野党が与党の対抗馬になれず、国民の関心も薄れがちな今の国政。国民が政治家を選んでこその議会制民主主義なのに……。今後、国政が歩むべき道について、北川正恭氏が尊徳編集長と語る。
【前編】何やってんだ国会議員! ここが変だよ日本の政治 元三重県知事・北川正恭×尊徳編集長
未成熟な日本の政党
尊徳 2014年末の総選挙で与党が圧勝して、野党第一党の民主党は党首も落選。次の党首もまた岡田さんを選んでしまう民主党には、もう政権交代などできませんね。政党の未成熟さが出たと北川先生はおっしゃいますが、議会制民主主義の先輩であるイギリスの制度はどうなっていますか?
北川 イギリスの前にまず日本の選挙資金についてですが、日本の政党には、国民1人あたり250円分の税金が政党助成金として支払われます(2014年は約320億円)。この制度は1994年にできました。あまりにも政治が腐敗して、政治とカネの問題が浮上したからです。これでは国から全額給与をもらっている国家公務員とあまり変わりありません。
政治は民意の反映ですから、投げ銭(政治献金)によって、自分の考えを実行してくれそうな人を政治の世界に送り込むのが理想です。公金を使うのですから、情報公開は当たり前なのに、情報を公開しないのは許されざることです。
尊徳 イギリスの場合はだいぶ違いますよね。
北川 イギリスでは、個人で出せる選挙資金は日本円で約130万円までと法律で決まっています。あとは政党が賄います。また、休職制度があって、当選すれば議員になり、落選したら元の職場に戻れるようになっています。政党が政治資金も扱い、人材を鍛えてマニフェストを作っていきます。
サッチャーもブレアも政党が育てた
北川 日本との大きな違いとして、イギリスの政党には候補者を連れてくる役割があります。そして、その人にお金の問題などのスキャンダルがないか、いわゆる身辺調査を行います。そしてトレーニングしていくのです。
例えば、保守党は1950年代にマーガレット・サッチャー(元首相)を見つけました。政党はまず、新人候補のときには、相手である労働党が強い選挙区に立候補させます。当然負けるのですが、そこで善戦すれば、次は保守党が強い選挙区に移します。
そうやって選挙の心配をしなくてもいい地盤に充てることで、エリート政治家としての訓練を積ませるのです。労働党のトニー・ブレア(前首相)も同様。最初は落選しています。このように、国会議員の「能力」発掘は、政党がその機能を果たしています。
選挙のたびに慌てふためき、”なんとかチルドレン”のような新人がゴロゴロ出てくるようでは国民の信用が揺らいでしまいます。
尊徳 日本のように「地盤(支持者)」、「看板(知名度)」、「カバン(資金力)」が必要ではないわけですね。
北川 そういう制度を作っているということです。
ネット選挙の可能性
尊徳 地元に癒着が生まれないように、僕はいつも冗談めかして、選挙区をくじ引きで決めればいいと言うのですが、大体地元の橋や道路を作るのが国会議員の仕事か!ってね。国会議員自身が既得権益化してしまったので、自己改革ができないのです。
北川 とはいえ、最近は変わってきたと思いますよ。2013年にネット選挙が解禁され、徐々に普及してきたからです。私が現役の頃は選挙区に自前の後援会があって、選挙でも大きな集票マシンになりましたが、不特定多数の人たちにメッセージを発信できるネット選挙がもっと普及していけば、後援会以外の人たちから支持を得るチャンスが増えます。
尊徳 ネットで投票できるまではまだいってないですが、ついこの前の選挙まで前近代的な状況でしたからね。
北川 これからは、ネットをうまく使いこなした候補者が勝つようになります。アメリカ民主党のオバマ大統領は、クラウドファンディング(ネットで賛同者を募り集金すること)で不特定多数から600億円の献金を集めました。特定の団体から巨額の資金を提供されたら癒着が起こりますが、広く薄く集めれば全体を考えた政治ができます。
尊徳 イギリスでは与党と野党の扱いも違いますよね。
北川 次の政権を担う政党を育てるため、野党に有利な選挙制度になっていて、基本的に与党議員は官僚とも接見禁止。情報も野党が集めやすいようになっています。
尊徳 国の制度が成熟しているという感じですね。イギリスがすべていいとは思いませんが、議会民主主義を標榜する日本がお手本にするべきことがたくさんありそうです。
北川 国会は国権の最高機関であり、唯一の立法府。それなりの権威を保ってもらいたいですね。安倍首相は党首討論で「定数削減をやる」と言ったにもかかわらず、やらずに解散して結局そのまま……というのは権威を汚している感があります。
尊徳 投票理由は”その人の政策”であるべき。自分が掲げる政策をネットでしっかり伝えられる政治家に票が集まるようになるのが理想ですね。