電子機器商社・黒田電気の社外取締役を務めていた安延申さんをゲストに招いた対談[3]。投資ファンドMBKパートナーズ傘下のKMホールディングスによる完全子会社化に伴い、黒田電気は3月に東証一部上場廃止。村上世彰氏率いる村上ファンドは、経営陣に対して昨年6月に社外取締役を送り込み、企業価値を高めるための体制を整えたはずでしたが、あっという間にTOB(株式公開買い付け)となりました。
株主が単独ファンドでどこまでやりたいことができるか
鈴木 結局、黒田電気は会社としてどうなっていくんですか?
安延 簡単ですよ、単独のファンドが株主になるだけです。
鈴木 ただそれだけですか? 企業活動は変わらずですか?
安延 僕はもうすぐ取締役を退任しますが、もともと村上(世彰)さんのような人がマーケットに出てきたとき、会社は誰のもの?という議論があがるじゃないですか。彼は「基本は株主のもの」という考えですが、僕はいわゆるステークホルダーと言われている人たちを考えなければいけないと思っています。つまり、経済価値を作ることを支える「従業員」、お金を出して買ってくれる「お客」、そして最初に必要なお金を出してくれる「株主・資本家」という考え方です。
尊徳 村上さんもそれは言っていたけどね。
安延 彼は「株主」であることが全面に出るからね。今回の件を通じて思ったのは、日々接する従業員に対して、経営者は彼らの利害を考えざるを得ないわけです。お客に対しては当たり前。だって、お客の機嫌を損ねたらモノが売れなくなりますから。多くの会社はこれを一番大事にしているはずです。
それと比べて、創業資金を出してくれた株主に対しては、どこまで配慮すべきか。株主総会では「最大限の配慮をしています」と言うものの、本当はどうなのっていうところは議論があると思うんですね。
それでも、株主総会にかかって過半数の支持を得られれば、残りの少数株主が何と思おうとOKなんですが、今度は一つのファンドが100%持つわけですからね。
誰でもモノを買うときまでは、「いやいや、あなた様の言う通りにします」って言うんですけど、買った後も同じかどうか。だから、今までと同じことができるかどうかというと、僕はわかりません。
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TOBで村上ファンドが得た約84億円の意味
鈴木 MBKパートナーズというファンドはどういう性質なんですか?
安延 基本的には長期保有ファンドです。
尊徳 村上さんからゴルフ場も買っているよね。アコーディア。
安延 アドバンテッジパートナーズとかとよく似ていて、経営上の無駄を排除して構造改革をして……。
尊徳 いわゆるアクティビストという風なことは言われないね、ああいう人たちは。
鈴木 穏健な感じなんですね。
安延 いやいや、アクティビストか、そうでないかというのは、穏健で分けちゃいけない。そうではなく、彼らは本当に会社を買ってしまうので。アクティビストって別に買わないじゃないですか。
尊徳 丸ごとはね。
安延 村上さんは、今度は買ってもいいと思っていたはずなんです。彼が主張しているのが、電子部品商社のマーケットで生き残る、勝ち残る道だと思っていた。よく見ると、MBKと村上さんが言っているのは、ほとんど一緒のことなんです。ただ、それをケンカ腰に言うか、フレンドリーに言うかの差ではないかと。
鈴木 やっぱり穏健かどうかじゃないですか。
安延 それは言い方の問題であって、やり方の問題ではない。
鈴木 結構儲けたんですかね、村上さん。
尊徳 利益は出たよ。
安延 あまり表には言っていませんが、僕は社外役員として、両者の橋渡しみたいなことをやっていたわけです。会社はどうしたいんですかと聞くと、ファンドは会社の中期計画を非常に評価してくれているので、彼らと一緒にやりたいという返答だった。
一方、村上さんに、彼が主張していた経営モデルが実現できなくてTOBみたいな話になったらどうするんですか?と尋ねたら、最終的には株主利益だから、会社を自分たちのプランに基づいて業界再編をやっていった場合とTOBで、株主の利益はどちらが大きいか考えるということだった。時間的要素も含めてね。
それが結果的に、当時2000円くらいの株価だった会社がTOBで2720円に。つまり、非常に短期で35%のプレミアムがついたわけです。結果、93%くらいの株主が応募したはずで、株主にもメリットがある格好だった。
だから会社もそのファンドとやりたいと思い、村上さんを含む株主もその値段ならいいよと思い、今のところはハッピーシナリオで着地をした。ただ、35%のプレミアムってデカイですからね。
尊徳 デカいよ~。
安延 ファンドからすると株価を2720円にしただけでは、単に原価に戻っただけなので。それこそ3500円とか4000円分の価値がある会社にしてくれなきゃダメだと思っているでしょうから。僕は会社を去りますが、残る経営陣の皆様はこれから先、重いですよ。
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再び村上ファンドの時代は来る?
