「大阪都構想」ついに決着へ 地方自治の分岐点にも

2020.10.29

政治

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大阪維新の会代表で大阪市長の松井一郎氏、代表代行で大阪府知事の吉村洋文氏

写真:つのだよしお/アフロ

大阪都構想」の賛否を問う2度目の住民投票(正式名称:大阪市廃止・特別区設置住民投票)が11月1日に大阪市で行われる。世論調査では一時、賛成派が反対派を上回っていたが、ここにきて反対派がやや優勢という。都構想を推進する大阪維新の会と、反対する自民党や立憲民主党、共産党など既成政党とのがっぷり四つの戦い。橋下徹知事(当時)が10年前に提唱して以来、大阪を二分してきた政策論争がようやく決着の時を迎えている。

可決されても「大阪都」になるわけではない

大阪都構想」は政令指定都市である大阪市を廃止し、現在の24区を再編して4つの特別区を設置するというもの。東京都の23区のように広域的な政策は大阪府が担い、身近な行政サービスは地域の実情に合わせて特別区が企画立案し、提供するという制度だ。特別区の区長は東京のように公選制となる。

大阪都構想における特別区4区案  ※()内は人口

北西の淀川区(60万人):現在の港、此花、西淀川、淀川、東淀川区

北東の北区(75万人):同福島、北、都島、旭、城東、東成、鶴見区

南西の中央区(71万人):住之江、大正、西、中央、浪速、西成、住吉区

南東の天王寺区(64万人):阿倍野、天王寺、生野、東住吉、平野区

なお、“~都構想”と謳ってはいるが、住民投票で可決されたからといって「大阪都」になるわけではなく、名称は大阪府のまま。大阪維新の会は大阪都に名称を変更すべきだと主張しているが、その場合は法改正が必要となる。

橋下市長の大阪都構想1stステージをプレイバック

2015年に橋下氏率いる大阪維新の会が都構想を提唱した最大の狙いは“二重行政の解消”だ。大阪のように大きな政令指定都市を抱える都道府県では、経済や商業の中核となる政令指定都市部分はあらゆる権限を市が握っており、警察や消防などの機能を除くと都道府県にはほとんど権限が無い。都道府県が広域的な政策を実行しようと思っても、中心部の市側の同意が必要なため、結果的に主導権争いが生じやすい。

現在は大阪府と大阪市のトップをともに大阪維新の会が占めているため協力関係が築けているが、かつては熾烈な主導権争いが繰り広げられた。その象徴が、大阪市が湾岸エリアに建設した地上55階、高さ256メートルの超高層ビル「大阪府咲洲庁舎(通称:さきしまコスモタワー、旧名称:大阪ワールドトレードセンタービルディング)」と、大阪府が関西国際空港のそばに建設した地上56階、高さ256.1メートルの「りんくうゲートタワービル」だ。建設計画中も互いを意識して設計の変更等を行い、最終的には大阪府が10センチ差で勝利。その争いのためにおよそ1800億円もの開発費用が投じられた。

ほかにも当時、府と市が競うように開発した多くの公共施設がその後、採算が合わずに破綻や閉鎖、売却を余儀なくされている。また、府と市の主導権争いが不幸をもたらすとして、「府市合わせ(不幸せ)」などという言葉もささやかれた。

大阪維新の会は府と市の主導権争いにより多額の無駄が生じていると主張。当初は政令指定都市の大阪市と堺市をともに廃止し、大阪市を8区、堺市を3区に再編、さらに周辺の9市を特別区にして東京都23区ならぬ、大阪都20区を設置する構想を打ち出した。その後、堺市で都構想に反対する市長が当選したことなどから堺市は構想から外れることとなり、大阪市のみを特別区に再編するという現在の構想に落ち着いた。

自民党や旧民主党、共産党などの既成政党は一貫して都構想に反対の立場を貫いてきた。反対理由は「愛着ある大阪市を解体すべきじゃない」「今の制度で困っていない」「特別区の再編に多額のコストがかかる」などとさまざま。最近では新型コロナウイルスの感染拡大で特別区の財源が減り、赤字に陥る可能性があるとの指摘もある。

反対派は住民投票にも反対したが、当初は反対派だった公明党住民投票の実施に賛成したことで住民投票の実施が決定。2015年5月に最初の住民投票が行われたが、反対70万5585票、賛成69万4844票の僅差で否決された。得票率の差はわずか0.8ポイント。責任をとって橋下徹市長は引退の意向を表明した。

3回目は無い。他県への影響は

大阪都構想が再び息を吹き返したのは2019年の“出直しクロス選”だ。橋下市長の盟友だった松井一郎府知事と、橋下市長の後任として当選していた吉村洋文市長がそれぞれ立場を入れ替えて立候補。異例の選挙戦術に批判の声もあがったが、ともに既成政党側の候補を大差で破りって当選した。

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このことで維新の選挙の強さが改めて浮き彫りとなり、対立候補を擁立されるのを嫌がった公明党が都構想賛成に回った。これにより維新と公明とで議会の過半数を占めることとなり、特別区4区案が可決。2020年11月1日に2回目の住民投票が実施されることとなった。

松井市長は2回目の住民投票で否決されたら政治家を引退すると明言。今回も否決となれば維新の会を立ち上げた橋下、松井両氏がいなくなり、都構想は頓挫する可能性が高い。新型コロナウイルス対応で名を上げた吉村知事は引退を否定しているが、3回目の住民投票までこぎつけられる可能性は低い。否決されれば10年来の政策論争に終止符が打たれ、これまで維新の会に押されっぱなしだった既成政党側が勢いを盛り返すことになりそうだ。国政政党である日本維新の会の勢いもしぼむ可能性がある。

逆に可決されれば、その影響が全国に広がる可能性がある。二重行政の弊害は大阪に限ったことではなく、愛知県の大村秀章知事と名古屋市の河村たかし市長が火花を散らしているように、政令指定都市のある都道府県はどこも大なり小なり同じ悩みを抱える。横浜市や川崎市、神戸市などには県から独立する「特別自治市」構想があり、こうした動きが再び全国で盛り上がる可能性がある。

期日前投票は約30万人(10月28日現在)と有権者数223万人の約1割が投票を済ませている。前回より2割ほど増えており、コロナ禍の影響もあるだろうが、注目度の高さがうかがえる。また、今回は5年前には投票権の無かった18、19歳の若い世代の有権者が増えていることも結果に影響しそうだ。

菅義偉首相は安倍晋三前首相とともに大阪維新の会の橋下、松井両氏と毎年、定期的に会食するなど親密な関係を築いていることで知られる。大阪自民党が反対している手前、菅首相は沈黙を守っているが、都構想が可決されれば都市制度の見直しに動き出す可能性もある。11月1日の住民投票は、大阪市民以外にとっても大きな転機になるかもしれない。