2020年以降、「プログラミング的思考」がビジネスの鍵になる

2018.05.28

社会

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2020年より小学校で「プログラミング教育」が必修化される。ITからICT(Information and Communication Technology)へ移行する流れを受け、総務省はあらゆる分野にICTを導入する必要性を強調。そんななか、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)では、早くからCSR活動の一環として、小学校低学年を対象に自社開発のプログラミング教育アプリを使ったプログラミング授業を行ってきた。エンジニアだけが使えればよかったプログラミングスキルは、今後、誰もが備えなければならなくなるのだろうか? 現代人に求められるプログラミング的素養について、開発者の末廣章介さんに話を聞いた。

株式会社ディー・エヌ・エー デライトドライブ本部 CSR・ブランディング推進室

末廣章介 すえひろ のりゆき

2012年、DeNAに中途入社。内製ゲームエンジン「ngCore(エヌジーコア)」の開発、小学生向け通信教育サービス「アプリゼミ」の開発・運用を手掛ける。2014年秋よりプログラミング教育を担当。小学校低学年向けプログラミング教育のアプリ、サーバ、教材コンテンツの開発を行うと同時に、講師として教壇に立つ。

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正解を上手に答えるのではなく、自ら考え作り出す

DeNAが佐賀県武雄市の小学校でプログラミング授業を始めたのは、文科省が「小学校でのプログラミング教育必修化」を打ち出す以前の2014年10月。きっかけとなったのは、同社の南場智子会長のある考えだ。

「南場の中には、これからの日本に必要なのは“正解を上手に答えられる人間”ではなく“自ら考え、作り出せる人間”だという思いがずっとありました。では、そういう人材を育てるために、われわれはIT企業として何ができるかと考えたとき、“小学生へのプログラミング教育”が出てきたのです」(末廣さん、以下「」内は末廣さんの発言)

「子どもたちに自分で想像した物を作り出す楽しさを体験してもらうことで、未来の可能性が広がると考えました」

武雄市の小学校では、以前から東洋大学と共同し、「ICTを活用した教育」の実証実験が行われていた。児童たちは一人1台のタブレットを使って学習をしていたため、プログラミングの授業を行う環境が整っていた。DeNAが当初から小学校低学年を対象にしたのは、原体験としてプログラミングを学んでほしかったからだ。

小学校にプログラミング教育を導入

2020年から始まる新小学校学習指導要領で、プログラミング教育が必修化される。プログラミング教育では、子どもたちに、コンピュータに意図した処理を行うように指示することができるということを体験させながら、「プログラミング的思考」を育成。プログラミング的思考とは、自分が意図する一連の活動を実現するために、動きの組合せを考え、一つひとつの動きに対応した記号を組み合わせていく論理的思考力。

課題解決のためにトライ&エラーを繰り返す

ITについてはプロだが、DeNAにとって学校での授業は専門外。そこでDeNAは、教育現場で活用しやすいよう、ビジュアルで直感的に使えるプログラミングツールを開発し、それを教材にして教員に授業をしてもらうことにした。授業では教員が前に立ち、末廣氏がその横でゲストティーチャーとして技術面のサポートをする。プログラミングを学ぶ子どもたちの反応は上々だった。

「1年生は反応が素直で、『わぁ楽し~!』と喜んでくれるので、私も張り合いがありましたね。子どもたちは飲み込みが早くて、発想が柔軟です。普段から家庭用ゲームに慣れ親しんでいるので理解力も早い。ひとつ教えると、どんどん自分たちで工夫していって、3年生になる頃には複雑なプログラムもお手のもの。われわれがビックリするような出来栄えの作品がたくさん生まれました」

1~2年生の間は課外授業として実施していたが、3年生になると、生活への応用やディスカッションなどが増え、学校側からの提案で「総合」の授業として教育課程に組み込まれた。学習指導要領への落とし込みや評価は教員主体で進められた。

「3年間のプログラミング授業で、子どもたちは“自分で考えたものを自分で作れる”ことを知りました。中でもトライ&エラーを繰り返すことを覚えたのは、一番大きな学びだったのではないかと思っています」

学期末にはプログラミングで作った作品の発表会を行っている。その際に、一人ひとりが作った作品をみんなの前で発表していくのだが、うまくプログラムが動かないこともある。そんなとき、子どもたちは、時間がかかってもあきらめずにその場でプログラミングを組み直して発表するし、ほかの子どもたちもそれをしっかりと待ってくれている。教え子の成長を実感する瞬間だ。

プログラムの感覚が身に着いたことによって、子どもたちは日常の生活面でも「手順を考えて行動したり、一日のスケジュールを念頭において、やることの優先順位を決めたりといったことができるようになった」という振り返りもあった。

人が作ったゲームをやるだけではなく、「自分でもゲームが作れるかもしれない」と考えられることは、子どもたちの将来の進路選択を大きく広げることだろう。

プログラミング教育が児童間のコミュニケーションを変える!?

