情報は誰が持っている?「情報銀行」は銀行がIT企業を迎え撃つための布石に他ならない

2018.07.27

経済

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写真/bee / PIXTA(ピクスタ)

三菱UFJ信託銀行は8月から「情報銀行」のサービス始めるための実証実験を行う。一般にはまだ聞き慣れないが、金融業界では知られたワード。個人の情報を企業に提供する代わりに、個人はサービスなどのメリットを得る仕組みだというが、GoogleやAmazonとは何が違うのだろうか?

金融業界で「情報銀行」は当たり前

金融界で「情報銀行」構想が浮上している。三菱UFJ信託銀行は2019年にも、個人から購買履歴などのデータを預かり、民間企業に提供する「個人データ銀行」を始める方針を固めた。8月から年内にかけ、最大1000人規模で実験を始めるという。日本経済新聞 (7月18日朝刊)が1面トップで報じた。

サービスの概要を説明すると、個人は、三菱UFJ信託が提供するスマホアプリで、自分の購買履歴や健康状態、行動記録など提供する個人情報を選択する。一方、データを集めたい企業は情報の利用目的や欲しいデータの種類をアプリ上で明示。個人は案件ごとに提供するか否かを決め、提供の対価として1企業ごとに毎月500~1000円程度の報酬を得るという仕組みが想定されている。実験にはデータ利用企業としてフィットネスクラブや旅行会社など4社が参加する予定だ。

簡単に言えば、三菱UFJ信託がスマホアプリで個人データをプール(蓄積)する仮想銀行を設立し、利用したい企業と自分情報を売ってお金にしたい個人を仲介するというものだが、この日経報道に大手銀行の関係者は一様に首をかしげる。

「この手の実験はうちでもやっている。三菱UFJ信託のリークなのだろうが、1面トップはいかがなものか。記事では『個人データ銀行』と銘打っているが、これは政府が進めている『情報銀行』そのもの。新規性は乏しい」(メガバンク幹部)というのだ。

銀行が「情報銀行」に群がる理由

このメガバンク幹部が指摘するように「情報銀行」は、政府の2016年の「日本再興戦略」に盛り込まれた構想で、すでに各銀行とも実証実験段階にある。所管する総務省も5月11日に「情報銀行」の認定に係る指針案を公表したばかりだ。

むしろ今回の日経報道でクローズアップしたのは、「三菱UFJ信託の苦しい台所事情じゃないか、同行は三菱UFJ銀行に法人融資(約12兆円)を召し上げられ、個人に活路を見出す道しか残っていないからね」(同)と揶揄する声も聞かれる。

とはいえ、なぜ、各銀行は目の色を変えて「情報銀行」に群がるのだろうか。政府の主導の政策に乗っかりたいとの色気があることはもちろんだが、そこにはマイナス金利に象徴される苦しい経営環境がある。ある地銀の幹部は次のように語る。

「少子高齢化が進み、人口が急速に減少するなか、銀行の顧客となる企業、個人ともパイは縮小している。そこに日銀の超低金利政策が続き、銀行は伝統的な預金・貸出業務だけでは食えなくなってきている。地方では優良企業をめぐる競争は激しく、これまでのような財務分析を中心にしたデータだけでは融資は伸ばせない。与信判断もフロー(資金の流れ)に着目したデータを持っていないと、思うように貸せなくなってきているのです」

属性情報はあればあるほどいいが…

銀行に必要とされる情報はまさに多岐にわたる。金融界では一般にCIF(シフ:カスタマー・インフォメーション・ファイル)と呼ばれ、個人や企業の属性がシステムで管理されている。個人ローンや企業への貸付では、このCIFをベースに独自の格付けが行われ、金利等の値付けを行う。

この属性が、従来の決済や財務を中心にした内容から、いかに多様化させ、迅速に入手するかが問われている。その情報に基づいて、顧客のニーズをタイムリーに把握し、新商品を提供することができるからだ。

属性情報には、性別、年齢、学歴、社歴、年収、家族構成、就職先、その職種や規模、過去の焦げ付き有無など、まさに多様で、大手信用情報機関のデータベースも活用。俗に、銀行の情報システムにはこれら大量のCIFがプールされているわけだが、中心となる決済(資金の移動)に関する情報は、IT業者や流通業者に侵食され、喉から手が出るほど欲しい消費動向に関する情報は、Eコマースに独占されている。

Eコマースに集まる消費動向に関する情報は金融にも非常に有効で、借り手のニーズを的確に察知して、ローンの提案をしたり、ライフステージに応じた商品の提案や開発をしたりすることができる。例えば、家族で旅行に行く計画があるときは、そのための簡便なローンの提案や、旅行に行くための貯蓄の提案など、まさにいろいろな使い方が可能。また、この人は可処分所得が多く、消費も旺盛で、しかもローンの返済が滞ったことがないという情報も大いに役に立つ。

銀行が必要とする情報は、欲張りな話だが、個人、企業に関する属性情報であれば、あればあるほどいいということになる。

情報は誰が持っている?

