LGBTの法整備をあきらめない 差別や偏見を放置しない社会に

写真:ロイター/アフロ

社会

LGBTの法整備をあきらめない 差別や偏見を放置しない社会に

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2021年5月、LGBT理解増進法案(性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案)について、自民党は国会への提出見送りを決めました。与野党の実務者が法案修正に合意したものの、自民党内の一部保守派の猛反発にあったことが要因です。世界的な差別解消の潮流のなか、日本は流れに逆行している状況です。LBGTの現状について考えてみたいと思います。

LGBTとは

LGBTとは、セクシャル・マイノリティの総称であり、女性同性愛者のレズビアン(Lesbian)、男性同性愛者のゲイ(Gay)、両性愛者のバイセクシュアル(Bisexual)、性別越境や性別違和のトランスジェンダー(Transgender)の頭文字をとって名づけられました。

また、LGBT以外にも自分の性や性的指向の定まっていないクエスチョニング(Questioning)などあり、単純に考えても「体の性別×心の性別×服装×性的指向+α」と多様なセクシャル・マイノリティが存在します。

認知度は高いがなかなか進まないLGBTへの理解

LGBT 総合研究所が行った「LGBT意識行動調査2019」によると、「LGBT」という言葉の認知度は9割を超え、5年前と比べて40ポイント近く上昇しています。また、日本のLGBT・性的少数者に該当する人は全体の1割。つまり日本においては、AB型の人、左利きの人、東京都の人口とほぼ同程度いるのです。

有名人でも、タレントや役者をはじめ、スポーツ選手や文化人、アーティスト、経営者のほか、国内外の多くの方がLGBTであることをカミングアウトしています。

さらに、同調査によると「誰にもカミングアウトしていない当事者」は78.8%にも上るため、われわれの周囲にもLBGTの方がいるが知らないだけという状況が推察されます。周囲に当たり前に存在するということですね。

一方、認知度は高い水準にあるものの、「LGBTに関する内容の理解率」は57.1%とまだまだ十分という水準ではありません。日本の教育では、2015年に文部科学省が「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」という通知を各教育委員会等に通知していながら、2017年の小中学校の学習指導要領では「性の多様性」について記載がされないなど、教育の段階での理解の機会は多いとは言えません。2021年現在の学習指導要領にも同様に記載はありませんが、教科書 レベルでは2019年度から義務教育で取り上げられるようになり、その後、中学および高校の多くの教科でLGBTに関連する記載が見られるようになっています。

私の周囲の人にLBGTについて聞いたところ8割の人が、「LBGTを知らない」か「LBGTについては知っているが内容がよくわからない」と答えました。多くの方がこれに該当するのではないでしょうか。

社会的な無理解が招く不都合

宝塚大学看護学部の日高庸晴教授の調査(2016年実施)によれば、職場や学校で差別的発言を聞いたことのある当事者は71.7%にも上るそうです。

また、ゲイ・バイセクシャル男性であることや自分の性指向がよくわからない人の自殺未遂のリスクが異性愛者と比較して5.98倍も高いという結果も出ています。

過去には、一橋大学のゲイの大学院生から告白を受けた男性が、友人に同性愛だと本人の許可も取らず暴露(アウンティング)し、ゲイの大学院生が自殺してしまう一橋大学アウンティング事件なども起きています。

また、パートナーが病気になっても家族ではないことを理由に病状を教えてもらえなかったり、ほかにも亡くなったときに相続できない、喪主として送り出せないなどの理由で訴訟が提起されています。

現在では、日常生活の差別のほかに、SNSを通じて、心無いヘイトに多くの当事者が苦しむ問題も起きています。

LGBT施策が多いほど心理的安全性は高まる

一方、就職や働く環境については、以前と比べてかなり改善はされ、GAPや日本コカ・コーラシステム、パナソニックなどの大手企業や、新経済連盟をはじめとするベンチャー企業を中心に理解が促進されています。

しかし、厚生労働省の「令和元年度 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」によれば「同業他社において性的指向・性自認に関する取組を行う企業が増加しているか」というアンケートには、「そう思わない」が45.3%、「どちらかといえばそう思わない」が30.7%と、企業の取り組みも少なく、まだまだ差別的な待遇や、周囲の無理解が多く存在しています。

