小泉進次郎農林水産大臣が因縁の相手であるJAと「全面対決」へと踏み込んだ。
6月5日、政府の「コメの安定供給に関する閣僚会議」に石破茂首相とともに参加した小泉農水相は、「コメ増産」を強く掲げた。これはJAが半世紀に渡って死守してきた「減反」を見直すことに他ならない。コメの価格をコントロールするために国家が約3500億円の補助金をばら撒いて水田放棄をさせて「生産調整」をする、といういわゆる減反政策は以前から、日本の農業の衰退を招き、いずれ深刻なコメ不足に招くと警鐘を鳴らされていたが、JAと彼らの代弁者である自民党農水族によって握り潰してきた。2014年に安倍元首相が「減反廃止」を大きく掲げたが、これは政治的パフォーマンスに過ぎず、実際は飼料用米にも補助金を出せるようにしただけで、減反政策の強化だった。
このようにJAと農水族があの手この手で減反を死守してきたなかで、「コメ増産」を高らかに宣言するということは、JAに対して真正面から喧嘩を売るようなことだ。
この対立は今、マスメディアの最大の関心事だ。今から9年前の2016年、35歳の小泉氏は自民党農林部会長に大抜擢されて「農協改革」を掲げた販売手数料や流通構造の見直しを求めたが、あえなく「惨敗」した過去がある。巨大な力を持つ相手に敗れた者が捲土重来して雪辱を果たす、というのは日本人が大好きなストーリーということもあって、朝から晩までテレビでは「小泉劇場」を流している。
しかも、実はこれは石破首相にとっても「リベンジ」である。2009年、麻生政権で農林水産大臣に抜擢された52歳の石破氏は、日本のコメ農家の競争力を低下させているのは「生産調整」だとして、「減反政策の見直し」を表明。麻生首相もこれに同調してくれたことで、「骨太の方針」へ盛り込むように働きかけた。しかし結局、農水族の反発で押さえ込まれてしまった、という苦い過去があるのだ。
さらに言えば、小泉農水相の「後見人」でもある菅義偉元首相も、安倍政権時代に「農協改革」を進めようとして「痛み分け」になった過去もある。つまり、今回の「減反政策見直し」は石破、小泉、菅という3人の政治家のルサンチマンが生み出したものでもあるのだ。
では、この因縁の対決の結末はどうなるのか。カギを握るのは実はJAバンクだ。そもそもJAがなぜ減反政策に固執するのかというと、メガバンクをゆうに超える貯金残高107兆円を守るという目的が大きい。
ご存知のように、日本の農業はぜんぜん儲からなくて農家の数もどんどん減っている。マスコミによれば、コメ農家は「時給10円」で多くが赤字経営だという。にもかかわらず、なぜJAバンクに100兆円を超えるカネが集まるのかというと「減反」のおかげだ。
この政策によって、日本では「兼業農家」が増えた。この業態がありがたいのはサラリーマン収入を得ながら、生産調整に協力すれば補助金をもらえることだ。その総額は約3500億円にものぼる。しかも、減反で広大な水田が不要になって売却をした兼業農家は、巨額の不動産収入を得る。つまり、JAバンクが、JA共済、JA信連、農林中金などを擁する日本最大規模の金融グループになれた成長エンジンは「減退政策」に他ならないのだ。
こういう成り立ちの組織なので、「コメの増産」や、そこにつながる「農業の大規模化」には当然、後ろ向きになる。
わかりやすいのは、農業法人への投資だ。
個人事業主の農家は「低信用」なので、地方銀行や信用組合地域ではなく、地域のJAが融資を行うことが多い。しかし、法人格を持ち農業をビジネスとして拡大していく農業法人の場合、農林中金がガンガン融資をすべきだ。農林中金が掲げているパーパスの中にも「農林水産業の“稼ぐ力”の強化」とある。
では、2023年で農業法人3万3,000経営体のうち、どれほど農林中金から支援を受けて“稼ぐ力”が強化されたのかというと、2023年度は1万4,385社(農林中金農業関連融資取引社数)。つまり、あれほど偉そうなことを行っても過半数の1万8,615社には融資をしていないのだ。
