自民党総裁選が9月29日午後に投開票され、決選投票で岸田文雄前政調会長が河野太郎行政改革担当相を破り、当選した。岸田新総裁は10月4日召集の臨時国会で史上64人目、第100代首相に就任。ただちに組閣し、岸田内閣が誕生する。安倍、菅内閣に続いて新型コロナウイルス感染症のまん延という難局に立ち向かうほか、就任直後に衆院総選挙というハードルが待ち受ける。
1回目投票も1票差で岸田氏がトップ
「私たちは生まれ変わった自民党を国民に示し、支持を訴えていかなければならない。ノーサイド、全員野球で総選挙、参院選に臨んでいこう」。新総裁に選ばれた岸田氏は総裁選直後の両院議員総会で、こう意気込みを語った。菅義偉首相も「岸田新総裁のもとに結束して(次期衆院選)を勝ち抜かなければならない」とエールを送った。
総裁選の第1回投票では岸田氏が国会議員146票、党員・党友110票を獲得し、計256票でトップ。続いて河野氏が国会議員86票、党員・党友169票の計255票で1票差の2位となった。高市早苗氏は188票、野田聖子氏は63票で、決選投票に進めなかった。
続いて行われた決選投票では岸田氏が国会議員249票、党員・党友8票の計257票、河野氏が国会議員131票、党員・党友39票の計170票。党員・党友票では河野氏が圧倒したが、岸田氏が国会議員票で大きく上回り、菅首相の後継となる第27代自民党総裁に就くことが決まった。自民党が与党第1党である限り、自民党総裁イコール首相ということになる。
自民党総裁選結果
岸田文雄新総裁はどんな人物?政策は?
岸田氏は広島1区選出の64歳。祖父、父ともに衆議院議員を務めた政治家一家に生まれ、早大法学部卒業後、日本長期信用銀行、衆院議員秘書を経て1993年の衆院選で初当選した。現在9期目。2007年の第1次安倍内閣で内閣府特命担当相として初入閣し、第2次安倍内閣でも外相や自民党政調会長などの要職を務めた。
党内では宏池会に所属し、その経歴や長身で端正なルックスから「宏池会のプリンス」と言われ、首相候補とみられてきた。しかし、発信力が弱く、国民の知名度もいま一つで、菅首相と争った2020年の総裁選では大差で敗れた。今回の総裁選では「昨年9月の総裁選挙で敗北し『岸田は終わった』そんな厳しい評価もいただいた。率直に言って私自身の力不足だった」と振り返っている。
2回目の挑戦となる今回の総裁選では当初、出馬に意欲を示していた菅首相に対抗すべく、総裁以外の自民党役員の任期を3年に制限するとともに、若手を積極的に登用する考えをまず打ち出した。経済政策の柱としては「令和版所得倍増計画」を掲げ、アベノミクスの恩恵が富裕層や大企業に偏っていたとして、中間層への手厚い再分配によって格差是正を図る考えを示している。
新型コロナウイルス対策としては非正規社員などへの給付金などで数十兆円規模の経済対策を打ち出す一方、「財政再建の旗は降ろさない」とした。電子的なワクチン接種証明書の活用や検査の無料化、拡充をしつつ、経済活動を再開していく考えも示した。成長戦略としては科学技術立国に向けた10兆円規模の大学ファンドの創設などを打ち出している。
比較的リベラル派の宏池会所属だが、今回の総裁選では自身の任期中に憲法改正を目指す考えを打ち出した。皇位継承策については「女系天皇は考えるべきではない」と明言。エネルギー政策に関しては「世界最高水準の安全基準のもとで再稼働を進めていくことが大事」としている。候補間で意見の分かれていた選択的夫婦別姓の導入については「国民の幅広い理解を得るには議論が必要」と述べるにとどめている。
家族は妻と3人の息子。政界随一の酒豪として知られ、外相時代にはロシアのラブロフ外相とウォッカを飲み交わしながら会談した逸話がある。プロ野球広島カープを愛する。