旧式F-15の生産再開で最新鋭ステルス戦闘機F-35Aをサポート? アメリカ空軍、まさかの奇策

F-15EX。もとは40年以上前に初飛行した旧式F-15(ボーイング)

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旧式F-15の生産再開で最新鋭ステルス戦闘機F-35Aをサポート? アメリカ空軍、まさかの奇策

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アメリカ空軍は戦闘機・戦闘攻撃機約1700機を含めた世界最強の航空戦力を持っているが、最近、「戦闘機が足りない」と窮状を訴えているという。このままでは「戦闘機2000機体制」の構想の実現は難しい。そこで、F-35Aをはじめステルス性能を誇る第5世代への世代交代が完了するまでの間、1世代前のF-15「イーグル」をベースした“モンスター”を投入する計画のようで……。

開発の大幅遅延で世代交代が進まない

「戦闘機が少な過ぎて仕事ができない!」――。

老眼鏡のCMではないが、米空軍はこう言いたげだ。平成最後の月に航空自衛隊所属の最新鋭ステルス戦闘機F-35Aが青森県沖の太平洋上に墜落、世界の耳目を集めたのは周知の通り。だが、ほぼ同時期の2019年3月、米空軍は2020会計年度報告書を発表、この中で「戦闘機が少なくとも62機足りない」と窮状を訴えたことから、こちらも世界の注目を集めている。しかもその原因もF-35A絡みだという。

世界的権威の軍事統計年鑑「ミリタリー・バランス」2019年版によれば、2018年の米空軍の戦闘機(制空権確保を専らとする)/戦闘攻撃機(空対地ミサイル・爆弾による地上攻撃任務にも力点を置く多目的機=マルチロール機)の総数は約1700機(州兵空軍や予備役も含む)。内訳は、戦闘機:F-22A 179機、F-15C/D 242機、戦闘攻撃機:F-35A 154機、F-15E 211機、F-16C/D 946機といった具合だ。

米空軍は2000年代初頭まで「F-15CとF-16C/D」の“第4世代”コンビを戦闘機戦力の中核に据えていたが、今後はステルス性能を誇る“第5世代”が趨勢で、2000年代半ばから徐々に「F-22AとF-35A」コンビに置き換える計画だった。

だがF-22Aは高価過ぎ(最終的に1機400億円超)、調達数も197機まで絞られて生産自体も2011年で打ち止めに。より安価な(とはいえ1機90~100億円)F-35Aの量産に期待するが、開発の大幅遅延により米空軍でも配備は2016年からという有様。最終的に1800機程度の導入を見込むが、本格的な量産体制に入るのは2026年度以降とのこと。

結局200機弱の製造で“打ち止め”となったF-22「ラプター」(米空軍)
結局200機弱の製造で“打ち止め”となったF-22「ラプター」(米空軍)

第4世代から第5世代への世代交代も大きく狂い、最悪の場合、戦闘機の必要数すら確保できなくなる可能性が高くなってきたのが実状だ。このため一世代前のF-15C、F-16C/Dにもうしばらく主役の座を頑張ってもらうしか術はないのだが、両機とも初飛行は1970年代前半で、現役機の大半が製造から30年以上立つ“老兵”だ。

今後“賞味期限切れ”の機体が続々と退役していくことは必定で、戦闘機の絶対数が漸減、という懸念も抱える。「戦闘機2000機体制」(F-22A約200機+F-35A約1800機)を構想する米空軍にとって、ここ数年はまさに「胸突き八丁」だ。

F-15のサプライチェーンで改良型の“新品機体”を生産

中でも悩ましいのがF-15C「イーグル」の立ち位置で、制空戦闘に特化した結果、地上攻撃は不得意だ。一方、仮に制空戦闘となれば、世界最強のF-22A「ラプター」の出番となるのが当然で、F-15Cの存在は中途半端となってしまう。

そこで「既存機を近代化改修し対地攻撃能力を強化すればいい」との案も出たのだが、「いっそのこと旧式のF-15を母体にしたバージョンアップ型の“新品”を一から造った方が得策」との判断が勝り、白羽の矢が立ったのが「F-15EX」。2020年から5年間に計80機の製造が決定された。

