「大阪都構想」の是非を決める住民投票が5月17日に行われる。賛成票が多ければ大阪市は5つの特別区に再編され、反対票が多ければ現状のまま存続。決選の舞台となる大阪市内では、都構想を打ち出した橋下徹市長率いる大阪維新の会と、反対でまとまった既成政党による”選挙戦”がヒートアップしている。
金さえかければいくらでもアピール可能
オレンジ色のTシャツを着た若者が「チェンジ大阪!」と叫べば、すぐ先の中年男性が「大阪市解体に反対!」と声を枯からす。前者は大阪都構想の賛成派、後者は反対派の運動員だ。
選挙運動が過熱しているのは、規制の緩さが一因だ。一般の選挙は公職選挙法で選挙期間が定められ、期間前の事前運動は厳しく規制される。しかし、大都市地域特別区設置法に基づく今回の住民投票は、4月27日告示、5月17日投票という期日が決められているものの、事前運動は野放し状態。4月12日に大阪府議選、市議選が終わるや否や、激しい選挙戦になだれ込んだ。
例えば大阪市長選の場合、選挙が始まるまでは特定の候補者への投票を呼びかけるチラシの配布は禁止され、期間中のチラシも2種類以内、7万枚までに限られる。ところが、今回の住民投票ではチラシの種類も枚数も制限なし。テレビCMの放映や選挙カー、拡声器の使用も自由となっている。有権者に金品を渡して投票を依頼する「買収」はご法度だが、「選挙費用」にも上限はない。
都構想に執念燃やす橋下市長
推進派の先頭に立つ橋下市長は、「”大阪都”で二重行政を解消する」と説く。住民投票で負ければ引退も辞さない覚悟を示し、実現に執念を燃やす。
府と市を合わせて『府市合わせ』(不幸せ)――。かねてより大阪府と大阪市の二重行政の問題は指摘されてきた。典型例が府と市が競うように建設した超高層ビル。大阪市が高さ256メートルのWTCビルを建てた直後、大阪府が256.1メートルのりんくうゲートタワービルを建てたという逸話が象徴している。
このほかにも府と市が張り合って行政を展開した例は少なくない。大阪府知事だった橋下氏は、当時の平松邦夫大阪市長との溝が深まるにつれ府市統合への思いを募らせ、2011年の市長選に合わせて辞職。自らが市長選に立候補し、知事の後継として腹心だった松井一郎氏を擁立した。2つの選挙で勝ち抜いた橋下氏は、維新の会の国政進出や2014年の衆院選などを経て、ようやく住民投票にこぎつけた。
住民投票で都構想が否決されれば政治家としての引退を示唆する一方、構想が実現すれば12月の任期満了をもって市長を勇退。来夏の参院選に打って出るとの見方も。かねて安倍晋三首相や菅義偉官房長官らは橋下氏に好意を寄せており、国政に進出すれば政界図を塗り替える可能性がある。
国政では考えられない! 異例の自民・共産タッグ
一方で反対派の先頭に立つ自民党。「おいしそうに見えるが、都構想は毒まんじゅう」(自民市議団の柳本顕幹事長)などと激しく攻撃し、市民に住民投票での反対を呼びかける。反対派には国政で連立を組む公明党だけでなく、民主党や共産党など、維新を除く各政党が名を連ねる。国政ではあらゆる政策分野で対立する自民党と共産党のタッグは異例だ。
これには政党間の主導権争いがある。”橋下以前”は大阪政界で主導権を握っていた自民党だが、自ら押し立てた橋下氏の離反、そして自民党が分裂する形で維新の会が誕生して以降は橋下氏に押されっぱなし。2011年の府議選、市議選では惨敗し、翌年の衆院選では大阪府内の小選挙区で全国的には追い風だったにもかかわらず、維新に3勝12敗と完敗を喫した。
民主党は同じ衆院選で維新躍進のあおりを受け、小選挙区で全敗。2014年の衆院選でも1勝にとどまり、2015年4月の大阪市議選で全滅するなど退潮傾向が止まらない。自民、民主党ともに政敵と組んででも、維新の勢いを削ぎたいという狙いがちらつく。共産党も「大阪市の廃止解体には反対」として、同党系市民団体が総出で反対運動に参加する。
最大の焦点は「住民投票後」
投票の行方は流動的だ。各報道機関の世論調査では賛否が拮抗している。住民投票の行方を占う4月の統一地方選では維新の会が府議会、市議会ともに第1党を死守したものの、反対派の急先鋒である自民党も議席を伸ばして第2党となった。賛否両派ともに「住民投票の選挙運動で結果が決まる」とみて、必死の選挙戦を繰り広げているのだ。
ただどちらが勝つにせよ、住民投票ですべての課題が解決するわけではない。都構想の実現が決まった場合には大阪市の周辺自治体の扱いが、都構想の廃案が決まった場合にも、どんな手法で二重行政を解消していくのかが問われる。
“ノーサイド”の笛を機に各政党が協力体制を築くか、いつまでも主導権争いを続けるかで、大阪の未来が決まる。
橋下氏は潔くて政治家として良いじゃないか
大阪都構想が良いかどうかはわからない。でも、何のために政治家をやっているかわからない”政治屋”も多いなか、橋下氏のように、自分の信念に基づいて思いを貫く政治家は見ていて気持ちが良い。「浪速のエリカ様」とか呼ばれている、パンダのような化粧をした女とはまるで別物だ。小泉元首相も政治家としての信念で、国民にはあまり関心のなかった「郵政民営化」という問題を成し遂げたし。
ダメなら引退覚悟という橋下氏は潔くて政治家として良いじゃないか(負けて本当に引退だと少し惜しい気がするが、地位にしがみついてほしくない)。利益誘導型でないところが、さらに良い。5月17日、大阪市民がどのような投票行動を示すのか、楽しみだ。