写真/若原瑞昌 取材/編集部

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女性が活躍できる社会とは~今が国家の転換期[前編] 衆議院議員 野田聖子×ワーク・ライフバランス社長 小室淑恵×編集長・佐藤尊徳

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人口減少に伴って女性の活用が叫ばれる日本。だが、仕事環境やみんなの意識は追いついているのか? 国の中枢で活躍する衆議院議員・野田聖子氏と、子育てと企業経営を両立させるワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏に、転換期ともいえる今の日本に求められることを聞いた。

株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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 政治家

野田聖子 のだ せいこ

1960年9月3日生まれ。衆議院議員。上智大学卒業後、株式会社帝国ホテルに入社し、同社初の国際セールス部女性セールス部員となる。1987年、岐阜県議会議員に当選。1993年に衆議院議員に当選し、郵政大臣(第64代)、自民党政務調査会副会長、消費者行政推進担当大臣、自民党総務会長(第52代)などを歴任。著書に『不器用』(朝日新聞社)、『私は、産みたい』(新潮社)など。

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株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長

小室淑恵 こむろ よしえ

株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長。06年(株)ワーク・ライフバランスを設立。「育児休業者職場復帰支援プログラムarmo(アルモ)」、「介護と仕事の両立ナビ」、「朝メール.com」などを開発。残業時間を削減し、業績を上げるコンサルティングを900社以上に導入している。多種多様な価値観が受け入れられる社会を目指して邁進中。二児の母の顔をもつ。産業競争力会議・子ども子育て会議など内閣府や厚生労働省・経済産業省の公務を兼任。著書多数。近著に『子育てがプラスを生む「逆転」仕事術』(朝日新聞出版)。

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野田聖子氏×小室淑恵氏×尊徳編集長[電子雑誌『政経電論』6号]

政府の数値目標は男尊女卑?

尊徳 政府が2020年までに、女性の管理職を全体の3割に引き上げる目標を掲げました。女性の社会進出は大いに賛成ですが、数値目標自体が男尊女卑の考えであって、男性側の意識を変えないと意味がない気がしています。

野田 尊徳さんもご承知の通り、この永田町・霞ヶ関(政治・行政)は時代遅れで、男性上位がスタンダードの世界だから、そのくらい言わないとわからないのだと思います。特に行政側ですが、数値目標を立てないと動かないから。わざわざ言わなくてもいいことかもしれませんが、目標値を出したことによって、じわじわと動き出したことも事実です。民間の人たちから見たらナンセンスかもしれないけど。

尊徳 小室さんは民間で働いているわけですが、率直にどう思われますか?

小室 このタイミングで数値目標を出していることは遅いくらいだと感じています。日本は現在、「人口オーナス(onus・負荷)期」という時期にあります。1970年代から1990年代半ばまでは「人口ボーナス期」で、若い労働力が多く、高齢者が少ない人口構造で、その時期の国は必ず経済発展するといわれています。今の中国・韓国・シンガポールやタイがそうです。しかし重要なことは、人口ボーナス期は一度終わると、一つの国に二度と来ないということです。

人口ボーナス期に経済発展した国では、親が子どもに投資をし、高学歴化になり、少子化が進み、時給が上がって、世界中から仕事が集まらなくなるために、GDPが横ばいになり、たくさんの高齢者を少しの若者労働力が支える「人口オーナス期」に突入します。そうすると社会保障費の維持が困難になり、経済停滞期になります。しかし、人口オーナス期になったらその国は終わり、なのではなく、人口ボーナス期と人口オーナス期では、経済が発展するルールが異なるだけなのです。

野田聖子・小室淑恵・佐藤尊徳
成熟社会日本を考えたとき、女性とか男性とか言ってる場合ではないと改めて思いました。ただ、この2人、そんな事関係なく優秀です……。(尊徳)

働き方を変える最後のチャンス

尊徳 貧乏子だくさんというけど、新興国では子どもは労働力ですが、成熟社会においては、労働市場に出て行くまではコスト負担(教育費など)が大きくなりますからね。発想を変えないと。

