イタリアでは「グリーンパス」義務化に抗議も 写真:ロイター/アフロ

社会

ワクチン接種の義務化がカギか ワクチンパスポートは世界標準へ

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新型コロナウイルスのワクチン接種が進んだことで世界各国・地域のコロナ対策の流れは「ゼロコロナ」から「withコロナ」にシフトしつつある。そのカギのひとつとなるのが「ワクチンパスポート」、つまりワクチン接種証明書による行動範囲の緩和措置だ。これは通常の生活に戻るための重要な通過点だが、その運用にはワクチン義務化が大きなポイントになりそうだ。

ワクチン接種率が高い国がwithコロナにシフト

Our World in Dataによるワクチン接種完了率をみると、全世界で38.3%(11 /4)とまだ4割程度しか接種を終えていない。

比較的接種率の高いシンガポールは79.77%(10/27)、10月に行動規制を撤廃しているイギリスは67.11%(11/3)、いち早く接種を開始しブースターショットも8月1日から開始しているイスラエルは65.3%(11/4)。

ワクチン製造大国アメリカは57.04%(11/4)と数字が伸び悩み。積極的にワクチン接種をしない人々の存在が影響しているとみられる。

接種開始が遅れた日本は追い上げて73.43%(11/4)とイギリスやイスラエルを追い抜いた。

一方でフィリピンは22.6%(10/21)、ケニアは3.16%(11/3)、ナイジェリアは1.46%(11/4)と発展途上国を中心に数字は低い。アフリカだけでみれば6.15%(11/4)と日本の6月時点と同程度と全く接種が進んでいない状況だ。

世界のwithコロナ政策

ワクチン接種による発症予防効果は日を追うごとに下がっていき、また、ブレークスルー感染も避けられないが、それでもワクチンは高い予防効果を発揮し、重症化はほぼ確実に防げる。そういったことから、シンガポールやイギリスといった接種完了率が高い国々はゼロコロナからwithコロナにシフトしていっている。これはダメージを受けた経済を何とか回復させようという狙いと、国民の我慢が限界にきていたからという側面もある。

withコロナの世界はいわゆる「ワクチンパスポート」とセットになりつつある。接種証明の有無と行動範囲の大きさは連動しているといっても過言ではない。

フランスでは「ヘルスパス」という名前で行われている。ワクチン接種証明書、過去6カ月内に新型コロナウイルス感染症から回復したことを示す証明書、72時間以内のPCR検査陰性証明が含まれる。7月21日から映画館、博物館、50人以上のイベントなどに参加する場合、12歳以上の国民に提示義務が課せられ、8月9日からはレストラン、航空機、長距離列車などにも適用されている。PCR検査の陰性証明取得には基本的に50ユーロ(約6600円)が必要であるため、経済的負担を考慮すると事実上の義務化に近い。

アメリカでは、連邦制を導入していることから州によってワクチンパスポートの導入レベルが異なる。例えば、ニューヨーク州にあるミュージカルの本場ブロードウェイは8月14日から再開し、観客はワクチンの接種証明の提示が義務付けられた。また、ニューヨーク市自体も9月13日から「ワクチンパスポート」制度を導入し、レストラン、映画館、スポーツジム等ではワクチン接種証明の提示が必要。州や市が提供する専用アプリ、アメリカ疾病対策センター(CDC)による公式のワクチン接種カードを見せることで施設が利用できるようになる。また、外国人はワクチン接種完了が義務で、接種証明に名前、アメリカが認めるワクチンの名前、接種日などが書かれていれば、ワクチンパスポートの恩恵を受けることができる。

香港では、4月15日から「ワクチンバブル」と称したコロナ対策を実施。水際対策では国ごとに感染レベルを分け、かつワクチンの接種度合いで最短で7日から最長21日まで強制隔離が行われる。飲食はワクチンバブルの前から香港政府が開発した「安心出行(LeaveHomeSafe)」という専用の接触追跡アプリを利用して、飲食店に掲示されているQRコードをスキャンするか、名前、電話番号などの個人情報を紙でレストランに提出する必要があった。ワクチンバブル実施後は飲食店をAからDの4段階に区分け。