私の友人でも、上司がLBGTを揶揄し同僚と笑っている姿を見て一部上場企業から外資系企業へ転職した優秀な人もいます。カミングアウトで内定取り消しや、女性の格好で働きたいという理由でベンチャー企業に転職した例や、海外に移住してしまった方もいるそうです。

また、少子高齢化が進む日本では、今後は今まで差別や不当な扱いを受けていた方が社会参画する共生社会の実現が必要不可欠です。障害者、女性、高齢者などには積極的に対策を行っていますが、LGBTに対してはまだまだ厳しいのが現実です。LGBTの方を正しく理解し、働きやすい、生活しやすい環境を作り日本社会で活躍してもらうことが共生社会実現に向けては必要不可欠です。

さらに、企業経営においてもLBGT施策を行うことで、優秀な人材の退職防止と確保につながります。LGBTと職場環境に関するWebアンケート調査「niji VOICE 2019」では、LBGT施策を行っていない企業の心理安全性(自分の考えを気兼ねなく発言できる雰囲気)が35.6%なのに対して、施策を5~11つ行っている企業の心理安全性が76.5%と、LBGT施策を行うほど従業員の心理安全性が高いという結果も出ており、LBGT施策が企業の組織強化に貢献するはずです。

法整備、世界では下から数えた方が早い

経済協力開発機構(OECD)が2019年に公表した、加盟各国の「LGBTに関する法制度の整備状況に関する報告書」によれば、日本はOECD加盟国35か国中34位、下から2番目です。また、性的指向による雇用差別を禁止している国は2019年時点で80カ国に上りますが、日本はこのような法律が整備されていません。

日本は経済大国であり近代的な民主国家と思っている方も多いと思いますが、このような現状でLBGTの方の人権や平等を守ろうとせず、差別や偏見を放置している日本は、民主的な近代国家と言っていいのか疑問が残ります。

国連で採択されたSDGsでもジェンダー平等を目標に掲げていますが、これには当然にLGBTも含まれています。世界が差別解消に動いているなかで、日本も国際社会の一員としてLBGTに対する差別解消に動く必要があります。

過去においては、2004年に「性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、生物学的・社会的に割り当てられた性別に一致しないことを理由に戸籍上の性別の変更が認められました。しかし、手術前提などの条件が付けられているため、希望しているすべての人が変更できるわけではありません。

現在では、省庁レベルでは厚労省や法務省などがLGBTの差別解消へ向けて働きかけています。また、各自治体で「同性パートナーシップ証明制度」や「ファミリーシップ証明制度」を続々と導入し、公営住宅への入居を受け入れたり、病院で手術に同意できたり、家族割引等の民間サービスが受けられるといった動きも増えています。

一方、政治家の「生産性がない」「法律で保護したら区が滅びる」「生物学的に自然に備わっている種の保存にあらがっている」などの、偏見からくる差別的発言が多数あり現在も続いています。

超党派の議連で検討されたLGBT理解増進法についても、当初はLGBT差別禁止法だったものが、LGBT理解増進法に弱められ、その上で保守派議員の反対で法案が提出されず棚上げされてしまいました。

棚上げになる直前には、法案提出に反対する保守派議員が、LGBTの経産省職員が差別を受けたとして国を訴えた件に際して、「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、女子陸上競技に参加してメダルを取るとか、ばかげたことが起きている」といった発言も。あまりに無知でレベルの低い発言に耳を疑いました。

果たして、自分の固定概念に固執して、現実を理解できず差別を放置しようとする人に政治を任せていいものか、政治家の資質に疑問を感じます。

自分らしさで差別や非難をされない社会に

もともと私もLGBTに対しては他人事に思っている一人でしたが、私の家族がLGBTであることがわかったことがきっかけでLGBTを理解することができました。そして、大きく考えが変わりました。

持って生まれた個性のために、幼いころから苦しむ姿を見て、現在の日本はLGBTに対して、あまりにも過酷で無理解な社会であるのを痛感しています。

アメリカの生物多様性の研究者、ハーバード大学のエドワード・オズボーン・ウィルソン教授は「同性愛を非難する社会は、社会そのものを非難している」と言っています。私たちが生きる社会も、現実に存在するLGBTに対して、目を背け差別や非難を放置するのではなく、次世代のために、持って生まれた自分らしさで差別や非難されない社会、どんな人間も自由に自分らしく生きられる社会にしていかなければならないのではないでしょうか。