2016年12月、自民党は、日本経済成長に向けた提言「中間報告」を発表した。これによって、平議員が推してきた「規制改革」が政策に組み込まれることになりそうだ。TPPのとん挫によって行き詰まり感のあるアベノミクスだが、新たな展開が期待できるかもしれない。
自民党が本気で進める経済構造改革
2016年12月上旬、自民党の「経済構造改革に関する特命委員会(茂木委員長)」の事務局長代理として、日本経済成長に向けた提言「中間報告」を取りまとめました。最重要施策に挙げているのは2つ。「地域中核企業支援政策の新展開」と「第4次産業革命の社会実装による暮らしの向上」です。
「地域中核企業支援政策の新展開」というのは、「地域経済好循環エコシステム」の構築を目指すもので、まず初めに、ある地域において地域外への販売力があり、資材の多くを地域内で調達する企業など地域経済を引っ張る「地域未来牽引企業」(仮)を抽出、認定します。
私がこれまでに言ってきた地域経済分析システム「リーサス(RESAS)」で抽出した「コネクターハブ企業」や、経産省のいう「地域中核企業」や「地域商社」、地方創生のベストプラクティスの中心的役割を担う法人などが、この地域未来牽引企業のイメージです。地域経済好循環エコシステムの構築は、今までのような企業単体支援ではなく、地域未来牽引企業とその取引先・関連先を含む全体を生態系と捉え、応援し、エコシステム全体の価値を向上させることによって、地域経済を活性化することを目指します。
地域の中核的企業&取引先が経済を牽引
政府が抽出した地域未来牽引企業とその取引先群(エコシステム)には、「税制」「補助金」「金融」「規制緩和」「地方創生交付金」など支援を重点的に投入します。初年度は300社(プラス取引群)程度を対象にする予定です。
また、この「地域未来牽引企業」は毎年公表します。公表することで民間が自律的に動く(例えば地域金融機関がその生態系への融資を増やすなど)ことを促すことにもなります。また、3年間で2000社程度を目指しますが、「地域未来牽引企業2017」「地域未来牽引企業2018」というように毎年更新し、新陳代謝もしていくので、一度認定されても翌年認定されるとは限りません。認定されたという名誉ではなく、その年その年で地域経済に最も貢献するポテンシャルの高い企業群を抽出したいと思います。
これまでどちらかと言うと大企業が引っ張ってきたアベノミクスですが、これからは地域の中核的な企業とその取引先(中小企業)も加わって日本経済を強力に牽引していくことになります。以上を実施するためにまずは1月から始まる通常国会において「地域未来投資促進法」(仮)の成立に万全を期したいと思います。
ビッグデータで地域の”稼ぐ力”を向上させる
この施策のポイントは、地域経済分析システムであるリーサスなどから得られるビッグデータも活用して、地域内外の取引を”見える化”し、地域経済の成長に最も効果的な企業を抽出するということです。
これまでの「補助金」は、政府がメニューを作り、応募してきた企業が条件を満たしていれば出すというものでした。今回の政策は一番効果が高い企業を抽出して、そこを”フルパッケージ”で応援します。つまり、地域経済という”カラダ”の「ツボ」を的確に突くことによって最大の効果を狙うことができます。
実効性があることに加えて、将来性も重要です。現時点でコネクターハブ企業の役割を果たしていても、年々売上げを大きく落としているとしたら、実はその企業を応援することが地域経済の構造転換を阻むことにもなりかねません。データを基にトレンドをしっかり見ていくことが大事だと考えています。いずれにしても、地域未来牽引企業の選定基準と選考方法が重要です。議論を加速していきたいと思います。
もうひとつのポイントは、グローバル経済圏をローカル経済圏に組み込むということ。国内の需要だけを取り合っていたらゼロサムになってしまいます。日本にいながらにして外需を取り込む政策をしっかりとその生態系にビルドインしなければなりません。
初年度200~300社程度から始め、3年程度で2000社まで増やし、投資拡大1兆円、GDP5兆円の押し上げを目指すイメージです。
規制ゼロのフリーゾーン特区!?
