10月31日に迫った衆院選における主要な争点の一つが「夫婦別姓」や「LGBT」など社会的価値観の変化への対応だ。公約を見比べると選択的夫婦別姓制度や「LGBT平等法」の導入を明記する政党がある一方、自民党の“消極性”が目立つ。新型コロナ対策や経済再生策とともに、こうした新しい時代への対応にも注目したい。
〈選択的夫婦別姓〉自民党だけが慎重
新しい時代への対応の中で、最も違いがわかりやすいのが選択的夫婦別姓だ。現行の民法では結婚する際に夫婦どちらかの姓を選ばなければならないと規定しており、実際には大半の夫婦が夫の姓を選択している。法律の改正により結婚後も希望すれば夫婦それぞれ別の姓でいられるようにするのが選択的夫婦別姓で、国民の間では年々理解が深まっている。
内閣府が2017年に行った世論調査では、42.5%が「法律を改めても構わない」と回答。「夫婦は必ず同じ苗字を名乗るべきであり、法律を改めるべきではない」の29.3%を大幅に上回った。政府では定期的にこの調査をしているが、法改正してもいいとの回答が徐々に増えており、2017年調査では過去最高だった。特に50代までの世代では法改正してもいいとの回答がほぼ50%を超えている。朝日新聞が2021年4月に行った調査では選択的夫婦別姓に賛成との回答が67%にのぼり、反対を大きく上回った。
「来年の通常国会に選択的夫婦別姓を導入するための法律を提出することに賛成か」。10月18日に行われた日本記者クラブ主催の党首討論会で、立憲民主党や公明党など9つの政党の党首が賛成に挙手。岸田文雄首相だけが手を挙げなかった。
公約では「選択的夫婦別姓制度を早期に実現」(立憲民主)、「選択的夫婦別姓制度の導入を推進」(公明)などと明記するなか、自民党は「氏を改めることによる不利益に関する国民の声や時代の変化を受け止め、その不利益をさらに解消する」との表現にとどめた。原案には「夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方についてさらなる検討を進める」との文言があったが、慎重論を受けて後退させたという。自民党内には夫婦別姓の導入が日本の伝統や家族制度の崩壊につながりかねないとの慎重論が根強い。ただ、メディアによる候補者へのアンケートでは選択的夫婦別姓に「賛成」と答える自民党候補も少なくない。
共産党は「選択的夫婦別姓制度をいますぐ導入」、日本維新の会は「戸籍制度を維持しながら実現可能な夫婦別姓制度の導入」、国民民主党は「選択的夫婦別姓を実現」などとしている。
ちなみに衆院選の投票に伴い、最高裁判所の裁判官に対する国民審査も行われる。最高裁では2021年6月に現行の「夫婦同姓」を「合憲」と判断したが、その際に裁判官の間で判断が分かれた。今回、国民審査の対象となる11人の裁判官のうち、7人がこの判断に関わり、4人が合憲、3人が違憲と判断した。なかなか関心の高まらない国民審査だが、こんなポイントにも注目してみたい。
夫婦同姓を合憲と判断した裁判官
大谷直人長官、池上政幸、小池裕、木沢克之、菅野博之、山口厚、戸倉三郎、深山卓也、林道晴、岡村和美、長嶺安政
夫婦同姓を違憲と判断した裁判官
三浦守、宇賀克也、草野耕一、宮崎裕子(すでに退職)
※今回の国民審査の対象は黒字の裁判官のみ
〈LGBT法案〉超党派による議員立法は保守系議員の反発で断念
夫婦別姓とともに関心が高いのは「多様な性」への対応だ。超党派の議員連盟は「LGBT理解増進法案」を作成し、今年の通常国会に提出する予定だったが、自民党の一部の強い反発を受けて断念。国会提出が見送られた経緯がある。
今回、自民党は政策集に「性的指向・性自認(LGBT)に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法のすみやかな制定を実現」と書いたが、公約本体ではなく138ページにわたる政策集の一部。党内の保守派には「多様な性」への異論も根強く、今年の通常国会のときのように党内の意見集約がうまくいかない可能性もある。
一方、立憲民主党は「LGBT平等法の制定」に加えて「同性婚を可能とする法制度の実現」にも踏み込んだ。与党の公明党は「性的指向と性自認に関する理解増進法等の法整備」と、自民党と同様の表現に加え「自治体パートナーシップ認定制度の推進」を盛り込んだ。共産党は「LGBT平等法を制定し、社会のあらゆる場面で性的マイノリティーの権利保障と理解促進を図る」、日本維新の会は「同性婚を認め、LGBTQなど性的少数者が不当な差別をされないように立法措置を講じる」と記載。国民民主党は「与党の反対により進まない「LGBT差別解消法案」の成立を目指す」とし、自民党をけん制した。
〈クオータ制〉女性議員の割合は先進7カ国中最下位
クオータ制とは格差是正を目的に一定の割合で人数を割り当てる制度。今回の選挙では与野党ともに「女性活躍」を掲げているが、女性候補は全体の17.7%にとどまっているというのが現実。2021年3月に発表された国際調査では、世界全体の女性議員の割合が25.5%だったのに対し、日本の衆議院は9.9%で先進7か国(G7)中最下位、全体でも166位にとどまっている。
そうしたなか、立憲民主党は公約に「各議会での男女同数を目指す」と記載。共産党は「2030年までに政策・意思決定の構成を男女半々に」との目標を掲げた。国民民主党は「党として、女性候補者比率35%の目標達成を図る」とした。
一方、自民党は政策集に「国会において女性が活躍しやすい環境を整える」「地方議会の女性議員の増加を図る」と盛り込むにとどめた。
〈皇室制度〉眞子さんの結婚で注目集める皇室制度
秋篠宮殿下の長女、眞子さんの結婚と皇室離脱で注目を集める皇室制度についても各党の主張に違いがみられる。自民、公明両党は公約に記載がないが、岸田首相は9月の総裁選で皇位継承の安定化について「旧宮家の男系男子が皇籍に復帰する案も含め、女系天皇以外の方法を検討すべきだ」と明言。党内の保守派に配慮して、男系継承の重要性を訴えた。日本維新の会も「古来例外なく男系継承が維持されてきたことの重みを踏まえた上で、安定的な皇位継承に向け旧宮家の皇籍復帰等を選択肢に含めて、国民的理解を広く醸成しつつ丁寧な議論を率先する」としている。
一方、立憲民主党は政策集に「皇位の安定的継承と女性宮家の創設にむけて国民的議論を深める」と記載したが、国民民主党は「『主権の存する日本国民の総意に基づく』かたちで解決へと導く」との記述にとどめた。
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今回の衆院選は、これまでの政権を担ってきた自民党に対する評価という点が大きいが、最も重要視するコロナ対策や経済対策は与野党ともにあまり差を見つけづらい。そんなときにはこういった特色のある政策に目を向けてみるといい。こうした各党の違いも意識しながら、自分の投じるべき政党を決めたい。