デジタルマネーで給与支払解禁は“銀行外し” 規制緩和のなかで問われる「銀行とは何か」
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デジタルマネーで給与支払解禁は“銀行外し” 規制緩和のなかで問われる「銀行とは何か」

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銀行にとってはショッキングな報道だった。厚生労働省は企業などがデジタルマネーで給与を従業員に支払えるように規制を見直す方針を固めたと、日経新聞が10月25日に朝刊一面トップで報じた。本規制の解禁は、2019年にも銀行口座を通さずにカードやスマートフォンの資金決済アプリなどに給与を送金できるようにするもの。いわば、“銀行の中抜き”“銀行外し”に他ならない。

「銀行」の中抜き、「銀行外し」

厚生労働省では、2019年に労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論に着手し、同年中にも労働基準法の省令を改正するという手回しのよさだ。厚労省の熱の入れようがうかがわれるが、そこには「省庁再編で分割論が俎上に載る厚労省が存在感を示しておきたい、という別の思惑も覗く」(メガバンク幹部)という冷めた見方もある。

そもそも今回の発案は、3月に東京都が規制緩和策として要望していた施策を、厚労省が取り込んだようなものだ。政府が進めるキャッシュレス化の波を厚労省が機敏にとらえたといっていいが、実現までにはハードルも残されている。

まず、デジタルマネー払いに対応する決済サービスを提供する企業は、資金決済ができる「資金移動業者」として金融庁に登録した上で、厚労相の指定を受ける必要がある。また、資金移動業者は預かった資金を100%以上保全する義務があるほか、給与送金は1回あたり100万円が上限となる。現状で条件を満たすカードやアプリはない。

金融庁のITを踏まえた法整備見直し

しかし、2025年までにキャッシュレス決済を現状の2割程度から4割への引き上げたい政府は、規制緩和に前のめりだ。舞台は、官邸が主導する「未来投資会議」にある。

同会議では、「誰でも、どこでも、キャッシュレスで支払・送金サービスを受けられる社会を実現するため、金融法制の見直し、金融機関との連携促進などを検討する」と謳われている。さらに、「銀行を介さなくてもスムーズに送金できるよう制度的障害を取り除く」と明記された。

この文面について、全国銀行協会の藤原弘治会長は、10月18日の記者会見で、「銀行のエゴを申し上げるつもりはないが、この記載は、銀行を介す・介さないということではなく、金融システム全体のあり方として利便性の高い送金サービスが安心・安全に提供されるべきという趣旨だと信じている」と述べた。藤原会長の“信じている”というフレーズに、銀行の忸怩(じくじ)たる気持ちがにじむ。

金融庁では今、ITの進展を踏まえた銀行の法整備の見直しが進められている。そこで問われているのは「銀行とは何か」である。少なくとも銀行の既得権益である“決済”はIT事業者により、急速な勢いで浸食されつつあることは確かだ。