小室 人口ボーナス期は、労働集約型の重工業メインですから、男性が長時間働く方が経済発展につながります。日本はこのモデルで成功し過ぎてしまったために、人口オーナス期での成功ルールに切り替えるタイミングを逸してしまったのです。

人口オーナス期は労働力人口が少なくなるので、男女の差なく、多様な人材を使って、なるべく短時間で付加価値の高いものを作っていかないと、(時給が高いので)利益の上がるものを市場に出すことはできなくなってしまいます。国民も経営者も人口ボーナス期の成功体験を覚えているので、放っておくと長時間労働したがりますが、それでは勝てない構造にとっくになっているのですから、徹底的に短時間で働く仕組み作りとトレーニングも必要です。

人口の動きを俯瞰的に見られるのは国だけですから、国がボーナス期からオーナス期への転換をうまく促進できることが、経済発展への道だと思います。

尊徳 経済産業省の産業構造審議会でもおっしゃっていたことですね。

小室 現在やっと進み始めた女性の社会進出への後押しや、制度設計の見直しは、国が人口オーナス期へのルール変更をする一環ですから、本当は10年以上前から取り組まなければならないことでした。今がラストチャンスでもあります。

あと数年で、団塊ジュニア世代の出産適齢期の女性が大幅に減ってしまうので、今人口を増やす施策を取らなければ、悲観的にならざるを得ません。だから、働きながら(子どもを)産める女性を後押ししていく制度が推進されるのには賛成です。

決めれば変わる不思議な国・日本

尊徳 僕も大いに賛成ですよ。でも、男とか女とか、いちいち言ってる場合か!という感じです。聖子先生じゃないけど、言わなきゃできないのかって。

野田 この国は不思議なもので、決めればちゃんと変わるんですよ。今までは社会意義的に「女性を活用しましょう、子どもを産みましょう」と掛け声だけでなかなか進みませんでした。しかし、経済的な理由からも女性の活用が必要になって、男性側ももっと言いやすくなってきたのではないでしょうか。

労働力、消費力、納税力が弱まってきて、最後の砦は女性活用、みたいな感じだから、女性にとってもろ手を挙げてハッピーな話ではないけれども、社会を変えていかなければいけない、というメッセージでもあると思います。

小室 政府の発信は、思いのほか効果はあったと思います。「え? この企業さんが?」というところからも、弊社へ問い合わせが増えてきていますから。これまでも検討はしたけど優先順位が低く進まなかったところが、(政府の数値目標で)背中を押されて、いよいよ重い腰を上げて行動を始めたのだと思います。

野田聖子

日本が”終わる”前に転換すべきこと

野田 われわれ(政治)の世界では、専業主婦は世界遺産だという人もいて(笑)、女性の活躍推進法案が出たけども、臨時国会まで延ばされてしまいました。専業主婦が増えた方が、子どもの数が増えると思う人たちはまだいます。M字カーブは日本の文化だと。

M字カーブ

女性の労働力率[15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合]は、結婚・出産期にあたる年代に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再び上昇するというもの。

尊徳 その人たちの方が天然記念物だな(笑)。専業主婦の話が出てきたので、配偶者特別控除廃止についてうかがいます。

配偶者特別控除

婚姻関係を結んだ夫婦のうち、どちらか一方の年間収入が38万円を超え141万円以下の場合、収入の高い方(納税者)の扶養家族となり、所得税を収めずに済むというもの(141万円以上の収入があると扶養家族とはみなされず、自分で税金を払うことになる)。納税者の所得控除額は配偶者の所得金額によって増減。「身体に障害がある」「高齢である」などの条件でも変わる。また、配偶者の年間収入が38万円以下であれば、38万円の控除が受けられる「配偶者控除」の対象になる。

◇所得税=(収入-所得控除額)×所得税率-税額控除額 女性

野田 私は何を今さら、という感じですが、安倍総理としては専業主婦を否定しないのが信念のようなので、主婦ということでくくって、恩恵を受ける流れにすればいいと思います。というのも、日本はまだまだ結婚しないと子どもを作らない文化ですから。控除があるから働かないという人もいて、働いた方が損をするという制度であってはいけないと思います。でも、残念ながらいきなりゼロにするのは現実的に無理だと感じてはいます。

尊徳 世帯全体で納税すればいいのに。小室さんはどうお考えですか?

