インターネットの世界で成功を収め、宇宙ビジネスをはじめ幅広い分野で活躍する堀江貴文氏。そして、郵政大臣、内閣府特命担当大臣、総務大臣を歴任した野田聖子衆議院議員。佐藤尊徳編集長の長年の友人である2人が、編集長の呼びかけに応えるかたちで対談が実現。堀江氏が取り組んでいる宇宙ビジネスの話から社会保障、教育、果ては女性の生理についてまで、幅広い話題が飛び出した。
宇宙への有人飛行は政治的決断の問題
尊徳編集長 堀江さんと野田さんの出会いの場に僕もいたのを2人は覚えている? (刑務所に入所する)堀江さんの送別会を広尾のレストランで開いたけど、あのときが2人の初対面だったんだよね。その後の2人はどんな関係性を築いたの?
野田 出会う前に堀江さんの存在を身近に感じたのは郵政解散選挙(2005年)のときでした。当時は敵味方の関係(※)だったけど、日本の改革を進めるために頑張ってほしいと密かに思っていた。結局亀井さんが勝って、改革は遅れることになったんですけどね。
※広島6区において、無所属の堀江氏と国民新党の亀井静香氏が対決。実質的に自民党は堀江氏の支持に回った。
堀江 亀井さんはめちゃくちゃ選挙に強いですよ。
野田 あのときは、執念がすごかったよね。総裁候補にまでなった人が、雨の中、ずぶ濡れになりながら、鬼気迫る形相で自らをアピールしていた。
尊徳 実際に出会ってからはどうなの?
野田 人を介して何度か会ううちに、親しくなっていった感じですかね。
堀江 総務大臣をしていたころに、お願いに行ったことがある。
野田 そうですね。私が総務大臣だったときに、Tシャツで来られた方は堀江さんだけです(笑)
尊徳 堀江さんは何しに行ったの?
堀江 ロケットを打ち上げるのに電波を使わなければならなくて、その申請に行きました。電波を使うには国の許可が必要で、アマチュア無線の免許だけでは商用の電波は飛ばせない。今でいえば、高性能のドローンを飛ばすにも、国から電波を使用する許可を取らなければなりません。実は違法電波の取り締まりはとても厳しくて、逮捕者も出ているぐらいなんです。
野田 電波の管理は旧郵政省の管轄で、総務省は自治省、郵政省、総務庁が合体してできて巨大官庁だから、当時大臣をやっていた私のところに来たのですよね。
総務大臣になる前に、宇宙開発担当大臣をしていたころがあって、「銀河鉄道999」の松本零士さんが立ち上げた日本宇宙少年団(YAC)の会議で、しきりに有人飛行の必要性を力説されたけど、有人飛行はそれほど重要なの?
堀江 特に有人飛行が重要だと、僕は認識していないですね。
野田 日本は技術的に有人飛行が可能だけど、犠牲者を出せないからできないという話を聞いたの。アメリカやロシア、中国は軍隊を持っているから、宇宙への有人飛行でトラブルがあって犠牲者が出てしまっても「殉職」になるから、本人は英雄になるし、残された家族への補償体制も整っている、と。
堀江 その都市伝説のような話は僕もよく聞きますが、それは単なる政治的な問題で、リーダーが決断すればいいだけ。安倍首相が「有人飛行をやる」と決めたら、日本もやれる。有人飛行をやるかやらないかは、その程度の問題です。それよりも、宇宙産業にはもっと大きな問題点があって、そっちを解決すべきだし、日本は宇宙産業にこそ力を入れるべきだと思っているんです。
宇宙開発はインターネットの世界に似ている
堀江 宇宙開発はインターネットの世界に似ています。25年前、インターネット接続料金は高かった。それが、民間企業が切磋琢磨したおかげで今や誰もが使えるようになっています。宇宙産業はインターネット産業のように、民間で開発すれば、もっと可能性を開花させることができる。日本では、そこまで考えて宇宙事業に参入している人は異様に少ないのが現状です。
尊徳 日本の産業界では、宇宙産業をビジネスととらえているイメージがないよね。
堀江 宇宙ビジネスの本当の可能性に気づき、真剣に取り組んでいる人は、日本には私たち以外にほぼいません。ところがアメリカは、Google創業者のラリー・ページやセルゲイ・ブリン、PayPalをつくったイーロン・マスク、Amazon創業者のジェフ・ベゾスといった人たちがこぞって宇宙開発に参入しています。
尊徳 みんなインターネットで世の中を変えてきた人たちだね。
堀江 そうなんです。インターネットが登場したとき、世の中の大半の人は、これが世界を変えるとは思っていなかった。しかし、彼らは世界を変える技術であることをいち早く察知し、その一翼を担いたいと思ってインターネットの世界に身を投じた。
野田 世の中を変えるような新しいことに飛びつく性格なのかな。
堀江 日本のIT企業家は、たまたまその時代に生まれて、たまたま商売をしたくてインターネットを選んだ人が多い。だからビジネスの発想が“営業的”。そう感じませんか?
