岸田文雄首相は10月14日午後の衆院本会議で、衆院解散を宣言した。政府はその後の閣議で19日公示、31日投開票の選挙日程を正式決定。実質的に選挙戦がスタートした。岸田首相は勝敗ラインについて「与党で過半数」としているが、安倍政権での2度の衆院選では自民党単独で過半数、自公両党で3分の2超の議席を獲得しており、どこまで勢力を維持できるかが焦点となる。
任期満了後の投開票は現行憲法下で初
「日本国憲法第7条により、衆議院を解散する」。静まり返った衆院本会議場に、大島理森議長の宣言が響き渡った。直後、慣例通りに与党議員が万歳三唱。衆院議員の任期は10月21日に満了となるため、現行憲法下で初めて任期満了後に選挙が行われる。
衆院議員の総定数は465。このうち289人を小選挙区、176人を比例代表で選ぶ。小選挙区の定数は1、全国を11のブロックに分ける比例代表の定数は6~28。仮に小選挙区で敗れても、比例代表に重複立候補していれば惜敗率の高い順に“復活当選”することもできる。読売新聞の9月時点の調査では、全国で900人超が立候補を予定しているという。
過半数を維持できるか? 自民党と公明党の公約
今回の総選挙で自民党が作成したポスターや政策パンフレットの表紙は、笑顔の首相とともに「新しい時代を皆さんとともに。」というキャッチフレーズ。前回の総選挙では真剣な表情の安倍首相と「この国を、守り抜く。」というキャッチフレーズだったのと対照的だ。岸田首相の持ち味である優しさや親しみやすさを前面にアピールしたのだろう。
政策の中身を見ると、安倍・菅両政権への国民の批判を意識して「信頼と共感」を掲げ、アベノミクスの「成長」に加えて、総裁選時から主張する「分配」も強調している。具体的には8つの政策の柱として、新型コロナウイルス対策や経済安全保障の強化、防衛力の強化、憲法改正などを列挙している。総裁選で岸田首相が掲げた政策に加え、安倍元首相が全面的に応援し、3位につけた高市早苗自民党政調会長の主張が多く盛り込まれた印象だ。
連立与党を組む公明党は「日本再生へ新たな挑戦。」と銘打ち、新型コロナ対策を前面に掲げた。PCR検査の拡充やGO TOキャンペーンの再開に加え、高校3年生までのすべての子どもに一人あたり10万円を支給する「未来応援給付」を盛り込んだ。
また、福祉や社会保障を重視する公明党らしさとして社会的孤立の防止や非正規労働者への支援、選択的夫婦別姓制度の導入を掲げたほか、与党内で政治とカネの問題が相次ぎ批判されたことから国会議員が当選無効となった場合に、それまで支払われた歳費や手当等を国庫へ返納させる制度の創設を盛り込んだ。
非自民の受け皿になれるか? 立憲と共産が候補者一本化
対する野党の最大勢力は立憲民主党。前回2017年の衆院選では直前に結党したばかりだったにもかかわらず、小池百合子都知事らが結党した希望の党を抑えて野党第1党に躍進。その後、いったん解党して、旧民主党や無所属の議員らが合流して2020年9月に今の立憲民主党を結成した。今回の総選挙では「変えよう。あなたのための政治へ。」と掲げ、自公政権への対決姿勢を示している。
具体的には安倍・菅両政権が推し進めたアベノミクスが「競争ばかりをあおり、『自己責任』を強調し過ぎた」と批判。「表紙(首相)を変えただけでは変わらない」として、「支え合う日本」を目指すとしている。新型コロナ対策では患者に対応した医療・介護従事者への20万円支給や年収1000万円程度まで実質免除となる時限的な所得税減税、低所得者への年額12万円の現金給付などを明記。税率5%への時限的な消費税減税も盛り込んだ。
また、富裕層や大企業への課税強化や脱原発依存、選択的夫婦別姓制度の実現やLGBT平等法の制定、カジノ解禁の撤回など比較的リベラルな政策を並べた。「批判ばかり」との批判を意識してか、議員立法の提出件数などもアピールしている。
野党第2党の共産党は「なにより、いのち。ぶれずに、つらぬく」と題し、野党4党(立民、共産、社民、れいわ)の共通政策を武器に、政権交代を目指すと掲げた。新型コロナ対策では無料のPCR検査の大幅拡充や医療機関への財政支援、一人10万円の「暮らし応援給付金」の支給などを列挙。経済政策ではアベノミクスで格差が拡大したとして、最低賃金の1500円への引き上げや正規と非正規雇用の格差是正、残業時間の上限規制などを打ち出す。消費税の5%への引き下げや法人税、株取引の税率の引き上げも盛り込んだ。
立憲民主と同じく旧民主党の流れをくみながら、野党連携には参加しないこととした国民民主党は「停滞するこの国を動かすため 私たちは『対決より解決』を選ぶ 動け、日本。」と提起。立憲民主と異なり、採算的な議論で政策を前に進めるとアピールしている。ただ、具体的な政策として掲げた一律10万円の現金給付や消費税の5%への引き下げ、最低賃金の引き上げなど立民、共産との共通点は多い。
一方、リベラル系の政党とは一線を画すのは日本維新の会。「日本は、もっと強くなることができる。」と題し、これまでと同様に定数や報酬を削減する「身を切る改革」や減税と規制改革、地方分権、憲法改正の実現などを訴えている。新型コロナ対策では他の政党のような現金給付ではなく、都道府県知事への権限移譲や危機対応を強化するための法改正・憲法議論などを掲げたのも特徴だ。
主要政党が公約を発表するなか、現役の財務次官が「ばらまき合戦」を批判するという異例の事態にも注目が集まっている。目先のメリット・デメリットだけでなく、新型コロナ収束後の国のあり方をどう描いているかにも注目しなければならない。
全国の選挙区別定数[総定数465:小選挙区289/比例代表176]
※表記:■比例代表ブロック、・ブロック内の小選挙区
北海道ブロック8
- 北海道12
東北ブロック13
- 青森3
- 岩手3
- 宮城6
- 秋田3
- 山形3
- 福島5
北関東19
- 茨城7
- 栃木5
- 群馬5
- 埼玉15
南関東22
- 千葉13
- 神奈川18
- 山梨2
東京都ブロック17
- 東京25
北陸信越ブロック11
- 新潟6
- 富山3
- 石川3
- 福井2
- 長野5
東海ブロック21
- 岐阜5
- 静岡8
- 愛知15
- 三重4
近畿ブロック28
- 滋賀4
- 京都6
- 大阪19
- 兵庫12
- 奈良3
- 和歌山3
中国ブロック11
- 鳥取2
- 島根2
- 岡山5
- 広島7
- 山口4
四国ブロック6
- 徳島2
- 香川3
- 愛媛4
- 高知2
九州ブロック20
- 福岡11
- 佐賀2
- 長崎4
- 熊本4
- 大分3
- 宮崎3
- 鹿児島4
- 沖縄4