銀行がやりたくてしかたない「口座維持・管理手数料」の導入

2019.11.19

経済

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写真:川北茂貴/アフロ

銀行に口座を持つだけでお金がかかる、将来、そんなことになるかもしれない。銀行が導入を検討する「口座維持・管理手数料」についてである。導入してしまえば利用者は払わざるを得ないとでも? とはいえ、昨今はメガバンクも地方銀行もなかなかに厳しい。収益改善に苦心する銀行はどのように考えているのだろうか。

欧米では当たり前の「口座維持・管理手数料」

3メガバンクの2019年4~9月期の連結決算が出揃った。いずれも個人や中小企業を顧客とするリテール部門が苦戦し、三菱UFJフィナンシャル・グループの同部門の連結業務純益は前年同期から6%減の1379億円。三井住友フィナンシャルグループは9%減の1112億円、みずほフィナンシャルグループは8億円にとどまった。

いずれも日銀によるマイナス金利に象徴される超低金利を背景に預金と貸金の利鞘縮小に喘いでいるもので、3メガバンク合計の国内預貸金利ザヤは単純平均で0.83%と、前年同期から0.03ポイント低下した。このままでは座して死を待つようなものだ。打開策はないのだろうか。

そこで対策のひとつとして検討されているのが「口座維持・管理手数料」の導入だ。現状では銀行に預金口座を開設していても手数料はかからないが、例えば預金残高が一定以下の水準まで低下した場合に、口座を維持・管理するために必要な手数料を課すというもので、すでに欧米では口座維持・管理手数料を個人顧客から徴求することは一般化している。

銀行上層部は揃って導入推進

日銀の政策委員会審議員で三菱UFJ銀行出身の鈴木人司氏は8月29日の講演で、追加緩和で金利がさらに下がった場合は「金融機関が預金に手数料を賦課することも考えられる」と言及し、周囲を驚かせた。また、三井住友信託銀行の橋本勝社長は「口座維持・管理手数料」の導入について「銀行業界全体で考えていく話」と検討を示唆している。日本でもいつ導入されてもおかしくない。

全国銀行協会の髙島誠会長も「お客様に対して付加価値の高いサービスを提供し、お客様のご理解をいただいた上で、必要な手数料を頂戴していくということが、引き続き基本的な考え」とした上で、「マイナス金利の導入が従来の銀行の手数料体系見直しの契機になったということはあるかもしれないが、本来これらは別物である」と答えている。

また、全国地方銀行協会の笹島律夫会長も「(口座維持・管理手数料は)必ずしも金融政策とひもつきで論じるものではない」としている。だが、この言葉を裏読みすれば、「日銀の政策いかんにかかわらず、必要な段階には粛々と『口座維持・管理手数料』を導入させていただきます」ということであろう。

徴収は正論だが余裕の無さの表れか

しかし、そのタイミングは難題だ。それでなくとも銀行預金の金利はスズメの涙で、日銀が超低金利政策を敷いて以降、個人・家計が失った“得べかりし利益(逸失利益)”は膨大である。導入を焦れば預金者の反発は必至であり、「銀行のエゴ」と批判を浴びかねない。

確かに、セキュリティ対策やキャッシュレスの高度化などで口座維持・管理コストは年々増加している。そのコストに見合う手数料を徴求するのは正論であろう。しかし、本音で言えば、銀行がこれまでのように無料でサービスと提供する余裕がなくなってきているということではなかろうか。

問題は、どこが最初に導入を決断するかである。各行が一斉に導入することは独占禁止法上も難しい。批判覚悟で「口座維持・管理手数料」という“劇薬”に手を染める銀行が出てくるかどうか。その場合も「まず法人預金からスタートして、個人にも広げるやり方となるだろう」(メガバンク幹部)と見られている。

銀行による人材派遣業が新たな収益源に

とはいえ、メガバンクはまだ余裕がある。一方、地域金融機関の収益環境はまさに追い込まれている。再編も待ったなしの状況だ。「口座維持・管理手数料」を導入するインセンティブはメガバンク以上であろう。しかし、地域の預金が逃げるようでは本末転倒となりかねない。

そこで地方銀行が新たな収益事業として検討しているのが「人材派遣業務」への進出だ。9月18日に地銀協が内閣府に提出した2019年度規制緩和要望で、「銀行法上の付随業務に銀行本体による人材派遣業務を明確に規定する」よう求めた。

銀行による取引先等への「人材紹介業務」はすでに認可されており、広島銀行、名古屋銀行、東邦銀行などが参入している。また、銀行本体による有料職業紹介事業(求職者と求人募集企業とを結ぶことで手数料をもらう)の許認可を得た地銀も出てきており、さらに人材派遣業務が明確化されれば銀行の有力な収益源として期待できるわけだ。

メガ、地銀ともあの手、この手で収益確保に懸命だ。最終手段ともいえる「口座維持・管理手数料」の導入もにわかにきな臭くなってきた。