レジ袋有料化の本当の狙いとは?
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レジ袋有料化の本当の狙いとは?

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7月1日から日本でもレジ袋の有料化がやっと始まりました。他国ではすでに有料化され、あるいは使用禁止になっている国もありますので、今回の我が国の措置は遅かったように思います。この背景には、我が国の環境に関する意識の低さがあるかもしれません。 レジ袋の“レジ”は、事務機の一種で金銭登録器・キャッシュレジスター(Cash Register)のレジから由来するのか、一般的に樹脂の英語名レジン(Resin)からなのか、それとも両方をかけているのかわかりません。余談はともかくとして、本稿では、レジン(Resin)由来のレジ袋として、すなわち化学物質としてのレジ袋の削減、環境問題に焦点を当てて述べたいと思います。

便利なレジ袋は「ポリエチレン」という化学物質

現在使われているレジ袋はポリエチレンという化学物質です。ポリは高分子・ポリマー(Polymer)のポリ。原料のエチレンは気体で自然界にも存在し、果物が熟す時の植物ホルモンで、輸入したばかりの青いバナナを黄色くするときに使われます。このエチレン分子をいくつもつなげた(重合)ものがポリエチレンです。

常温・常圧で、ある種の触媒を用いると、目に見えないエチレンガスが雪のような白い粉末となってパラパラと落ちてくることが発見されたのは今から60年以上前のこと。この画期的な化学反応を見つけた2人の化学者に1963年ノーベル化学賞が授与されました。

これを薄いフィルムにしたのがレジ袋です。成形しやすく、軽くて丈夫、水濡れにも強いことから、1970年頃から紙袋に代わって買い物袋として大量に使われてきました。

ポリエチレンはその用途により、さまざまな機能を有するものが作られています。買い物袋以外にも、包装材(ラップフィルム、食品チューブ、食品容器)、農業用フィルム、電線被覆、牛乳パックの内張りフィルム、シャンプー・リンス容器、バケツ、ガソリンタンク、灯油かん、コンテナ、パイプなど、いろいろな製品として私たちの生活を豊かにしています。

これが化学の優れた一面ですが、一方で環境汚染問題のように“負の遺産”もあることに注意を払うべきです。

ごみとなっているレジ袋

レジ袋は便利に使われてきましたが、一方で廃棄物、海洋プラスチックごみ、地球温暖化などの問題を抱えていることは、よく知られています。それゆえに私たちは、いわゆるプラスチック類の過剰な使用を抑制し、賢く利用していく必要があるのです。

原油はさまざまな炭化水素の混合物であり、沸点の違いによって分けることが可能で、ナフサ、灯油、軽油、重油などが得られます。

ナフサは沸点の低い炭化水素の混合物で、これを精製するとガソリンになりますが、ガソリンも混合物で単一の化合物ではありません。ナフサをクラッキング(分解)するとエチレンガスが得られます。エチレンガスは、現在このように大量につくられており、日本はエチレンの輸出国でもあります。

これがポリエチレンの原料で、レジ袋は炭素と水素からできている炭化水素ですから、よく燃え、完全燃焼すれば二酸化炭素と水になります。したがって、燃やすと地球温暖化の原因になるわけです。基本的には燃やすべきものではありませんが、レジ袋は家庭の可燃物のごみ袋として使われ、燃やされてしまっています。

また、燃やされずに捨てられたポリエチレンは、自然界、例えば土の中や水中の微生物などで分解せず、半永久的に安定なままに残留、これがごみとなってしまいます。海に流れると、紫外線や波の作用などで微粒子に変化してマイクロプラスチックとなってしまい、現在、大きな問題になっているのです。マイクロプラスチックが魚貝類に入り、食物連鎖によって人間の身体にも侵入していることは脅威です。以上のことからしても、レジ袋は結局ごみになっています。

抜け道のあるレジ袋有料化

レジ袋有料化の目的の一つはレジ袋の削減ですが、レジ袋有料化に抜け道があるのが気になります。植物に由来するバイオマス素材の配合率が25%以上のバイオポリエチレン製のレジ袋は無料で渡せるため、有料化を回避することが可能です。

植物は、二酸化炭素と水から光合成により澱粉などのバイオマスを合成しています。したがってこのバイオマスが入ったレジ袋を燃焼させた場合、結局のところ大気中の二酸化炭素の濃度を上昇させないことにつながり、地球温暖化の防止や化石資源への依存度低減にも貢献するとの解釈です。

これが、バイオマスのもつ“カーボンニュートラル性”ですが、こんな抜け道を作るのではなく、初めからレジ袋を使用禁止にすべきではないかと思います。バイオマスが含まれていたとしても、プラ製品が環境への負荷が高いことに変わりはありません。新型コロナウイルスの影響でテークアウトが伸びる外食産業では、バイオポリエチレン製のレジ袋の導入が相次いでいるのは残念です。

使い捨てプラスチックごみの削減

日本は、一人当たりの使い捨てプラごみの発生量がアメリカに次いで2番目に多く、“プラごみ大国”です。レジ袋以外にもたくさんの使い捨てプラ製品が身の回りにあふれており、ポリエチレン以外にも多くのポリマーが開発され使用されています。

プラごみの分別・回収が進んでいるとはいえ、再生樹脂などへのマテリアルリサイクル率は25%。その他は、火力発電、RPF(廃プラスチック類を主原料とした高品位の固形燃料)、セメント燃料などの熱回収率が57%、焼却・埋め立てが18%と、結局75%は焼却されています。

焼却すれば、上述のように二酸化炭素が発生するのは当たり前です。問題はそればかりではなく、塩素原子を含んだプラスチック(ラップやパイプ、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン)を焼却することの是非です。かつて大騒ぎしたダイオキシン類発生の懸念は、当時よりは対策されているとはいえ、まだ解決していません。

ライフスタイルの転換を

日本で排出されるプラごみは年間約900万トンで、そのうちレジ袋は2~3%程度。したがってレジ袋の有料化だけではごみ削減につながらないのは当たり前です。

環境省は、プラごみの削減に向け、2030年までの数値目標として使い捨てプラスチック排出量の25%削減を打ち出しています。今回のレジ袋有料化は、自然環境保全の立場から言えばまだ道半ばで、不十分もいいところ。それなのに、遅れたとはいえレジ袋有料化に踏み切ったのはそれなりの理由があります。

経済産業省のホームページには、レジ袋有料化の目的について、「普段何げなくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとする」と書かれてあります。レジ袋有料化とプラスチックごみ削減は、あくまで別問題だということでしょう。

プラスチックを使い捨てる習慣そのものを変えなければなりません。人間の心を変えることはなかなか難しいことですが、長いこと金科玉条のごとく続いてきた“大量生産・大量消費・大量廃棄”の悪循環をどこかで断ち切る勇気が必要な気がします。

災害には、「天災」と「人災」がありますが、もう一つ、文明の進歩による災害「文明災」を忘れてはなりません。プラごみによる環境汚染は、化学の進歩による「文明災」、とりわけ「化学災」と呼んでもいいかもしれません。コロナパンデミックを経験している現在、「新しい生活様式」が求められているなか、人間のライフスタイルを変えることが必要な時代を迎えています。