例えばAは、政府が求めるほとんどの防疫対策をしておらず、店内飲食は18時まで、収容人数の50%、1卓あたり2人までとしたり、Cであれば、従業員全員が1回目のワクチン接種を終え、利用客は専用アプリのみで紙での提出は認めず、店内飲食は午前零時まで、収容人数の50%、一卓あたり6人、宴会も20人まで認める等だ(これらの数字は感染度合いによって政府が数値を変える)。このように、香港は顧客よりも事業者側にワクチン接種を求めているのが特徴だ。

一方、イギリスでは、ワクチンパスポートを9月末からナイトクラブ、大規模イベントで導入を想定していたが、業界などから反発を受けて導入を断念した。

日本のワクチン・検査パッケージと実証実験

日本の場合はどうなるのか? 新型コロナウイルス感染症対策分科会は9月3日に、「ワクチン・検査パッケージ」という名前で今後のwithコロナの指針を示している。“パスポート”という言葉を使わないのは、「国内で“パスポート”を用いると、それを保持しない人が社会活動に参加できないことを想起させ、社会の分断につながる懸念があるため」としている。

適用例は、入院患者・施設利用者との面会、県境を越える出張や旅行、全国から人が集まるような大規模イベント、大学における対面授業、大人数での会食・宴会、冠婚葬祭や入学式、卒業式後の宴会等を挙げた。一方、飲食店についてはワクチン・検査パッケージや第三者認証をどのように活用するのかについて検討する必要があるとした。逆に、修学旅行や入学試験、選挙・投票、小中学校の対面授業等については、基本的な感染防止策を講じることとして、適用すべきではないとした。

10月から、これを実施するために全国各地で実証実験が始まった。北海道や池袋で、ライブハウスや劇場での実験を実施。イベントでは、プロ野球やJリーグの公式戦、B’z、矢沢永吉のコンサートなどが対象になった。飲食店でも20を超える全国にある居酒屋、京料理、割烹、立ち呑みなどの多彩な店が実験を行う。

再開されるといわれるGo To トラベルにおいては、ホテル業界が独自に接種証明の提示を求めるといったことが行われてもおかしくはない。海外からの観光客の門戸が開かれた場合は、渡航の際のワクチンパスポート版ともいえる「コモンパス」、「IATAトラベルパス」の導入もありえるだろう。

ワクチンパスポートは海外渡航の必須ツールになるのか?

2021.6.3

ワクチン接種の義務化がカギ

ワクチンパスポートを世界で機能させる上で大きなカギとなるのがワクチン接種の義務化だ。ワクチン接種を回避しようとする人はどの国でも一定数いるからだ。

アメリカの民間企業では、Google、デルタ航空などの大企業が先んじて接種を義務化しているが、個人の権利を尊重するお国柄もあり接種率は日本に追い抜かれている。

焦りを覚えたバイデン大統領は、従業員100人以上の企業の社員、連邦政府職員とその取引業者の従業員、連邦政府から資金を提供されている機関で働く医療従事者にワクチンの義務化するという方策を発表。2022年1月から導入するという。これに共和党は反発し、テキサス州のアボット知事(共和党)は、州内で義務化を禁止する行政命令を出すなど、すでに大揺れだ。

NBAのブルックリン・ネッツに所属するスター選手、カイリー・アービングはワクチン未接種。ニューヨークではワクチン接種をしないと試合に出られない法律があり、アウェーゲームのみ出場の可能性が取りざたされたが、チームはすべての行動を共にしなければならないとして、アービング選手がワクチン接種をしない限り、今シーズンを棒に振ることことになる。

71.79%(11/4)という高い接種完了率を誇るイタリアも大変だ。10月15日から全労働者に対して「グリーンパス」と呼ばれる接種証明の提示が義務付けられた。しかも、証明できなければ欠勤扱いで給与の支払いも無いという厳しい措置。これに一部のイタリア人は大反発し、ローマでデモが行われた。

ワクチンパスポートは本来、人々の自由な活動を実現させるために行うというもののはずだが、いつの間にか経済を回すためのツールに変化し、しかも政治化している。ワクチン接種をする・しない自由、差別などの問題がより複雑になっている。どのようにバランスを取るのか、政治家の手腕が問われているといえるだろう。