プログラミング授業を通して、ひとつ面白いことが見えてきた。それは、児童間のコミュニケーションに変化が起きる可能性だ。

学校では、勉強のできる子、スポーツのできる子、明るくて面白い子など、高学年になるほどキャラクターが固定化されていき、おとなしい子などは、発言がしづらくなるケースも見られる。しかし、プログラミングはどの子にとっても初体験で、平等な立場からのスタートになる。

プログラミングで作りたい作品があるという思いからか、普段はおとなしい子が活発に発言するような場面も、プログラミングの授業ではよく見られるという。すると、新しいコミュニケーションが生まれ、互いに教えたり教わったり、意見を交わしたりなど、教室内が活発化していく。

プログラミングというと、個人でやる作業と思いがちだが、実際にはチームで協業する場面も少なくない。問題や課題の解決に向けて子どもたちの間で自然発生的にコミュニケーションが生まれ、役割分担をしながら物事を進めていけるというのは、理想的な教育ではないか。

撮影/豊永和明

リアルな教育現場から生まれた学習アプリ「プログラミングゼミ」

授業中の子どもたちのリアルな反応を見ることは、末廣さんの本業であるアプリ開発にも大いに役立った。

「アプリ開発では、ユーザーがどこでつまずいているか、何に不満を感じているかをキャッチすることが重要です。その点、今回はリアルなユーザーが目の前にいたので、開発者としては非常に有益なサンプル収集ができました。子どもたちの指の使い方を見て、ボタンの位置や配置を使いやすく変えるなど、特にインターフェイスの部分で参考になりましたね」

授業用に開発したプログラミングツールを、ブラッシュアップする形で完成させたのが、プログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」 だ。このアプリは2017年10月よりApp Store、Google Play、Microsoft Storeで無料配信されている。

パズルや既成プログラムの組み替え、ゼロからオリジナル作品を制作するなど、小学校低学年から、遊びながらプログラミングを学べるのが特長だ。

「子どもと一緒に保護者が使ってくれているご家庭もあると聞きます。親子でプログラミングを体験するきっかけになれば」

「プログラミングゼミ」

指示が書かれたブロックをつないでキャラクターを動かしたり、自分で描いた絵で新しいアニメーションを作ったりなど、遊びながらプログラミングが学べるアプリ。小学校でのプログラミング授業を通じて生まれた教材のため、現場の意見が反映されていて遊びやすく、教職員も教えやすい。課題をクリアすると使えるブロックが増えるなど、段階的に理解できるしくみや、どうしてもやりすぎてしまう子のために使用時間を制限機能もある。

プログラミングゼミ 遊び方例

“自分が動かしている”という体感度がとても高い。

児童へのプログラミング教育の先駆者としてDeNAができること

現在、DeNAでは武雄市以外に神奈川県横浜市や東京都渋谷区の小学校でもプログラミング授業を行っている。

「2020年には小学校でプログラミング教育が必修化されます。それまでに、私たちがお手伝いしなくても学校独自でプログラミング授業をできるようになるのが目標です。また、今後は中高学年を対象としたカリキュラムやアプリ開発も行っていきたいと思っています」

プログラミングというと理数的なイメージが強く、小学校低学年から教えることに発達的に難しいのでは?という意見をもらうことがあるという。しかし、プログラミングは“表現のツール”であるため、低学年では、国語や図工の授業でプログラミングを学んでいる。

例えば、1年生の国語の物語の読み聞かせを聞いたり、物語を演じたりする単元について聞くと、

「物語の読み聞かせの中で、どのようなところが面白いか学んでいくと、繰り返しの構造に気づくんです。例えば、『大きなかぶ』という話ならば、大きなかぶをおじいさんが一人で引っ張って、抜けないのでおばあさんが加わって、次に孫娘が加わって……というふうに、少しずつ変化しながら展開していきます。子ども向けの多くの物語は、この繰り返し構造があることに気づくのが最初の段階です。

次の段階で、子どもたちはオリジナルの繰り返し構造を持っったお話を作り、プログラミングでアニメーションにして、物語を演じました。簡単なアニメーションのプログラミングなので、小学1年生でもできます」

やり方次第で、いくらでも授業への落とし込みはできるのだ。

大学時代に必修科目でプログラミングに触れ、課題でゲームを作成。「自分が作ったものがPC画面で動く」ことに楽しさを覚え、プログラミングの道へ。

「小学校のプログラミング教育は、“IT人材を育てる”ことを目標にしたものではありません。手順を組み立てて物事を解決していくプログラミング的思考を育てるのものなのです。先生たちも難しく考え過ぎず、自由な発想でアイデアを出し合って授業を作っていくと良いのではないでしょうか」

ちなみに、DeNAでは公教育以外にも、「プログラミングゼミ」 のPRの一環として、各地でプログラミングの体験イベントなどを実施している。

現代人に求められる「プログラミング的思考」とは

さて、これからは大人にもプログラミング的素養が求められる。総務省がこの春公表した「未来をつかむTECH戦略」 によると、「2030年代までに経済や組織、インフラ、福祉等の既存の社会システムが立ち行かなくなる」と予想されており、日本の未来のためには「アグレッシブなICT導入が不可欠」とされている。

末廣さんも「プログラミングよりさらに進んだAIの時代では、基本的なプログラミングの素養が必須となるだろう」と予想。

今後は誰もがICT分野における自己開拓をしていかねばならないのだ。では、われわれ大人が身につけるべきプログラミング能力とは何か。

「最初の話に戻りますが、これからの時代に必要なのは、南場が言うように、いかに想像し、それを形にしていくかです。PCの黒画面にプログラミング言語をコーディングすることがプログラミングの本質なのではなく、“一つひとつの処理をつなげて、物事を流していく考え方”こそが重要な能力です。その普遍的なスキルがあれば、新しいサービスや価値観をクリエイティブしていけると思います」