロールラベルをなくした商品です。ラベルに使用する樹脂量を90%削減できただけでなく、廃棄物量も削減、また従来のようにラベルをはがして分別廃棄する手間がなくなったことで、分別リサイクルの推進にもつなげています」と語るのは、系列のアサヒ飲料株式会社コーポレートコミュニケーション部の松沼彩子氏。
外装ダンボールに商品表示を印刷し、一箱単位での扱いで、現状はAmazonでのテスト販売のみとなっている。
容器資材すべてに植物由来原料を使用した「三ツ矢サイダー(1.5L)」は、2015年から環境負荷低減への取り組みとして毎年数量限定で発売されてきた商品だ。石油由来の樹脂ではなくサトウキビやトウモロコシといった持続可能な植物由来原料を使うことで、環境負荷低減、ひいてはCO2削減へとつなげている。2018年はさらなる環境負荷低減を目指し、ペットボトルとキャップは約30%、ラベルは80%の割合で植物由来原料を使用している。
「9月25日より32万本限定で発売中の『三ツ矢サイダー』のラベルには、業界初となる米ぬか由来の『ライスインキ』を採用しました。従来の石油由来のインキに比べ、さらなる環境負荷の低減が期待できます」(松沼氏)
アサヒが脱炭素に取り組む意義
アサヒグループの脱炭素に向けたさまざまな取り組みを紹介してきたが、同社は「カーボンゼロ」以前にも、2000年に「環境基本方針」を制定、2010年には「環境ビジョン2020」として、「低炭素社会の構築」「循環型社会の構築」「生物多様性の保全」「自然の恵みの啓発」の4つのテーマを柱として環境問題に取り組んできた。
「酒類・飲料・食品を主体とするわれわれアサヒグループは、麦芽やホップ、果汁などの農作物や水といった自然の恵みを享受しながら事業活動を行っています。気候変動、地球温暖化などの諸問題は会社の持続可能性にも影響します。また、グローバルの視点から見ても脱炭素は人類にとって避けられない課題であり、社会的価値の向上も含めて企業全体で取り組む使命があると考えています」(倉重氏)
2018年8月には「アサヒ カーボンゼロ」は「2℃目標」を達成するための科学的な根拠の水準を満たしたことから、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、国連グローバルコンパクト、世界資源研究所、世界自然保護基金らによる共同イニシアチブ「Science Based Targets イニシアチブ(SBTi)」の承認も取得した。
科学的な裏づけも取られたアサヒグループの“脱炭素”への取り組みに今後も注目していきたい。