米液化天然ガス事業「フリーポート」を中国民間ガス大手ENNへ売却する計画がとん挫し、新たな売却先を探すことになった東芝。再建に向けた中期経営計画「東芝Nextプラン」がスタートしたばかりだったこともあり、改めて東芝の不運を感じざるを得ない。ほかにも、東芝メモリの上場延期や新たな中核事業の育成など、課題は山積みだ。車谷暢昭CEOは“再建の神様”土光敏夫さんになれるのか。
米中経済摩擦の影響で許可が下りない
三井住友銀行の元副頭取だった車谷暢昭氏をCEOに迎え、再出発した東芝が窮地に陥っている。東芝は昨年11月に、2018年4~9月期の決算発表と合わせ、2023年までの5カ年の中期経営計画「東芝Nextプラン」を発表したが、この中で最大の懸念材料と見られていたアメリカの液化天然ガス (LNG)事業「フリーポート」を他社に売却することが決まったと打ち上げた。だが、実際に4月から中期経営計画がスタートした矢先にこの売却計画がとん挫したのだ。
LNG(液化天然ガス)
天然ガスを冷却し液化した液体。メタンやエタンといった天然ガスはマイナス162℃まで冷却すると液体になり、気体の状態に比べて体積が約600分の1になるため効率的な大量輸送が可能。ガスに戻す際には海水をかけて気体に戻す。天然ガスは世界的に埋蔵量が豊富で、石油や石炭などに比べて燃焼時に発生する二酸化炭素量が少ないことから供給量は上り続け、過去40年で最も拡大したエネルギー源といわれている。2015年頃から供給過剰が続いていたが、近年アジアからの需要が高まっているという。
売却契約を結んでいたのは、中国の民間ガス大手の「ENNエコロジカル・ホールディングス」たが、4月10日夜にENN側から契約解除の申し入れがあった。ENNは4月29日に開く臨時株主総会で「フリーポート」の買収を正式に中止する予定だ。
背景にあるのは米中経済摩擦の影響だ。「状況が一変した」というのがENNの解約理由だ。だが、中国資本であるENNへの売却については以前から、アメリカの対米外国投資委員会(CFIUS)がノーを突き付けるのではないかと懸念されていたことは事実。実際、当初、売却手続きは3月末までに完了する予定だったが、2018年12月22日~2019年1月25日にかけて米政府機関が一時閉鎖したことで対米外国投資委員会の審査手続きは遅れていた。
また、母国の中国国家外貨管理局(SAFE)の認可も完了しておらず、ENNが先行きを不安視したことは確かだ。身も蓋もなく言えば、「本国の認可もアメリカの認可も望み薄なので止めた」というのがENNの本音だろう。
20年間で最大1兆円の損失リスクはそのまま
東芝にとって今回の売却とん挫の影響は深刻だ。当初の売却計画では、東芝は「フリーポート」に親会社保証(売却を担保するための信用を供与する)を入れる一方、購入するENNも信用補完として約5億ドルの銀行保証状を東芝に差し入れることになっていた。
「交渉過程で本命視されていた米ガス大手のテルリアンや石油メジャーへの売却ではこれだけの好条件は引き出せなかった」(東芝関係者)と胸を張ったほどだった。
東芝は一時金費用として当面損失が見込まれる約930億円をENNに支払うが、今後20年間で1兆円規模の損失リスクから解放されるメリットは計り知れなかった。落胆するのも無理はない。
東芝は今後ENNから正式な通知を受け取った上で、契約を解除する条件を満たしているか精査して対応するとしているが、損害賠償請求なども望み薄だろう。そもそも今回の売却は4月からの新中期経営計画スタートに合わせられるよう3月末までの売却を急いだ。しかも、欧米の石油メジャーなどから断られたあげく、LNGを爆買いする中国資本に落ち着いた経緯がある。契約の解除条件は甘かったとみられている。
フリーポートを売却できなかったことで、東芝は引き続き20年間で1兆円規模の損失リスクが残ることになる。市況の動向に左右されることから、実損がどれだけ出るのかは未知数だが、「アメリカのシェールガス開発が進んでおり、2020年まで供給が需要を上回る状態が続く」(石油アナリスト)と見られている。また、外資系証券会社の試算では、このまま事業を継続すれば「年間2億ドル(約222億円)前後の損失が生じる可能性がある」とされている。
東芝メモリの上場は年内に?
