ココカラ争奪戦で見えてきたドラッグストア業界の天井 異業種との競合の次は統合へ?
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ココカラ争奪戦で見えてきたドラッグストア業界の天井 異業種との競合の次は統合へ?

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右肩上がりで成長してきたドラッグストア業界に再編の浪が押し寄せている。業界7位の大手ドラッグストアのココカラファインをめぐる争奪戦は、さしずめ先手スギホールディングス、後手マツモトキヨシホールディングスのガチンコ勝負にもつれ込んでいる。

ココカラを組んだ方が業界トップに

6月1日、スギホールディングス(スギ)とココカラファイン(ココカラ)は経営統合に向けて検討を始めると発表した。2社で準備委員会を設け、基本合意書の締結を目指す。両社が統合すれば合計売上高は8800億円となり、ツルハホールディングス、ウエルシアホールディングスを抜き業界トップに躍り出る。

しかし、これに横やりを入れたのがマツモトキヨシホールディングス(マツキヨ)だ。ココカラとマツキヨは4月に資本・業務提携で協議することを発表していた。

当初、マツキヨの松本清雄(まつもと きよお)社長は「経営統合すると人件費などが上がり、負荷にもなる」と、経営統合には慎重であったが、ココカラとスギが経営統合に動くことになれば話は別となる。一転してココカラとの経営統合提案に舵を切った。

「売上高ベースで業界7位のココカラはマツキヨとスギを両天秤にかけることで、再編の主導権を握った。業界5位のマツキヨ、6位のスギともココカラと組めば業界トップに立てるだけにのどから手が出るほどほしい相手。ココカラは最高の花嫁になった格好だ」(流通アナリスト)

ココカラは、スギとの統合協議を発表する一方、マツモトキヨシとも資本・業務提携を継続する意向を表明している。スギとは7月末まで、マツモトキヨシとは9月末までに合意を目指す。

20年間で業界規模は約3倍、そして戦国時代に突入

ドラッグストアの再編がにわかにホットになってきたのは、業界全体を覆う危機感がある。ドックストア業界は今まさに戦国時代だ。

ツルハホールディングス(ツルハ)が6月17日に発表した2019年5月期連結決算は、売上高が前期比16%増の7824億円となり、7791億円(2月期決算)のウエルシアホールディングス(ウエルシア)を上回り、業界トップに躍り出た。ツルハは中部圏を地盤とする同業のビー・アンド・ディーホールディングス(愛知県春日井市)などを傘下に収めて店舗網を拡充した効果が出た。

2017年まで業界トップであったのはマツキヨだったが、17年2月期にウエルシアが首位に立ち、そのウエルシアも今回、ツルハに抜かれるという下克上が続いている。その主因は“再編”にほかならない。

日本チェーンストア協会の集計によると、2018年度のドラッグストア業界の全店売上高は前年度比6.2%増の7兆2744億円となった。総店舗数は2万228店と、2000年に入り売上高で3倍、店舗数で2倍に拡大している。

市場規模は百貨店を抜き、2018年の売上高10兆9646億円のコンビニエンスストアに迫っている。

薬事法の改正でビジネスモデルが変化

市場規模拡大の原動力になったのが、ドラッグストア特有のビジネスモデルである。本来、医薬品の販売を手掛けるドラッグストアは、「3割以上の粗利益のある医薬品や化粧品の儲けを原資に、ナショナルブランドの食品や日用品で安値攻勢をかけて、コンビニやスーパーの顧客を奪う形で市場規模を拡大させてきた」(流通アナリスト)という。

いわば食品、日用品の激安販売でお客を釣り、医薬品を“合わせ買い”させていたわけだ。その効果は絶大で、「コスモス薬品(業界3位)は薬品の名称を冠しているが、すでに食品が売上の半分を占める」(同)とされる。

だが、その成長にもここにきて陰りが見え始めている。分岐点は2009年3月と2013年12月の薬事法改正にある。2009年3月からの薬事法改正で医薬品販売規制が緩和されたことにより、一般用医薬品がコンビニなどの登録事業者でも販売できるようになった。このため食料品や日用品の廉価販売で集客し、医薬品で儲けるビジネスモデルが侵食されつつある。

さらに、2013年12月の薬事法改正で医療品の販売ルールが大幅に緩和され、一般医薬品の中でも従来薬剤師の対面販売のみであった第一類医薬品、第二類医薬品も条件付きでインターネット販売が可能となった。このためEC(電子商取引)など異業種との競合も生じている。
一方、ドラッグストアでは、薬剤師や登録販売者など有資格者の確保が必要で、学生やアルバイトなどで運営が可能なコンビニなどに比べ店舗運営コストは高い。人手不足も加わり、人件費の高騰は悩ましい問題となっている。

特に薬剤師の確保は至上命題ながら、有効求人倍率は5倍を超える。「薬剤師を高給で雇わなければならず、コストは馬鹿にならない」(ドラッグストア経営者)という。薬事法により、薬剤師一人当たりが出せる処方箋の枚数には制限があり、業容が拡大すればそるほど薬剤師の人数を増やさなければならないのだ。

コンビニ・スーパーとの競合から統合へ?

こうした規制緩和もあり、小規模なドラッグストアは大手のドラッグストアに吸収されるか、大手流通の傘下に入ることで、食品や日用品の共同仕入れすることで収益率を確保しようと動いている。いわば、ドラッグストアがスーパーやコンビニに殴り込みをかけ、その市場を奪ったのが第1幕とすれば、第2幕はスーパーやコンビニが規制緩和を追い風にドラッグストアの市場を奪い返し始めているのだ。

その過程で、両業界の再編が進み、その波はこれまで我が世の春を謳歌してきた大手ドラッグストア業界に及び、大手同士の再編劇へと発展しているという構図だ。

「人件費高騰や競争激化により、市場規模にほぼ天井が見えてきた大手ドラッグストアは、コスト削減と規模の利益を求めて再編に打って出ている。ココカラをめぐる争奪戦はその前哨戦にすぎない」(流通アナリスト)といっていい。その先は、より大規模な、スーパー、コンビニとドラッグストアの異業種間の統合、さらにEC事業者を巻き込んだ再編へと発展していくものと予想される。