野田 ベンチャーマインドを持っていたアントレプレナーだった人たちも、いつしか大人になって“第二の経団連”みたいな組織になっているな……とは思っています。
堀江 インターネットビジネスで成功したから、彼らの大半は守りの姿勢に入っている。自分が築き上げたものを守りたいんですよ。
野田 既得権益側に回ったことで、自分たちが批判してきた体制側になってしまっているのにね。
堀江 僕は既得権益にまったく興味がなくて、世界のIT企業家のように世の中を変えたり、新しいことをしたりということに惹かれる性格なんです。新しくてデカいことをやりたい人間としては、宇宙ビジネスは当然の選択。むしろ、みんななぜやらないの?と思います。
JAXAの先端技術で作る新しい情報収集衛星
野田 宇宙開発は国家戦略レベルでないと不可能だと教え込まれているから、宇宙ビジネスという発想はありませんでした。
堀江 せっかくの機会なので、ひとつ提言を。IGS(情報収集衛星)の打ち上げをやめましょう。IGSは古い衛星システム。JAXA(宇宙航空研究開発機構)は「SLATS(スラッツ、超低高度衛星技術試験機)」と呼ぶ衛星技術を持っていて、これは衛星の軌道高度を上空180kmにできます。
衛星は通常、上空300kmを飛んでいるのですが、空気濃度が上がると抵抗が増え、燃料がもたなくなります。しかし、SLATSは惑星探査機の「はやぶさ」にも採用されているイオンエンジンを使って、超低高度に衛星を周回させることを世界で初めて可能にしました。
野田 そのような話、初めて聞きました。
堀江 日本人は誰も知らないけど、世界の軍事業界ではめちゃくちゃ話題になっています。偵察衛星に使えば、現在とは比べ物にならない高画質の画像が入手できます。SLATSを何台も飛ばして広角カメラで広いエリアをカバーすれば、リアルタイムのGoogleアースの実現も夢ではありません。
反対に超望遠レンズを使えば“金正恩カメラ”が出来上がります。AIが対象の識別を行って、ずっとその人物を追い続ける。護衛艦を一隻つくるぐらいの予算でできちゃいます。
野田 すごい話ですね。
堀江 日本だけでなく、アジアの国々にサービスを提供すれば、日本への親近感・信頼度が上がるでしょう。フィリピンやベトナムなどは、南沙諸島の問題で中国に国防上の脅威を感じています。空母を配備するのは現実的でないなら、日本が作った衛星システムで中国軍の動きをリアルタイムで把握すべきです。
野田 首相官邸のミーティングみたいな雰囲気になってきましたね(笑)。
崩壊する日本の自動車産業を救う宇宙ビジネス
堀江 宇宙ビジネスは、日本の産業が崩壊するのを防ぎます。日本国内のサプライチェーンは「自動車産業」を中心に組み立てられています。自動車産業はもうすぐ崩壊するため、日本のサプライチェーンは崩壊します。
野田 やはり現在の自動車産業は崩壊するのですか。
堀江 自動車産業の崩壊は2段階で訪れます。最初はEV(電気自動車)。EVを作っている米テスラ社の時価総額はトヨタに次いで2位に位置しています。その意味でいえば、現在、世界第2位の自動車会社はテスラなんです。トヨタは過去最高益を更新して、絶好調に見えますが、将来を考慮すると危険な状況にさらされています。EV車の開発で出遅れているんです。トヨタの高級ブランドであるレクサスにEVのラインナップはありません。
野田 EVに進まないのはトヨタの社長の信念等もあるので、仕方がない部分もありますね。
堀江 たとえ信念であっても、EVに転換せざる得なくなります。EVに転換することで、自動車の部品点数が激減します。ギアボックスやドライブシャフトといった機械部品は一切必要無くなる。タイヤとホイール、モーター、バッテリー、そしてコンピュータがあれば自動車は走るようになります。
野田 テスラを見たときびっくりしたのを覚えています。こんなに簡単な仕組みで走るのかと。
