衆院選では野党第一党の立憲民主党が議席を減らしたのに対し、日本維新の会が公示前勢力の約4倍増と大きく議席を伸ばし第三党に躍り出た。本拠地である大阪府で“全勝”したのに加え、兵庫県では大阪府外では初めて小選挙区で勝利。関西以外でも比例票を大きく上積みした。これまで地域政党の色が強かった維新が全国的に躍進した背景とは。今後、全国区の政党に育つ可能性はあるだろうか。
関西以外でも立憲民主を上回る
「維新の大きな風を感じた」。大阪10区で立候補し、維新の新人に敗れた立憲民主党の辻元清美氏は選挙戦をこう振り返った。辻元氏は抜群の知名度を誇り、自民党が大勝した2014年と2017年の衆院選で連勝中だった。ところが、今回は維新の新人に1万4000票もの差をつけられ、比例復活すらできず16年ぶりに議席を失った。
維新は大阪府内の19区のうち、公明党が擁立した4つの選挙区を除く15選挙区に候補を擁立。そのうち7人は新人だったにもかかわらず、自民党や立憲民主党などの候補を退け、すべての選挙区で当選を果たした。大阪府内での小選挙区の当選者は前回2017年衆院選では3人、初めて国政進出した2012年の衆院選でも12人だった。
維新は大阪に隣接する兵庫県でも6区で元職が当選。7区でも当選した自民候補に約1500票差まで迫った。関西以外でも愛知10区や富山1区では自民候補に敗れたものの、立憲民主候補を上回った。
比例代表では近畿ブロックで自民を上回る10議席を獲得したほか、南関東ブロックで3議席、北関東と東京、東海、九州で2議席、東北と北陸信越、中国、四国でも1議席を獲得。総議席数は公示前の31から41に増え、公明党や共産党を抜いて第三党に躍り出た。
「あの橋下さんより人気」、吉村府知事を前面に
維新躍進の立役者は大阪府の吉村洋文知事だろう。弁護士出身の吉村知事は大阪維新の会の創設者である橋下徹元大阪市長に担がれる形で2011年の大阪市議選に立候補し、初当選。衆院議員を経て2015年に大阪市長に就任し、2019年には当時の松井一郎府知事と入れ替わる形で府知事となった。
市会議員時代から政策通として知られていたが、全国区に名を知らしめたのは新型コロナウイルス対策がきっかけだ。自ら陣頭指揮を執り、昼夜を問わず発信し続ける姿にインターネット上では「#吉村寝ろ」 との言葉が流行。一気に知名度が上昇し、代表の松井市長を上回る“維新の顔”となった。
今回の衆院選では、副代表に過ぎない吉村知事の顔を前面に押し出し、実行力を訴えた。吉村知事の応援演説には各地で人だかりができ、「あの橋下さんより人気」(維新関係者)との声も出るほどだ。
党の顔が橋下氏から吉村氏に代わったことで、一部の有権者の“維新アレルギー”が薄まったともいわれる。橋下氏は積極的にメディアに出演し、歯に衣着せぬ過激な言動でたびたび物議をかもした。そうした政治スタイルに強く共感する支持者がいた一方で、極度に嫌う有権者が一定数存在したのも事実だ。しかし、吉村氏ははっきりした口調で批判も厭わないが、メディア的な演出は好まず「真面目な仕事人」とのイメージが強い。そうした党の顔の変化も維新への票を増やした可能性がある。
自公与党は嫌、かつ保守的な層の受け皿に
ただ、吉村知事の個人人気だけで今回の躍進の理由を説明することはできない。もう一つあるのは自公政権への批判票の受け皿となったことだ。
本来、自公政権への批判票の多くは野党第一党である立憲民主に向かうはずだが、今回その立憲民主は共産やれいわ新撰組などとの共闘を選んだ。かなり左寄りにポジションをとったことで、保守的な思想で自公政権に批判的な有権者は野党連合を敬遠。結果的にそうした票が維新に流れ込んだ、というわけだ。
実際に共同通信の出口調査によると、「支持政党はない」と回答した無党派層の比例代表での投票先は立憲民主が最多の24%だったが、2位は維新の21%で、続く自民党の18%を上回った。立憲民主には及ばなかったものの、立候補者の数が立憲民主の240人に対して維新は半分以下の96人だったことを考えるといかに多くの無党派層を取り込んだかがわかる。出口調査からは40~50代の現役世代や、男性からの支持が比較的高い傾向が読み取れる。
第三党となった維新はさっそく、国民民主党との幹事長・国対委員長会談を開き、国会での独自法案の提出や憲法改正議論などで協力する方針を確認した。国民民主は衆院選の結果を受けて同じ民主党の流れをくむ立憲民主などとの協力関係を見直すと表明しており、今後は維新と“保守系野党”として協力関係を築く見通し。ただ、維新は国民民主の支持基盤である労働組合をかねて批判してきており、どこまで具体的な協力体制を構築できるかは不透明だ。
また、維新が全国政党として成長するには政策の“旗頭”も必要となる。昨年まで維新の政策といえば「大阪都構想」だったが、2度の住民投票で否決されたことで断念。今回の選挙でも「改革」を掲げているものの、何をどう改革しようとしているかについてはまだ多くの有権者の理解を得られていない。今後、わかりやすく共感の得られる政策を発信していけるかが、全国政党に成長していけるか、もしくは今回の衆院選でピークを迎えるかのカギを握る。