もう一つの最重要施策である「第4次産業革命の社会実装による暮らしの向上」というのは、いわゆるイノベーションのことです。
まずはイノベーションが起きたときにその技術を社会実装しやすい環境を整えることが必要ですが、”規制”がそれを阻むことがあります。規制を改革する方法には、「規制改革(全国一律規制緩和)」「国家戦略特区」「地方分権」などがありますが、今回の施策では、近未来技術などを社会実装するにあたって最適な方法を選択し、実現するまでの障壁を政府が責任を持って取り除きます。
そのために、政府に「近未来技術社会実装実現本部」(仮)を設置します。また、私がずっとやりたかった「規制ゼロのフリーゾーン特区」(仮)の設置も目指します。これは強烈な施策ですよ。中身は、石破茂地方創生担当大臣時代に、私が副大臣として大臣政務官の小泉進次郎議員さんと進めた「近未来技術実証特区」の強化版で”ハイパー近未来技術実証特区”と言ってもよいでしょう。イノベーションを阻害する古い規制に対し、強力な政務と官僚と有識者からなる最強チームが規制省庁と交渉して、リスクが顕在化しないように調整し、安全性を確保した上で、実装できるようにするというものです。
具体的な技術については、まず、自動走行システムは、人が介在しない完全自動運転「レベル4」を目指します。将来的には今のエコカーと同様に、自動走行車にも補助金や減税を導入することを積極的に検討していきます。
また、医療・介護分野にも最先端技術を導入していきます。通信が4Gから5Gになると、より高速・大容量、(人が多い場所でも)同時多接続が可能、低遅延(レスポンスが速い)になります。また、日本はFTTH(Fiber To The Home)といって、光ファイバーのカバー率が世界一大きいという状況があります。
そこに4K・8Kといった超高精細のテレビやドローンが入ってくれば、家のベッドがほぼ病院のベッドと同じになります。質の高い診療を受け、処方薬もドローンが運んでくる。手術はできないまでも、療養の世界は実現できます。
イノベーションを世界で一番起こしやすくする
さらにイノベーションを推進する施策として、”アワード型の研究開発”も提案したいと思っています。
例えば秋田の仙北市では、近未来技術実証特区として、完全自動走行(レベル4)のバスの実証実験やドローンレースのアジア大会を開催しました。それに加えて、国有林を活用して豚の放牧をやることが決まっていますが、クマがたくさん出る地域でもあります。
クマの個体認証やモニタリング、人里に出てきた場合の撃退方法などのミッションを与えて、全国からベンチャーを募ってコンテストを開催し、解決策を実現できれば、それを実装するというようなことを進めていけたら面白いと思います。近く、関係省庁を集め仙北市と議論したいと思います。
規制改革で”異次元の成長戦略”へ
個人的な見解ですが、私はフリーゾーン特区に手を挙げる自治体は、住民投票をするくらいの覚悟も欲しいと思います。フリーゾーン特区になれば、国と一体になって”超”近未来型の地域社会が実現できます。しかし、たまに実験中の自動走行の車があぜ道に落ちたり、ドローンが畑に落ちていたりするかもしれません。最低限の安全性は当然確保しますが、そういったことも少し許容してくださいということです。
アベノミクスにおける第3の矢の成長戦略、2つの柱は、自由貿易の推進と規制改革です。トランプ次期アメリカ大統領が選出され、TPPの展望も不透明ななか、自らの意思で深掘りできるのは規制改革の政策しかありません。そこで「近未来技術社会実装実現本部」(仮)や「規制ゼロのフリーゾーン特区」(仮)など今までの自民党では考えられないような”異次元の成長戦略”を目指しました。
今回の「中間報告」が今年の政府の成長戦略にしっかり位置づけされるよう、細部の制度設計を加速させていきます。
まずは地方が手を挙げること
特にIT分野の技術革新により、人々の生活は激変した。そこに法律(規制)が追いついていない。省庁は監督責任があるので、基本的には規制をかける側にいるが、それを、国民がより生活しやすく制度設計するのが政治の仕事でもある。現状は、理解度が足りない政治家も多々いるのだろう。
その点、平議員の知識や理解度は別格だ。夢のような技術も挙げられているが、実験段階ではすでに実現可能なものばかり。規制を取り払えば、一気に技術革新が進むものもある。規制改革の手続きは多いが、実現するための手順はシンプルで、国家戦略的特区で実験してみて、うまくいけば実装し、失敗したら次の手を打てばいい。
地方は、手をこまねいて過疎が進むのを待つよりも、秋田県仙北市や千葉県千葉市のように先進的なチャレンジをすべき。自分の地域を活性化させようとする地域がたくさん出てくることを願っている。
その一つひとつが成功していくと、自らが潤うだけではなく、日本全体が浮上できる。まずは地方が手を挙げること。チャレンジングな首長が増えるといいなあ。