国境に連邦軍派遣でピリつく米国内の治安維持事情

2018.11.06

政治

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写真/John Moore

10月上旬に中米からアメリカを目指して移動を開始した移民キャラバンは、現在メキシコ内を移動中。10月末、トランプ米大統領が「不法移民流入阻止のため軍を国境に派遣する」と放った“爆弾発言”に、早くも国内から「暴挙」「違憲」との批判が上がっている。

軍隊による米国内の治安維持活動になぜ批判?

母国の治安悪化や貧困から逃れようと、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルなど中米諸国の住民が「移民キャラバン」を結成し陸路メキシコを縦断、アメリカ国境に押し寄せているが、その規模はすでに7000人にまで膨れ上がっているという。

これにトランプ米大統領が敏感に反応、最小でも約5200名、最大1万~1万5000人の軍隊を国境に配置して徹底阻止すると息巻く。作戦名は「忠実な愛国者(Operation Faithful Patriot)」だ。

陸上国境の警備を受け持つ税関・国境取締局(CBP)だけでは手に余ると判断、出動要請を受けた形での派遣で、あくまでも工兵や衛生兵といった後方支援を担う部隊や憲兵に限り、歩兵など実戦部隊は今のところ投入しない模様。

しかし、「民主主義」「州の自治」「シビリアンコントロール」を旨とするお国柄だけに、“不法移民流入阻止のお手伝い”とはいえ、軍隊が国内で事実上の治安維持活動を展開することに対し、国内では批判や疑問の声が早くも吹き出している。

アメリカ軍=「連邦軍」+「州兵」

「アメリカ軍」と一言で言うものの、厳密には「連邦軍」と「州兵」に大別される。「連邦軍」は一般的に呼ばれる米軍、つまりは「合衆国軍」で、連邦政府の長・大統領を最高指揮官とする正規軍。主たる任務はもちろん外敵から国土を防衛することだ。

これに対して「州兵」(National Guard)は、直訳すれば「国家(郷土)警備隊」で、その名のとおり州の住民の志願者で構成され、自分の故郷を守る軍隊。兵員の大半は本業を持ち、定期的に軍事訓練に励むというスタイルだが、連邦軍並みに武装され、自分の州で起きた暴動や天変地異などに対処するのが主たる任務。

イメージ的には日本の「消防団」に近く、通常は州知事の指揮下にあるが、連邦軍の予備兵力という性格も有し、いざというときには大統領権限で部隊を動かせる。

アメリカ国内の安全保障に対する考え方

アメリカは200年以上前に市民が自ら武器を取って宗主国・イギリスと戦い、独立を勝ち取ったという歴史を誇る。この理念は今の憲法でも「修正第2条」として息づいており、安全保障には民兵が必要で、このために国民は武器を所持する権利がある、とされている。加えて各州は合衆国政府=連邦政府に対して広範な自治権を有し、「自分たちの郷土は自分たちで守る」という考え方が基本。

州兵の起源は独立戦争当時の民兵や自警団だが、西部開拓時代は警察力も貧弱で広大な国土の秩序維持には連邦軍の力がどうしても必要だった。「ネイティブ・アメリカンに襲撃された町を助けるために第7騎兵隊(彼らは連邦軍)が駆けつける」というお馴染みの西部劇映画のシーンはまさにその典型だ。

だが、連邦軍が国内の治安維持で頻繁に出動するようになると、合衆国の理念である「民主主義」や「州の自治権」を脅かしかねない、という懸念が持ち上がり、曖昧だった連邦軍の国内出動にタガをはめた「民警団法」(PCA)が1878年に制定される。代わって民兵組織を「州兵」として近代化し連邦軍並みの強力な武装を施すことで、警察力を補助しようということになったわけだ。

連邦軍の国内出動に関する大統領権限は試行錯誤中

連邦軍の国内出動に関しては、その解釈をめぐり時の政権と議会、各州などが常にせめぎ合っている状況だが、第2次大戦後は、国内出動した軍隊のほとんどが州兵で、特に連邦軍が治安維持や警備のために国内で活動した事例は、リトルロック高校事件(1957年、人種差別の激しいアーカンソー州の高校に黒人の生徒を安全に通学させるため、アイゼンハワー大統領が連邦軍の精鋭・第101空挺師団の部隊を派遣して護衛)や、1992年のロサンゼルス暴動(治安維持のために連邦軍の陸軍、海兵隊を派遣)などごくわずかに留まる。

ところが、2005年のハリケーン「カトリーナ」による大惨事で被災地が無法状態に陥ると、「州兵でも手に負えない緊急事態の際には公共の秩序回復のために積極的に連邦軍を使うべきでは」との意見が噴出、これを受けて「2007年度国防権限法」 では、連邦軍の国内出動の要件を拡大、暴動・反乱や大規模災害、テロなどで公共の秩序維持が困難な場合は、大統領権限で連邦軍の実戦部隊も投入可能とした。

しかし、これに対して「大統領権限が強くなり過ぎる」との懸念が再び起こり、州兵を強化することで対処することや、「知事評議会」を設立し連邦政府と州政府との連絡を密にすることなどで、実質的に大統領の権限を縮小する方向に揺り戻すなど、今なお試行錯誤が続く。

実戦部隊投入で思わぬ“劇薬”に

さて、このような背景を考えてか、トランプ氏は連邦軍の実戦部隊を投入するか否か、慎重に瀬踏みをしているようにも思える。事実、移民キャラバンを「侵略者」 と決めつけ、「侵略行為は国家の緊急事態。だから国土防衛のために連邦軍の実戦部隊を投入するのは当然」との三段論法を展開しそうな素振りを見せたり、「不法移民が投石したら反撃する」と軍による実力行使を示唆したりして世論の顔色をうかがっている。

いずれにせよ今回の件は、11月6日の米中間選挙でトランプ氏が所属する共和党を優勢に導くため、彼の支持母体であり、不法移民急増に批判的な白人保守層に対する“ウケ狙い”であることは確か。

だが、仮に連邦軍の実戦部隊投入にまで話が進んだ場合、「大統領の暴走」だと反発する州が続出する可能性も。大統領2期目を狙うトランプ氏にとって、思わぬ“劇薬”に変貌する危険性をはらんでいる。