小室 配偶者控除は、かつて導入当時は理にかなった制度でした。人口ボーナス期には重工業の比率が高いので、体力がある男性をなるべく長時間、労働に引っ張り出すには、妻がすべての家事労働を無償でやってくれることが効率的だったのです。

しかし今は頭脳労働が大半ですから、女性が労働をできないことこそが非効率。もうその時代の役目は終えた制度なのですから、変えるべきだと思います。現在、配偶者特別控除を使っているのは高所得者の方々であって、低所得の方はむしろ働かざるをえなくて夫婦で働いているので、この制度の恩恵にあずかっていません。

小室淑恵

意識が変わるのが先か、”終わる”のが先か

尊徳 経団連の企業さんに、今回の女性の管理職登用について本音を聞いたら、総理が号令をかけたので”やらねばならない”という、どちらかというと後ろ向きな感覚のものでした。だから、教育とかもっと地道に意識を変える努力をしていかないといけないんじゃないかと思うのです。そのうち、「あいつは3割目標で昇格した女だ」くらいの陰口を叩かれますよ。

野田 気が付くのを待ってたら(日本が)終わっちゃいますから。今は焚きつけることによって慣れさせていくしかないと思います。今までの社会は男性が引っ張ってきたので、その時代を生きてきた経営者は、自負もあってそう簡単には変われないと思うのです。一時、見える化をさせて、女性が働いている姿をわかってもらうしかないのだと思います。

尊徳 そんなもんですかね。では、制度や考え方で必要なものはありますか?

小室 数値目標があることが、女性にとってすべてウエルカムではありません。佐藤さんが言う通り、「女性は下駄を履かされている」と思われることが女性自身つらいです。実力のある人ほど不愉快に感じているでしょう。

ただ、そんなことは言ってられなくなります。あと5年もすれば、親の介護で男性の管理職の皆さんも大変なことになります。トヨタ自動車さんの試算では、68,000人の従業員のうち、5年後に抱える親の介護数が14,000人にもなります。社員の5分の1ですよ。介護期間の平均は10年ですから、その人数は累積して増えていきます。こうなると、時間制約があるのは女性だけではなくなってきます。

東芝さんでは、介護休暇を取っている人の7割が男性です。独身の男性も増えていて、妻に押し付けることもできません。すべての従業員は休むし、短時間勤務になることもあるということを前提に、事情があっても、男女ともに能力が発揮できるシステムを作ることは女性にとってもうれしいし、男性も数年後にそのありがたみが身に染みると思います。

本当は介護を含む、日本全体の問題を包括的に考えて、労働力が大幅に削減されるということを前提に、適正な労働時間に変えていく方策を作ることこそ急務だと思います。私から見て、ワークライフバランスや、女性の活用、人口の変化などを正しく理解している企業がやっていることは、全従業員の労働時間の改善ですね。

尊徳 聖子先生、制度を作る立場からの意見は?

野田 今、社会保障費が年間で1兆円以上増え続けています。これを節約しなければいけないという課題があって、在宅介護を進めようとしてるんですが、女性の活用と矛盾するのです。男女で給料格差があるので、家に残るとしたら女性ですから。

尊徳 成熟社会になると、価値観の変化も起きて、劇的に頭の中身を変えないと国家も生き残っていけない、ということになります。次回は、お二人の実際の話も交えながら働き方について考えていきたいと思います。

女性が活躍できる社会とは~今が国家の転換期[後編] 衆議院議員 野田聖子×ワーク・ライフバランス社長 小室淑恵×編集長・佐藤尊徳