尊徳 俺、MBKの社長も村上さんも安延さんもすごく親しいのに、何にも知らなかったっていうのもどうかと思うけど。まあ、知ったらインサイダーなんだけど(笑)。
安延 僕は言えないじゃない。
尊徳 そりゃそうだ、わかってるよ。
鈴木 近いほど知りえないですね。
尊徳 知りえちゃいけないんだけどね。一応、自分はメディアの人間だから勘づくこともできたはずなのにって。
安延 自分の勘の無さに対して反省しているわけね。
尊徳 そういうこと。(ニコ生の視聴者が)「村上さん再びの時代は来ますか?」って。う~~~ん、別に彼は消えないし活躍はするだろうけれども、前面に立って何かやるかというと、それは違う。
安延 全然違いますね。以前の彼は、人様のお金を預かって、たぶん5000億くらい運用していたはずです。
尊徳 4000億くらいだね、最後は。
安延 要するに、4000億を運営するためだけのBUYとSELLの頻度です。今はもう人様のお金は預からないから。
尊徳 プライベートファンドだからね。
安延 自分のお金だけでやっているから。当たり前ですが、今まで10回できていたことが1回しかできない、あるいは0.5回しかできなくなるわけですから、昔みたいに再びってことはありません。
村上氏は「負けることが悔しい」依存症
尊徳 でも、個人のお金でやるのもすごい。それができるのが。
安延 羨ましいですよね。
尊徳 羨ましいよな。本当にすごい。
安延 いくらもっているの?とは聞いたことはないけれど。
尊徳 「お金はありますよ!」って彼はよく言うよね。ハハハ。もう言わなくてもわかってるって。
鈴木 井川意高さんも、ジャンルは違うけど、(カジノで賭ける金は)お金じゃなくなっていたと言っていました。
尊徳 ある種、一緒。
安延 ジャンルが違うって言うのかな(笑)。
尊徳 それは孫(正義)さんも同じ。経営ということに対して、熱狂的に自分がやりたいというふうな、ある種の依存症。でも、村上さんはお金を儲ける。儲けるというか、利益を出すということに対しての依存症だと俺は思う。だからお金に執着するっていうよりも……。
鈴木 ゲーム的な。
尊徳 う~ん、ゲームって言ったらおかしいけれど、お金が1000億円あるときに2000億円欲しいという感覚ではないと、俺は思っている。
安延 人様のお金を運用しているときは、100億の勝負で勝って1億の勝負で負けても、99億は儲かるわけじゃないですか。ファンドマネージャーとしてはそれでOKだし、彼自身、そういうことで自分のファンドを運用していたと思う。
でも今は、大きな会社に対しての100億と、小さなベンチャーに対して1億入れることは、彼の中では昔に比べると、その差はものすごく縮まっていると思う。先ほど佐藤(尊徳)さんが言った「負けることが悔しい」というのが、たぶんある。
尊徳 あの人はそうだよね。負けず嫌い。
鈴木 以前、娘の村上絢さんを取材したときも、正しさの証明みたいなのがありましたね。
»C&IホールディングスCEO 村上 絢 私には村上の意地がある
尊徳 永遠と続いてしまうので、安延さん、近々また来ていただいて。
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