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“自民一強”陰りも、民主系存在感なく 統一地方選2019前半戦

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11道府県知事選や41道府県議選などの統一地方選前半戦が4月7日、投開票された。大阪府知事と大阪市長の辞職に伴う“ダブル選”は、「大阪都構想」の実現を目指す大阪維新の会がいずれも圧勝。“保守分裂”となった4つの県知事選では、自民党の推薦候補が2勝2敗。これまで“一強”といわれてきた自民党の勢いに陰りが見えるが、旧民主党勢力も存在感を発揮することはできなかった。

“大阪ダブル選”は“野合”批判で自民党票が維新へ流れる

平均投票率は44.08%で2015年の前回を下回り、過去最低を記録。“大阪ダブル選”や“保守分裂”で注目度の高かった選挙区以外は、埼玉、千葉、愛知、兵庫、広島、香川、宮崎など40%を割る地域もあり、有権者の関心の低さが目立った。

さて、前半戦で最大の見どころは“大阪ダブル選”。大阪都構想をめぐる政党間協議の決裂を受け、維新の会の松井一郎知事、吉村洋文市長が辞職。松井知事が市長選に、吉村市長が知事選に、立場を入れ替えて出馬するという異例の展開となった。本来、任期満了に伴い秋にやるはずだった選挙を統一地方選に繰り上げたのは、両氏がそのまま再選を目指すと任期が引き継がれ、秋に再び選挙となって選挙費用が膨らむとの批判を招く可能性があったからだ。

都構想に反対する自民党は、知事選に元副知事の小西禎一氏、市長選に元自民党市議の柳本顕氏を擁立。公明党立憲民主党国民民主党、共産党など維新以外の政党がこぞって応援するという“維新vs反維新”の一騎打ちとなったが、知事選は100万票、市長選も18万票差をつけて維新が制した。

ここまで大差がついたのは、自民党支持者の多くが維新の候補に票を投じたからだ。共同通信の出口調査によると、知事選、市長選ともに自民党支持層の約5割が維新候補に投票。立憲民主や公明党の支持層も一部が維新候補に流れた。自民党は二階俊博幹事長らが連日、大阪入りしてテコ入れを図ったが、政策の異なる政党が“反維新”だけでまとまっただけに、有権者の“野合”批判を招いた可能性がある。

ダブル選の勝利を受け、大阪維新の会は再び都構想の実現を目指すが、ハードルは低くない。朝日新聞の出口調査では有権者の約6割が都構想に「賛成」と答えたが、住民投票の実施には府議会と市議会の両方で賛成多数を得る必要がある。7日の府議選で維新は過半数を獲得したが、市議選は第一党となったものの過半数には2議席届かなかった。再び公明党など各党との水面下の折衝が激しくなりそうだ。

麻生副総理の推し候補惨敗、島根「保守王国」も敗北の衝撃

大阪以外での注目は島根・福岡・福井・徳島の4知事選の“保守分裂選挙”だ。福岡は過去の国政選挙での対応を問題視されて自民党の推薦を得られなかった現職の小川洋氏と、地元選出の麻生太郎副総理兼財務相が後押しする元厚生労働省官僚の武内和久氏の戦い。麻生氏らは自民党の推薦も取り付けて全面的に支援したが、麻生氏と距離を置く二階派の地元選出国会議員や古賀誠元幹事長、山崎拓元副総裁ら自民党の大物OBが小川氏を支援し、乱戦となった。

選挙戦は終始、現職の小川氏が優位に立ったが、今月1日に武内氏の応援演説で麻生派の塚田一郎国土交通副大臣(当時、4月5日に辞任)による「忖度」発言が飛び出した。これが決定打となり、約90万票の大差で小川氏が再選を果たした。知事選で自民党の推薦候補が対抗馬の3割以下の票しか獲得できないというのは異例で、麻生氏の責任を問う声も出そうだ。

同じく保守分裂選挙となった島根県でも自民党候補が敗れた。地元の国会議員やベテラン県議らが元総務省官僚の大庭誠司氏を自民党推薦候補としたのに対し、中堅・若手県議らは同じ元総務省官僚の丸山達也氏を支援。大庭氏陣営は従来型の組織選挙を繰り広げたが、約3万票差で丸山氏が制した。

島根県は竹下登元首相や“参院のドン”と呼ばれた青木幹雄元自民党参院会長らを輩出した「保守王国」。竹下首相の弟で竹下派会長の竹下亘氏や青木氏の長男である青木一彦参院議員らが大庭氏の支援に回っただけに、“王国崩壊”の衝撃は大きい。

極めて弱まる野党の存在感

一方で、ともに保守分裂となった福井県知事選では自民党の推薦を得た元副知事で元総務省官僚の杉本達治氏が、一部の県議らが支援した現職、西川一誠氏の5選を阻止。徳島県知事選では自民党推薦の現職、飯泉嘉門氏が元自民党県議の岸本泰治氏を退けて5選を果たした。

11知事選のうち、唯一の与野党対決型となった北海道知事選は、自民党推薦で前夕張市長の鈴木直道氏が、立憲民主、国民民主、共産、自由、社民の5野党の推薦を受けた元衆院議員の石川知裕氏を退けて初当選を果たした。結果的には約60万票の大差。かつて「民主王国」と呼ばれた北海道ですら野党は存在感を発揮することはできなかった。

失速する自民党>受け皿になれない野党

前半戦全体を見渡すと、自民党の勢いに陰りが見てとれる。2012年に自民党が民主党から政権の座を奪い返し、安倍政権が誕生して以来“自民一強”といわれ続けてきたが、安倍政権のナンバーツーが地元で猛烈に後押しした候補が惨敗。かつての保守王国でも国会議員が支援した候補が地方議員の後押しする候補に敗れた。大阪では自民、公明の与党だけで戦うことすらできず、野党の手も借りたが維新に対抗することができなかった。

自民党の二階俊博幹事長の地元、和歌山県御坊市では定数1の県議選で、自民党現職が共産党新人に敗れるという珍事も起きた。与野党対決となった北海道知事選は制したが、自民党の組織力や人気というよりも、財政破綻した夕張を再生した鈴木氏の知名度や実績が大きかったというべきだろう。

とはいえ、北海道知事選に代表されるように、野党も存在感がない。前回統一地方選の41道府議選で旧民主党は264議席を獲得したが、今回は民主党の流れをくむ立憲民主と国民民主で合計201議席と大きく勢力を減らした。地方組織がうまく立ち上がっておらず、候補者の擁立に難航したほか、立憲民主と国民民主のつぶし合いも見られた。自民党の勢いに限りがあるものの、野党が受け皿となっていないというのが現状だ。

夏の参院選に向け、与野党はどう立て直すか。北海道知事選で機能しなかった野党共闘をめぐっても各党間の綱引きが活発化しそうだ。