そこで課題として浮上しているのが、Amazon、アリババなどのEコマース(電子商取引)やFacebookなどのプラットフォーマーとの競争だ。

「銀行はつまるところ情報産業で、企業、個人の情報をどれだけ持っているのかが勝負です。これまで銀行は免許業で、独占的に情報を支配していたのですが、そこが技術革新とともに異業種に崩され始めた。圧倒的な消費者の購買履歴と決済情報を握るプラットフォーマーは最大の脅威」(同)という。

例えば、天才プログラマー高校生、ワンファイナンシャルの山内奏人CEOが開発した新サービス、アプリ「ONE」は、銀行領域に異業種が参入する典型的なケースだ。

「ONE」の仕組みは、スーパーやコンビニ、居酒屋などさまざまなレシートをユーザー1人あたり1日に10枚まで撮影して買い取り依頼ができるもの。アプリ内に貯まったお金は300円から出金でき、国内のほぼすべての金融機関で引き出せる。利用料等はかからないが、出金時に手数料200円がユーザー負担となる。

同時に、出金時に本人確認が必要になるため、「ONE」は顧客の属性データが取得できる。いわば個人にひもづく購買データが取得できることわけだ。「ONE」はこのデータを抽象化して、決済データが欲しい企業向に販売する。ビジネスモデルは、冒頭の三菱UFJ信託の「個人データ銀行」のレシート版に他ならない。残念ながら「ONE」は利用者が殺到したため、すぐさまサービス停止に追い込まれたが、こうしたIT企業からの銀行業参入はとどまるところがない。

日本に伸びる中国アリババの触手

そして今、最大の脅威となっているのは、中国電子商取引を牽引するアリババだ。中国での小売市場におけるEコマースの市場シェアは、すでにアメリカを抜き15%程度にまで急上昇している。アリババの電子決済サービス「アリペイ(支付宝)」の利用者は5億人を超え、グループ傘下の「アント・フィナンシャル」が手掛けるAI(人口知能)を駆使した小口融資「網商貸(読み:wangshangdai)」は急拡大。

実は、アント・フィナンシャルはすでに日本に上陸している。昨年1月から大手コンビニのローソンと組み、訪日外国人観光客向けに「アリペイ」によるモバイル決済サービスを提供しており、中国人観光客の訪日が最も多い7~8月には、アリペイのアプリ「奨励金」という機能を活用したボーナスポイントの還元や割引クーポンを提供した。中国人観光客はローソン商品を10~15%の割引で購入できたという。

このアント・フィナンシャルのモバイル決済は、アリペイに口座を持つ中国人観光客にほぼ限定されているが、アリババは日本人に対して本格的にサービスを提供する戦略を練っている。水面下では日本の金融庁への働き掛けも行っているとされる。実現すれば日本の金融地図は一変しかねない。

日本なら、「Amazon銀行」ができてもおかしくない

そして、究極の脅威と恐れられているのは、世界の物流、Eコマースの巨人となったAmazonによる銀行設立構想だ。6月、金融審議会の「金融制度スタディ・グループ」の委員の一人が、「Amazon銀行」や「Google Bank」が日本で誕生してもおかしくないと発言し話題を集めた。

金融庁では、昨年1月から情報技術の進展等の環境変化を踏まえた金融制度のあり方に関する検討が進められており、6月18日に中間整理が行われたばかりだ。

中間整理では、金融とITを融合したフィンテックの普及をにらみ、現状の業態ごとの規制を機能別・横断的に見直すことが柱。そこで問題となるのが、いまやEコマース(電子商取引)の巨人として、世界の流通を席捲しつつある米Amazon.comが日本で銀行を設立できるかどうかだった。

アメリカでは大手銀が、潤沢な資金を投じて強力なロビー活動を展開しているため、異業種が銀行に参入する壁は高いが、日本は異業種の銀行参入に寛容。セブン銀行や楽天銀行はその象徴で、Amazon銀行ができてもおかしくない。

アリババやAmazonが日本の金融に本格上陸したときのインパクトは測り知れない。その脅威に怯えるメガバンクなど有力邦銀は、「Amazonやアリババが競合相手にならないよう、こちらから先んじて提携を申し込むことで囲い込みに動いている」(メガバンク幹部)という。

繰り返しになるが、「タイムリーに個人、企業に関する情報をどれだけ質量ともに握ることができるかで、金融の世界の勝負は決まる」(同)といっていい。「情報銀行」はその布石に他ならない。