堀江 EVはエンジンを使いません。このエンジンというやつは、シミュレーションが難しいんです。EVは電磁力学の世界だからシミュレーション通りに動くのですが、エンジンは高温の流体であるためシミュレーションができない。最新のスパコンでも無理。気象予測に近いんです。天気予報もスパコンを使っていますがいまだに当たらないですよね。変数が多すぎて無理なんです。
野田 今の話を聞くと、EVが本格普及したら、日本の産業構造が変わりますね。部品メーカーはどんどん潰れてしまう。
堀江 さらにその先の段階になると、自動運転が普及して自動車の必要台数自体が減ります。なぜなら、自動車を所有しなくなるからです。稼働している自動車の台数は10%を切るといわれていて、理論上は自動車の台数が10分の1になってしまいます。
だから日本のサプライチェーンを守るために、宇宙ビジネスへ投資すべきなんです。日本は宇宙ビジネスでなら世界と渡り合えます。ロケットはまだ電気で飛ばせません。自動車産業の技術やサプライチェーンを活用できます。
社会保障費の増大を解消する手立て
堀江 日本はほかにもいろいろと問題を抱えていますね。その一つが社会保障費の増大。なぜ社会保障費がこんな膨れ上がっているのか? 鬱病もそうですが、今の日本は病気認定しすぎなんです。要介護や精神病の認定基準を変えるべき。頑張れば社会で生きられる人を、病気認定して病院に送り込んでいる。諸外国に比べると比較にならないぐらい多い。そして、それががっちりと利権になってしまっている。
野田 法律を作った私がいうのも変な話なんですが、発達障がいに関しても同じことがいえるかも。個性のひとつであるはずが発達障がいと認定されたことによって活躍できないケースがあります。
マイクロソフト創業者のビル・ゲイツもApple創業者のスティーブ・ジョブズも発達障がいといわれています。彼らは社会に出て活躍したけれども、日本だったらどうだったでしょうね。私は発達障がいを持った人を差別しないで社会で活躍できる場を作るために法律を制定しました。それが予想外に逆の状況を生み出している現状が気になっていて……。
堀江 誰かがリーダーシップをとって止めないと、無限に大きくなっていきますよ。
話は少し変わりますが、“ボケない社会づくり”はある程度できると最近思っているんです。人間の健康状態に心が与える影響は、非常に大きいという話を聞き、心の予防をすれば「老化」はコントロールできるかもしれません。
肉体の観点からみた予防はエビデンスがたまっている。しかし、心と社会の関係が健康に当たる影響のエビデンスはまったくない。例えば、満員電車に乗り続けた人の健康に与える被害なんてまったくわかっていません。心が健康に大きな影響を与えるなら、満員電車は健康に悪いはずですよね。
野田 心と社会の関係が健康に与える影響ね。確かにストレス社会と呼ばれるようになったものの、ストレスが人間の健康にどんな影響を与えているかちゃんと知らない。
堀江 以前、ある産業医に聞いた話ですが、昔は会社によって平均寿命が5歳も違ったそうです。5歳ですよ! そういう意味では働き方によって健康状態は大きく変わると思います。
野田 「慢性の痛み対策議員連盟」の会長として議連に携わっておりますが、肩こりや腰痛などの慢性痛が原因で生じる経済損失は1兆円を超えると推定されているんですね。それで調べてわかったのですが、実は肉体的な原因ではなく精神的な要因で慢性痛を患っている人がものすごくたくさんいる。そういった外科的に治らない痛みを緩和する取り組みも必要だと思うのです。
堀江 同じことが起こっても、気に病む人と病まない人がいますからね。僕は気に病まない人なのでわかりませんが、気に病む人があるならなんとかする手立てがあってもいいですよね。
スマホとネットの時代に合った学校教育
堀江 教育の話をしたいんですが、今の義務教育は“国民国家の兵隊を作るためのシステム”ですから、もう時代にそぐわない。スマホとネットの時代なのに、会社や学校に集まる理由がありますか? 僕たちが子どものころは「協調性が大事」といわれましたが、ダイバーシティが浸透して個性が尊重される現代は、協調性が無くても生きていける社会になった。それなのに、なぜか学校で集団生活してインフルエンザに罹っている。
