世界を読むチカラ~佐藤優が海外情勢を解説

アメリカ製兵器の購入を聖域にしてはならない トランプ米大統領の訪日

2017.11.16

政治

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写真/首相官邸

11月5~7日、トランプ米大統領が訪日した。プロゴルファー松山英樹選手を交えたゴルフ外交やコイのエサやりに加え、日米首脳共同会見ではトランプ氏がアメリカ製の防衛装備品の大量購入を要求するなど、今回の訪日はいくつかの波紋を呼んだが、佐藤優氏はトランプ大統領の狙いに懸念をあらわにする。

抑制された姿勢の後に

11月5~7日、アメリカのトランプ大統領が訪日した。この訪日で、アメリカと北朝鮮の関係が一層緊張する懸念があったが、今回、トランプ大統領は比較的抑制された姿勢を示した。

<トランプ氏の就任後、5回目となる首脳会談は北朝鮮への対応が主要議題となった。会談で両首脳は、日米が北朝鮮に「最大限の圧力をかける局面」との認識で一致。安倍首相は日本独自の制裁措置を強化し、北朝鮮の35団体・個人の資産を凍結する方針を伝え、トランプ氏は歓迎した。/会談後、共同会見にのぞんだ安倍首相は「日米が百%共にあることを力強く確認した」と述べた。トランプ氏も「我々は黙って見ていない。『戦略的忍耐』の時期は終わった」と北朝鮮を牽制(けんせい)した。>(11月6日「朝日新聞デジタル」)。

日本政府はすでに北朝鮮に対して本格的な制裁をかけているので、今回の追加的独自制裁によっても、北朝鮮に与える打撃は無い。また、「我々は黙って見ていない。『戦略的忍耐』の時期は終わった」というトランプ大統領の発言も従来と較べて北朝鮮に対して厳しくなっているわけではない。

アメリカの産業政策として北朝鮮の脅威が利用されている

むしろ興味深いのは、北朝鮮情勢の緊張を背景にトランプ大統領が日本への兵器売り込み攻勢をかけたことだ。

<「日本が膨大な兵器を買うことが重要」「米国からさらに購入していく」。日米首脳共同会見から一夜明けた7日、兵器売買に前のめりなトランプ米大統領と安倍晋三首相の発言に波紋が広がった。「既定路線」との受け止めがある一方、米国追従とも言える首相の姿勢への批判も出ている。/(中略)ある防衛省関係者は「日本のミサイル防衛の能力を一層高める文脈で出た発言であり、(陸上配備型の迎撃ミサイルシステム)イージス・アショアの導入を着実に進めるということ。日米の防衛当局間では既定路線だ」と受け止めた。一方で、省内には「首相官邸主導で、米国製の装備品の新たな導入や追加導入の圧力が強まる可能性もある」と警戒する声もある。>(11月8日「朝日新聞デジタル」)

現実的に考えてみたとき、アメリカの迎撃ミサイルで北朝鮮の弾道ミサイルをすべて落とすことは不可能だ。むしろアメリカの産業政策として、北朝鮮の脅威が利用されていると見た方がいい。

対日貿易赤字の手っ取り早い解消法

6日、首脳会談の前に、トランプ米大統領は、駐日米国大使公邸で日米の企業経営者らを前に演説したが、そこにアメリカ側の狙いが端的に示されている。

<(トランプ大統領は)「日本との貿易は公平でなく、開かれていない」と述べ、対日貿易赤字に不満を示した。赤字改善のため「我々は交渉する必要がある」としたうえで、「両国に公平な貿易協定、貿易コンセプトを考えることができるだろう。迅速で友好的にできる」と改善に意欲を示した。/トランプ氏は演説で「米国は日本との貿易赤字に何年も苦しんできた」と指摘。「年700億ドル(約8兆円)近い巨額の貿易赤字がある。日本から米国に多くの自動車は輸出されているが、米国から日本へは事実上輸出されていない」と述べた。>(11月6日「朝日新聞デジタル」)

アメリカの対日貿易赤字を解消するには、アメリカ製兵器を売り込むことがもっとも手っ取り早い方法だ。そもそも兵器に定価はない。また技術が陳腐化すれば新たな兵器をアメリカの言い値で購入しなくてはならなくなる。この点についても、防衛官僚の技術的判断にすべてが委ねられる。アメリカ製兵器の購入が新たな聖域となり財政再建が一層遅れる。この点については、財務省が不必要な予算を防衛省につけないようにきちんとチェックすることが重要になる。

アメリカ製兵器の購入を聖域にしてはならない

トランプ大統領のアメリカ第一主義は日本に対しても適用されているという現実を直視すべきだ。北朝鮮の核ミサイル攻撃、サイバー攻撃などの脅威は確かに存在する。これに対しては「自分の国は自分で守る」という気構えを持ち、知恵を働かせることが重要になる。

「思いやり予算」をはじめ、日本はアメリカに対し、すでに十分な負担をしている。貿易赤字が出るのを必要もない兵器を買わされることで帳尻を合わされることについて筆者には強い抵抗感がある。

防衛省の装備にしても、アメリカへの過重な依存を止め、イスラエルやフランスなどからも購入すべきと思う。特にイスラエル製の兵器は、安価で性能も高い。仮にイスラエル製兵器を購入しないとしても、アメリカに対して、値引きを要求する駆け引きとしてイスラエルを使うこともできる。アメリカ製兵器の購入を聖域にしてしまうと、安全保障と財政の両面で禍根を残すことになる。