誤算はこればかりではない。半導体大手東芝メモリの上場延期だ。東芝は半導体事業を手掛ける東芝メモリを日米韓の企業連合に売却した。東芝の全体収益の9割、年5000億円近い営業利益を稼いでいたメモリ事業を失った穴は大きいが、売却後も4割の株式を保有しており、持ち分法適用会社となっているため、その業績は営業損益には反映されないものの最終損益には影響する。
東芝メモリの上場はキャピタルゲインを得られる可能性が高く、当初は9月にも上場させる意向で、3月中には計画を発表する予定だった。だが、半導体市況の下落から、企業連合間の調整が難航、9月上場は延期された。それでも年内には上場を実現させたい意向だが、半導体市況がいつ落ち着くのか予断を許さない。「東芝の経営はツキがない」(メガバンク幹部)と、同情する声も聞かれるほどだ。
車谷CEOの経営戦略、リストラが先行してはいずれ縮小均衡に
車谷CEOは東芝を立て直した土光敏夫さんを強く意識しているといわれるが、第2の土光さんになるのは簡単ではない。4月からスタートした「東芝Nextプラン」の資料冒頭には、ヘルメット姿で現場を回る車谷氏の写真とともに「現場従業員との対話で『東芝DNA』を再確認」とのキャプションが付されている。現場を重視する車谷氏だが、中計では1400人の希望退職を含め、今後5年間で7000人の人員を削減する。
一方、「東芝Nextプラン」では成長戦略として、あらゆるモノがネットにつながるIoTを中核に据え、車谷氏の肝いりプロジェクトとして取り組むが、この分野では日立製作所や独シーメンスなど競合がひしめく。競争に勝ち抜くのは容易なことではない。
リストラばかりが先行するようでは、いずれ縮小均衡に陥りかねない。また、LNGや半導体という価格が大きく変動する事業がポートフォリオにかなりのウェートで残ったままでは、市場に経営が振り回されかねず、不安定なままとなる。再度「フリーポート」の売却先を探すことが先決だろう。
東芝はENNへの売却が白紙に戻った4月17日に、LNG事業の売却先探しを再開すると発表。すでに新たな売却先候補が浮上しているというが、ことはそう簡単なものではなかろう。
「ENNの正式決定を待たずに、東芝側から売却の契約解除を通知したのは、市場の評価への懸念と同時に、この問題を早く決着させないとまずいという東芝の危機意識があってのことだろう。東芝経営陣の意地が感じられる」(メガバンク幹部)。紆余曲折が予想される。
ダメなときには不幸が重なる
LNGの価格が今後跳ね上がれば逆に利益になるだろうけど、今のままでは将来発生するであろう1兆円の損失を抱えることになった東芝。
2006年の米ウエスチングハウス(WH)の買収は、当時、西田厚聰社長が社運を懸けて買収した。PC部門出身の西田さんもPCでは稼げなくなって焦っていたのかも。高値だとは思うけど、原発建設で世界の主導権を握りたかったんだろう。その後起きた東日本大震災は東芝にとっても不幸な出来事。そこで出た損失を何とか回避しようと不正会計に手を染めてしまった。
悪循環だよね。西田さんと佐々木則夫さん両トップの不仲(どちらが先かはわからんが)も東芝の崩落に輪をかけた。ダメなときには不幸が重なる。
車谷さんも銀行出身だからね。日立の川村隆さんにはなれなかった。
かつてのJTもNTTドコモも失敗しているしM&Aは難しいが、M&Aが下手かどうかは歴史が示すもの。どんなに想定外なことが起こったとしても、経営者は結果がすべてだからな。東芝経営陣は経営者としては無能だったということだろう。