ベースは旧式のF-15でステルス性能は無いものの、図体は大きくて頑丈、強力なエンジン2基が生み出す運動性は今でも最高レベルだ。加えていくつもの戦火をくぐりながら敵戦闘機による撃墜はゼロ(地対空ミサイルによるものはあるが)という信頼性もピカイチ。

だが、それ以上に有難いのが「生産ラインがまだ生きている」という点。F-15を開発したボーイングは、この発展型「F-15E戦闘爆撃機(マルチロール機)」(1980年代に開発)のサウジアラビア、カタール向け機体を今でも製造する。つまりこのサプライチェーンにのせれば、“新品の機体”を短期間で入手できるという計算だ。

F-15EXは最新鋭ステルス機との相性も抜群

F-15EXのペイロード(ミサイル・爆弾の搭載量)は13トン超で、F-15C/Dの同10トン強、F-15Eの同約11tを大きく上回る。ミサイル・爆弾をぶら下げる“ハードポイント”も計27カ所に達し、空対空ミサイル(AAM)、あるいは小型精密誘導爆弾を各20発以上も積める。一方のF-15C/Dの場合、AAMを8発しか装備できない。F-15EXは、まさにモンスターだ。

ご覧のとおりF-15EXは数多くのミサイル・爆弾を搭載することが可能(ボーイング)
ご覧のとおりF-15EXは数多くのミサイル・爆弾を搭載することが可能(ボーイング)

そして米空軍はこの怪力を生かし、“空飛ぶ弾薬倉”としてステルス機をサポートする、という新戦術模索しているのでは、とも見られている。

F-22やF-35Aはステルス性能を極めるため、基本的にミサイル・爆弾を機体内のウエポンベイ(爆弾槽)に収納するが、その結果、積載数が少なく、寸法も限られるという難点も抱える。F-35AはAAM4発またはAAM2発と爆弾2発しか収納できず、ペイロードも約8トンしかない。

F-35A。ステルス性能確保のため腹部分の爆弾槽から対空ミサイルを発射しているのがわかる(米空軍)
F-35A。ステルス性能確保のため腹部分の爆弾槽から対空ミサイルを発射しているのがわかる(米空軍)

要するにF-22AやF-35Aが露払いよろしく先陣を切り、自慢のステルス性能と高性能レーダーやネットワーク・システムを駆使して、敵機よりも先に発見したらAAMを山積みした後続のF-15EXに指令しミサイルを次々に発射し撃墜――という戦法だ。

また、近年は米軍が国際テロ集団やゲリラ組織と対決する場面が増えているが、これにステルス機を差し向けて空襲するようでは費用対効果が悪過ぎる。彼ら相手にステルス性能はほとんど無用の長物で、運用コストが安く大量の爆弾を積めるF-15EXの方が打ってつけだ。

ちなみにF-15EXの価格は約110億円で、F-35Aと同レベルかそれ以上となるが、運用コストはF-35Aの半分程度で済み、しかも既存のF-15系の資産(パイロットやシミュレーション装置、工具・パーツ類など)をそっくりそのまま流用できるというメリットは極めて大きい。

戦闘機ビジネスで巻き返し図る? ボーイングの影

ところで、今回の奇策にはどうやらアメリカ軍産複合体の内部での“綱引き”がかかわっている、という見方もある。

アメリカの戦闘機メーカーは、F-35系列を製造するロッキード・マーティンと、FA-18系列、F-15E系列を製造るボーイングの事実上2社のみだが、後者の場合、前述したF-15Eの海外向け分の製造も間もなく終わるため、追加生産を受注しなければ製造ラインは畳まなければならない。

そこでボ社は、これを維持するため、ワシントンで強力なロビー活動を展開した……とも言われている。市場独占の弊害に敏感で競争原理を重んじるアメリカだけに、戦闘機製造が1社独占になることの危険性を説いて回った、としてもおかしくはないだろう。

“ステルス機全盛”と思われがちな“空の戦い”で1世代前の機体を繰り出し有効活用を試みるアメリカの奇策。当然、仮想敵の中国、ロシアもこれを注視し、早晩まねるはず。だがそれにはアメリカが得意とする「クラウド・シューティング」(「F-35A墜落事故が純国産戦闘機F-3開発の“対米カード”に」 の記事参照)が必須。今後は、この分野で大きく水を開けられている中露の動きも気になるところだ。