「聞く力」「伝える力」が感動を呼ぶ 葬儀会館ティア流の人財育成

2018.10.16

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写真/小池 彩、ティア

東海地方を中心に事業を展開する葬儀会館ティアには、「ティアアカデミー」という冨安徳久社長の理念を基にした独自の教育プログラムがある。大事なのは「聞く力」と「伝える力」を習得すること。ただの葬儀ではない、遺族や残された人たちの感動を呼ぶ「感動葬儀」を手掛けることができる人財の育成術に迫る。

日本で一番「ありがとう」と言われる担当者を育てる使命

4大経営資源といわれる「ヒト・カネ・モノ・情報」の中で、葬儀会館ティアは、ヒトに最も高いプライオリティを置いている。葬儀業を“究極のサービス業”ととらえ、「日本で一番『ありがとう』と言われる葬儀社」をスローガンに掲げているからだ。そのため、葬儀を担当するセレモニーディレクターは、日本で一番ありがとうと言われる人財でなければならないと考えている。人材を「人財」と表すのにはそんな意味が込められている。

代表取締役社長の冨安徳久氏が1997年に創業した当初のティアは、「葬儀価格の完全開示」「適正な葬儀費用」の実現へ向け、業界の不透明な体質改善のため不条理な慣習と戦い、“葬儀業界の革命児”の異名を取った。そんなティアが創業以来、変わらず掲げている理念が「哀悼と感動のセレモニー」だ。そして、その理念を形にしたのが「感動葬儀」。故人の思い出をしのび、遺族をはじめ残された人たちが故人に感謝の気持ちを伝える場としての葬儀を目指している。

「ティアアカデミー」で講演する冨安社長。

「弊社には、代表・冨安の理念を伝える場として『ティアアカデミー』という教育プログラムがあります。葬儀に関する知識・技術の習得はもちろん、新卒社員にはビジネスマナーから教えます。中途入社の研修期間は1カ月、新卒は6カ月の研修期間を設けています。新卒は時間をかけて育てないと、その場しのぎで要領よく振る舞う人財になりかねません。最初に原理原則をしっかりと身につけてもらい、“型”を教えることで長い目での成長が期待できます」(人財開発部 部長代理・横井規浩氏、以降「」は横井氏)

剣道や茶道などで修業する際の段階を示す「守破離(しゅはり)」という言葉がある。最初の「守」は師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。人財育成でも守破離の守の部分を厚くしておかないと、後々いろいろなところで問題が噴出するという。新卒の研修に半年を費やすのは長いかもしれない。考えようによっては、会社全体の生産性が低くなりかねない。しかし、それを踏まえてでもヒトに投資する価値があるとティアでは考えている。

「人を感動させられるのは人だけです。お客様からいただく言葉も、会館の設備や祭壇の立派さよりも、葬儀を担当したセレモニーディレクターへの感謝の気持ちが大半です。お客様アンケートでも『○○さんが担当で良かった』と感謝の言葉を頂戴します。会社の成長を支えるセレモニーディレクターの育成が、人財開発部の責務です」

株式会社ティア 人財開発部 部長代理・横井規浩氏

性格診断で社員の個性を把握。育成と離職防止に役立てる

人材育成の難しさには、どこの企業も頭を悩ませているだろう。人を育てるといっても、考え方や価値観は千差万別。それでも、個性を大事にしながら、企業の理念や価値観に沿って行動できる人材を育てることが、組織として最大の効果を上げる近道といえる。

ティアでは、この難題に取り組むにあたり、新入社員一人ひとりのパーソナリティを把握するために性格診断から始める。診断を通して己の内面と向き合ってもらうのだ。

「性格診断の結果は本人にフィードバックします。自分の性格を知ることで、自己の内面と向き合い、それを磨き高めることができます。成長するには自らにコーチングする必要もあるため、コーチング研修を設けて成長の方法も学んでもらいます。ティーチングとコーチングの違いを知っていれば、現場に配属された際に先輩や上司から受けたアドバイスのとらえ方が変わります」

性格診断は学生が参加するインターンシップでも取り入れられている。

成長は、自分自身を知ることから始まる。言われたことをやるだけでなく、自ら考えて動く人財になるためには、自身の良い面・悪い面を客観的に把握して、どうすれば成長できるかを考えるマインドを形成することが大事だという。