野田 多様性が大事と社会では唱えるのに、学校では多様であってはいけないとされている。変な話ですよね。うちの子は障がい児なので、今の学校では弾かれていく、教育の外へ。兵隊になれない子は普通の学校にも行かせてもらえない。
堀江 ネットとスマホで教育すれば十分。そもそも学問が苦手な子どもに勉強させても意味がない。知識を憶える必要もない。Googleがあれば必要な情報はいつでも手元に取り出せます。
野田 読み書きそろばん等はAIがやる時代になるんだから、それ以外のことを学んでいかないといけませんよね。先日、乙武洋匡さんが面白い意見を述べていたんです。センター試験でスマホを使ったカンニング事件があったのを受けて、今の学生はわからないことがあればなんでもネットで調べる世代だから、試験のときにスマホを持ってくるなというのではなく、スマホを使って答えるテストに変えた方がいいと言っていました。
堀江 僕は試験自体を無くせばいいと思っています。昔は「生徒数」という物理的なキャパシティがあったので選抜試験をしたんですが、好きな場所で、スマホで授業を受けるようになれば「生徒数」なんて好きにすればいい。そうすれば、選抜する必要もなく、したがって試験が要らなくなりますよ。2018年に「ゼロ高等学院(ゼロ高)」というインターネットを使った通信制の高校を作ったのですが、そこでは入学試験はありません。
野田 そんな取り組みもしているんですね。
堀江 本当に個性的な子が集まってきていて、ゼロ高の生徒の中には、高校在学中にすし屋を開店させようとしている子もいます。すしが好きなんだったら、すぐにすし屋になった方がいい。
今の学校教育制度では大学に行かなければいけない雰囲気がありますが、それはただの雰囲気でしかありません。すし屋になるために大学に行っても意味がない。すし屋になるにはすし以外にも、お酒の知識を付けたり、器やインテリアのセンスを磨いたり、お客さんとのコミュニケーションを学んだり、いろんな勉強が必要です。そっちの勉強をする方が、断然有意義です。
生理に関する正しい知識とピル服用を推奨
野田 教育が「兵隊を作るシステム」という表現にすごく共感したのは、私が女性だからかもしれません。同年代の男性は日本の教育システムに違和感を持たなかったかもしれないけど、女性だからこそ感じたのかも。
堀江 男女の違いの話でいえば、子どものころに「生理」について正しい知識を教えてほしい。
野田 それ賛成!
堀江 個人的な体験談だけど、女性が昨日まで機嫌が良かったのに、なんでいきなり機嫌悪くなるのか、若いころは本当にわからなかった。女性も生理について本当に正しい知識を持っているの?と問いたいです。
最初にそれを感じたのは、アフターピルの話を聞いたとき。そんな都合のいい物が本当にあるのかと思ったんです。アフターピルも含めて、生理のコントロールはある程度可能ですが、日本人はピルを服用するのに抵抗感がある。
野田 抵抗感を作っているのは政府。完全に男尊女卑の思想から生まれた空気だと思います。ピルは認可されるのが大変でした。その根底に「日本女性は貞操でなければならない」「ピルを飲むと女性は性的に奔放になる」と喧伝された事実がある。「ピルを飲む女=ふしだらな女」という構図が作り上げられてしまったのです。
堀江 生理のつらさを考えると、ピルの服薬でコントロールできるならすべきです。
野田 生理を知らないおじさんたちが、ピルは妊娠しないための薬というぐらいの認識しか持っていないから……。ピルが長く認可されなかったのは、男尊女卑の考えに凝り固まった政治家ばかりだったからだと思います。逆にEDの薬はすぐに認可されました(笑)。
堀江 確かに! 僕は恩恵を受けている側なので何ともいえませんが(笑)。
野田 気をつけて使うんだよ(笑)
堀江 ピルの服用や生理の知識を男性が持つことが広まってほしいのは、男性にとっても役立つからです。女性が気持ち良く働いてくれれば生産性が高まります。男性も生理に関する正しい知識を持って、ピルの服用を推奨すべきだと思います。