露骨に「農業の大規模化」への消極的な姿勢に困惑する人も多いだろうが、これもJAバンクが鍵を握っている。実は農業法人は大規模のなればなるほど、JAをメインバンクにしない傾向があることがわかっている。農林水産省の「農業法人向け融資における実態調査(平成18年度)」によれば、売上規模1千万円未満の農業法人はJAをメイバンクにしている割合が66.7%もあるが、10億円未満の農業法人は20.8%、20億円以上となるとわずか7.4%しかない。農業ビジネスの拡大化に成功した事業体は、JAに見切りをつけて地方銀行や都市銀行へと流れていく。誤解を恐れずに言ってしまうと、JAバンクという巨大金融グループが本当に大切しているのは、「日本の農家をガンガン稼げるように強くする」ことではない。「生産調整に従って補助金を受け取る兼業農家」という現状をキープすることなのだ。
こういう「既得権益」が肥大化したJAバンクを、どうにか本来の「農林水産業の発展のための金融機関」に戻すには弱体化させるしかない。そこで、力の源泉である「減反」の見直しにまで踏み切ったというわけだ。もちろん、JA側も「生存本能」があるので死に物狂いで抵抗する。そこで今、仕掛けているのが、「小泉進次郎は売国政治家キャンペーン」である。
さまざまな政治家、メディアに対して、「小泉大臣が農協改革を進めているのは、父・純一郎の郵政改革と同様に、JAバンクが国内でやっているお金の流れを海外に明け渡すつもりなのだ」という話を盛んに喧伝しているのだ。もちろん、これは典型的な「陰謀論」だ。
JAバンクの中で市場運用を担当する農林中金の資料を見れば、運用資産の通貨別内訳を見ると、ドルが60%で円は22%に過ぎない。また、農林中金では債権とクレジット等で半々に資産運用しているのだが、その2つを合わせるとなんと81%を海外で運用している。
つまり、我々の血税3500億円や、兼業農家がサラリーマン収入や不動産収入でえた国内のカネをどんどん海外に流しているのは、他でもないJAバンクなのだ。しかも、酷いのはそれで大損していることだ。農林中金が5月22日に発表した2025年3月期の連結決算によれば、最終損益が1兆8078億円の赤字。前期は636億円の黒字だったが、海外運用の失敗で一気に赤字になったという。
この酷い有様は裏を返せば、ここがJAバンクを叩く「弱点」でもあるということだ。9年前、農協改革を掲げた時、小泉氏は農林中金の農業関連融資が資産に対して僅か0.1%しかないことに触れて「農家のためにならないのならいらない」と批判した。世間の注目を集めたが結局、JA全中の会長から「農家への融資は現場のJAがやっている」などと反論されて“不発”に終わった。
しかし、「米高騰」と「農林中金の大赤字」という今の社会ムードで、同じような喧嘩を売っても反応はまったく違うはずだ。
残念ながらもはやJAバンクは、「日本農業発展のための金融機関」ではなく、本来の存在意義を見失って迷走する利権集団に成り下がっている。ここを本来の姿に戻すのは政治の使命だ。一方で、自民党の票田としての貢献度もあり、かつてほどの力はないとはいえ農水族もうるさい。自らのルサンチマンのために党内の郵政族を粛清した父のように、「内なる敵」をどう黙らせるのか。小泉進次郎の政治力が問われている。
匿名
海外に流して儲けて日本が潤うのなら良いのでは?
巨額の損失は何期続く予想なのでしょうか?
筆者がそれほど大騒ぎするレベルの赤字だとして、なぜつぶれないのか不思議です。
2025.6.12 00:12
匿名
全農グレインを狙っている米国カーギル、全農を中国国営企業に売り払う企て、これらの動きを見据えて、進次郎が日本を売り払う農協改革をレポートするべきだ。
2025.6.11 20:56