加えて、性格診断で社員の個性をつかむことで、離職防止にもつながると横井氏は語る。

「教育は『教え育てる』と書きます。教えるのは1対多数で大丈夫ですが、育てるのは1対1でなければなりません。一人ひとり得手不得手があり理解力にも差があるため、新入社員の個性を把握して人財育成に臨まないと、離職につながります。そうなると会社としては積み上げてきたものをすべて失ってしまいますので、人財育成では、離職させないように配慮することも大切だと考えます」

離職防止は、会社の人事戦略において育成と同じぐらい重要。会社が社員の個性を知り、社員が自己分析できる性格診断は、そのリスクを減らす役割も担っているようだ。

「感動葬儀」の実施に欠かせない「聞く力」

企業が人材育成の中で最も重視し、かつ最も苦労しているもののひとつは「コミュニケーション力」の向上ではないだろうか。自社の事業を“究極のサービス業”と定義しているティアにとっても、社員のコミュニケーション力を高めることは人財育成の大きな目的だ。

ティアでは、コミュニケーション力を「聞く力」「伝える力」に分解して、仕事の中で必要なスキルとして教育している。

「一般的な葬儀を執り行うなら、ティアでなくてもいいでしょう。ティアの『感動葬儀』を選んでいただくには、ティアで葬儀をする価値や意味がなければなりません。そのためには、故人や遺族の思いを汲み取って、故人の人柄をしのぶことができるような葬儀をプロデュースする必要があります。だから、セレモニーディレクターには『聞く力』が不可欠なのです」

研修では、遺族へのヒアリングの仕方を繰り返し練習し、「感動葬儀」を執り行うのに必要な情報を聞き出す力を身につける。「聞く力」に限らず、コミュニケーション力を養うのは反復練習だ。

「それぞれの葬儀にセレモニーディレクターが正面から取り組んで、遺族の言葉を聞き、『感動葬儀』に向けて全力を出し切る。そうすれば毎回違う仕事になり、能力が向上するとともにやりがいも出てきます。つまらない仕事は離職者を増やします。仕事にやりがいを見出すマインドを育てるのも人財育成の目的。遺族に寄り添った葬儀がどれだけ価値があるかを理解すると、セレモニーディレクターの仕事は天職になるはずです」(横井氏)

遺族の悲しみに寄り添って「感動葬儀」を実現する「伝える力」

もうひとつのコミュニケーション力「伝える力」もなくてはならない。葬儀の参列者に遺族がお礼の気持ちを伝える会葬礼状の作成や、故人の思い出を話すナレーションなど、「伝える力」は思いのこもった葬儀をプロデュース際に力を発揮する。

「一般の葬儀にナレーションはありませんが、『感動葬儀』にはナレーションが効果的です。慣れるまではナレーションに不安を持つ社員は多いですが、徐々に力をつけてお客様から感謝の言葉をもらうようになると、自信になります。そうすると、より感動的なナレーションにするにはどうすればいいか試行錯誤するようになり、それがまた、やりがいとして感じるようになります」(横井氏)

「感動葬儀」では、喪主のあいさつも形式的な言葉を並べるだけではなく、故人への思いやさまざまな思い出を語ってもらう。すると、葬儀が特別なものになる。喪主から協力を引き出し、思い出を話してもらえるかは声のかけ方ひとつだと横井氏は言う。

「葬儀でしっかりと故人に思いを伝えられるかどうかで、遺族のその後の生活も変わります。悲嘆の気持ちを表に出すことは、グリーフケア(grief care)にもつながるからです。喪主のあいさつもそのうちのひとつ。セレモニーディレクターに『伝える力』があれば、声がけによって遺族が故人へ思いを伝える機会をつくって差し上げることも可能です。それはつまり、『感動葬儀』の実現にもつながるということです」(横井氏)

遺族の中には悲しみのあまり「感動葬儀」を拒否する人もいるという。そんなとき、悲しみに暮れている遺族の心の扉をノックして、前を向いてこれからの人生を歩んでもらう手助けをするのもティアの役割。だからティアの社員には、「聞く力・伝える力=コミュニケーション力」が欠かせないのだ。

「コミュニケーションにマニュアルはない」と横井氏。セレモニーディレクターの場合、遺族と向き合ったときにしか取るべき行動はわからないのだという。ティアが人財育成を通して社員に“考える土台”を形成するのは、正解がない「感動葬儀」に全力で向き合う力を備えるためにほかならない。