経済

金融庁 天上りの実態 「MOF担」復活で金融行政は変わるのか?

0コメント

みずほ銀行の暴力団関係者向け融資問題では、金融庁の検査官にみずほ銀行のコンプライアンス担当者が嘘の報告をしたことが発覚し、それを見抜けなかった金融庁検査の甘さが国会で指弾された。その金融庁検査局にメガバンク3行はじめ金融機関が多くの社員を出向(天上り)させていることはあまり知られていない。

天上り先は問題にならない?

2012年8月15日時点で、みずほと三井住友が各5人、三菱UFJは10人もの行員を検査局に出向させている。金融機関を検査する検査局に、検査を受ける側の金融機関の行員が天上ることの是非が問われかねない。

民間企業から官公庁への出向については、2009年3月に閣議決定された「採用昇任等基本方針」の中で、「官民人事交流制度、任期付職員制度、休職制度等を積極的に活用し、『官から民』、『民から官』の双方向の人事交流により一層の拡充を図る」と明記されて以降、民間企業から大量の人材が中央官庁に天上っている。最大の受け入れ先は経済産業省の471人(2012年8月15日現在)で、その半数以上は意外にも特許庁(290人)で占められている。

「人材交流と言いながら、実際は予算の制約から思うように人員を増やせない中央官庁の労働力を補完する意味合いが濃い」(ある中央官庁幹部)というのが実態だ。しかし、優秀な人材を送り出す民間企業側も色気がないわけではない。「天上り先の重要情報を入手できるわけではないが、官僚の仕事の進め方や場の空気など、ちょっとした変化をいち早く知ることができるし、なにより官僚との人脈作りに役立つ」(出向企業幹部)と語る。数年とはいえ同じ釜の飯を食ったという経験は貴重というわけだ。

なお、天上りには、「任期付き職員」「任期付き研究員」「官民交流法」「国家公務員への中途採用」「非常勤職員」の5つの制度があり、非常勤職員については出身企業との兼職も可能となっている。

人材交流は確かに必要だが

話を金融庁に戻そう。金融庁は民間金融機関のみならず、広く民間人を積極的に受け入れている。9月20日には、元金融庁キャリアの堀本善雄氏を総務企画局参事官に、米マッキンゼーやGEコンシューマー・ファイナンス(現新生フィナンシャル)などを経て、大阪府特別参与などを務めた大庫直樹氏と、産業再生機構出身で経営共創基盤のパートナーを務める村岡隆史氏の2人を非常勤参与としてそれぞれ採用して話題を集めたばかりだ。

なかでも出戻りとなる堀本氏は、08年に金融庁を退官後、米コンサルティング会社プロモントリー・フィナンシャル・ジャパンの専務に就いていた変わり種。同社は、金融庁や日銀OB・現役幹部を多く引き抜き、当局幹部とのパイプを生かして、金融機関に対し監督行政や金融検査の対応を手ほどきすることで手数料を稼ぐビジネスモデルを確立した会社である。その堀本氏が金融庁に復帰することに金融界は身構えている。「プロモントリー時代にコンサルを受けた金融機関は、自行の腹の内を堀本氏にさらけ出している部分もあり神経質になっているようだ」(金融庁担当記者)という。堀本氏のケースは、まさに「究極の官民交流・天上り」と言えそうだ。

金融庁に天上りを出している主な金融機関(2012年8月15日現在)は次のような面々だ。

■総務企画局=プルデンシャル生命、ロイズ銀行、住友生命、足利銀行、東京海上ホールディングス、日興アセットマネジメント、日本政策金融公庫、日本政策投資銀行、富士火災海上、福島県商工信用組合、明治安田生命、野村アセットマネジメント。

 

■監督局=商工組合中央金庫、信金中央金庫、千葉銀行、都留信用組合、東京海上ホールディングス、東京海上日動フィナンシャル生命、日本政策金融公庫、名古屋銀行。

 

■検査局=クレディ・アグリコル銀行、ゴールドマン・サックス証券、みずほコーポレート銀行(4人)、みずほ銀行、モルガン・スタンレーMUFG証券、三井住友銀行(5人)、三菱東京UFJ銀行(10人)、東京海上日動火災、日本生命、北洋銀行。

 

■証券取引等監視委員会=みずほコーポレート銀行、メリルリンチ日本証券、佐賀銀行、三井住友銀行(4人)、三井住友信託銀行、三菱東京UFJ銀行(4人)。

なお、これ以外に系列のシンクタンク等からの出向もあり、総数はさらに多くなる。

過剰接待で問題視されたかつてのMOF担

金融庁の検査局は検査する金融機関から天上りを受けていることについて、「検査班は担当金融機関ごとに複数あるが、民間から専門家を入れ知見を活用しているし、担当する金融機関出身者を入れていない」ということで、利益相反が生じないよう配慮していると語る。同様に証券取引等監視委員会も「検査体制強化の一環で民間から人を募っているが、出身企業を担当させないことで国民に疑われないよいにしている」と言う。

金融検査の現場では、金融技法の高度化、とりわけデリバティブ(派生商品)の実態把握には、実際にデリバティブ取引を手掛けたことがある現役銀行員でなければリスクの所在など、問題点を洗い出すのは困難な現状がある。金融機関から専門家の出向を仰ぐことは国民経済的にも有効ということであろう。また、天上りに際しては、公務員の守秘義務が課されることで情報漏れは担保されていると指摘する。

金融庁の発足のそもそもは、かつての大蔵省が過剰接待で社会的な批判を浴び、財政と金融を分離すべきとして財務省金融庁に分離された経緯がある。その過剰接待を仕掛けたのが、「MOF担」と呼ばれた大蔵省に出入りしていた民間の金融機関の行員であった。そして、その「MOF担」の多くがかつて大蔵省に出向経験のある天上り組で占められていた事実は見逃せない。過剰接待で揺れた1990年代央から20年あまり、金融庁と民間金融機関の距離はようやく近づきつつあるということであろう。

かつての天上り組の中には、後に経済財政相を務めることになる竹中平蔵氏がいる。竹中氏は日本開発銀行(現日本政策投資銀行)から大蔵省に天上がり、ここで人脈を広げ出世街道をばく進した。そして、同じ時期に野村証券から同じ部署に天上がっていたのがエコノミストの植草一秀氏であった。現在の天上り組の中から両氏のような著名人が出ることになるのかどうか興味は尽きない。