秋解散にらみ選挙準備本格化 通常国会は“解散空振り”

2023.7.14

政治

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秋解散にらみ選挙準備本格化 通常国会は“解散空振り”

写真:ロイター/アフロ

通常国会の論戦が終わり、永田町は政局モードに移った。岸田文雄首相は通常国会終盤での衆院解散を狙ったが、3つの誤算によって断念。各党、各議員は今秋の解散が濃厚とみて、選挙準備を加速させている。中でも、支持率低迷に歯止めのかからない立憲民主党と、今春の統一地方選から勢いを増している日本維新の会の動きに注目が集まっている。

解散判断は通常国会会期中に二転三転

振り返れば通常国会の会期中、岸田首相は解散について「考えていない」と繰り返していたが、6月13日の記者会見で「情勢をよく見極めたい」と軌道修正。解散風が一気に吹き荒れたが、その2日後の15日に「今国会での解散は考えていない」と改めて否定し、解散を見送った経緯がある。

通常国会が閉会した6月21日、岸田首相は記者会見で、国会終盤の“解散劇”について、「会期末に内閣が重要法案としている防衛力抜本強化のための財源確保法の成立が不透明な状態となっていたことを受け『国会の情勢をよく見極めたい』と申し上げた。15日に財源確保法の成立のメドがたったと判断し『この国会での解散は考えていない、内閣不信任決議案が提出されたら即刻否決』するよう幹事長に指示した」と振り返った。

首相は解散見送りの理由について「財源確保法の成立」と説明したが、実際には3つの誤算があったからというのが真相だ。

岸田首相が衆院解散を見送った “3つの誤算”

1つ目の誤算は、首相の長男である翔太郎氏の首相秘書官辞任。就任の際も「身内びいき」と批判されたが、翔太郎氏が2022年の年末、首相とともに暮らしている首相公邸に親族10人以上を招いて忘年会を開催していたことが発覚。組閣の際に首相と閣僚が写真撮影する階段で撮った写真なども週刊誌に暴かれ、批判を受けた結果、事実上の更迭に追い込まれた。

2つ目の誤算は、東京で新設される選挙区をめぐる与党、自民党と公明党の亀裂だ。東京では次回衆院選選挙区が5つ増えるが、新設される選挙区の一つで、練馬区の一部で構成される東京28区に公明党が突然、候補者を擁立する方針を打ち出し、自民党がこれを拒否。それを踏まえて公明党は28区への擁立を断念すると同時に、東京の選挙区では自民候補を推薦せず、都議会や東京都内の他の選挙でも協力関係を解消すると伝達した。

1999年から連立政権を組んできた自公両党にとっては最大の亀裂。公明党は支持母体である創価学会の組織力を強みに各選挙区に“1~2万票”を持つとされることから、前回選挙で辛勝した議員や比例復活した議員らを中心に「今選挙すれば危うい」との悲鳴があがった。

3つ目の誤算は、マイナンバーカードをめぐるトラブルだ。マイナカードは2016年に交付が始まり、2023年4月末時点で8786万枚が交付されている。政府はカードの活用拡大に向けて保険証との一体化や公金受取口座との紐づけなどを進めているが、ここにきて保険証に別人の情報が登録されていたり、他人の口座が誤って紐づけされていたりするケースが続々と発覚。マイナカードに不安を感じ、返納する動きが広がっている。

共同通信社が6月17、18日に実施した世論調査によると、マイナカードに「不安を感じている」「ある程度不安を感じている」との回答は71.6%。現行の健康保険証を2024年秋に廃止してマイナカードに一本化する政府方針については「延期すべき」が38.3%、「撤回すべき」が33.8%で合わせて7割を超えた。

NHK世論調査の内閣支持率は、広島サミットが行われた5月に46%で、不支持率の31%との差が15ポイントにのぼったが、6月、7月と続けて下落。直近7月は支持率が38%で、5カ月ぶりに不支持率(41%)を下回った。首相が解散を見送ったのは6月時点だが、3つの誤算による支持率下落の流れを受け、解散すれば大きく議席が減るとの自民党調査の結果が判明。慌てて解散を見送ったというのが真相だ。

秋解散に向けて野党の政局も変化

衆院議員の任期満了は2025年10月とまだまだ先だが、2024年の通常国会以降は防衛力強化や「異次元の少子化対策」に向けた負担増の議論が本格化する。そのため、与野党ともに解散時期は“今秋”との見方が主流となっている。

今秋解散の観測を踏まえ、亀裂の深まった自民、公明両党は6月26日、東京を除く全国の小選挙区で原則として相互に推薦することで合意。次期衆院選がいつ行われてもいいように、与党内のダメージを最小限にとどめることで手を打った。

一方、野党第一党である立憲民主党の泉健太代表はこれまで共産党などとの選挙協力を否定してきたが、衆院選が現実味を帯びてきたことを受けて軌道修正。これまでも協力を呼びかけてきた国民民主党に加えて他の野党とも候補者調整を積極的に行う方針を表明した。

立民の岡田克也幹事長は日本維新の会にも打診する考えを示したが、維新の藤田文武幹事長は「選挙区調整はやりません」と拒否。国民民主党の玉木雄一郎代表も「共産党と組む政党とはいっさい調整しない」と否定的な考えを示した。

毎日新聞が5月20、20日に実施した世論調査で、立民と維新のどちらが野党第一党としてふさわしいか聞いたところ、維新との回答が47%で、立民の25%を大きく引き離した。日本経済新聞の調査でも「期待する野党」との質問で維新が51%で、立民の27%に大きく差をつけた。維新はこの春の統一地方選以降、地盤である関西だけでなく全国に支持が広がりつつあり、関西の公明党地盤の選挙区にも擁立を発表するなど強気の姿勢を見せている。

立民では離党や立候補とりやめの動きも出ており、泉代表の求心力低下が進む。解散時期がさらに近づけば、野党再編の動きにつながる可能性も出てきそうだ。