安倍改造内閣発足 人事に込めた本当の狙いとは

2014.9.10

政治

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安倍晋三首相が第2次政権発足後、初めて自民党役員人事と内閣改造を実施した。幹事長だった石破茂を新設した地方創生担当相に横滑りさせ、後任幹事長には前総裁の谷垣禎一を充てた。国民人気が高く、自民党内最大のライバルである石破を入閣させ、地味といわれる谷垣を抜擢した安倍首相。今回の人事に込めた狙いとは――。

政権トップ2の情報合戦

異例ずくめの人事だった。内閣を改造する場合、政権ナンバー2である自民党幹事長を最初に決め、首相とともに人事構想を練るのが通例。ところが今回は石破の退任こそ早々に決めたが、後継はなかなか決まらなかった。

新聞各紙は有力候補として河村健夫選挙対策委員長や細田博之幹事長代理、甘利明経済財政相らの名前を挙げていたが、いずれも空振り。読売新聞は小渕優子の起用を大々的に報じたが、これも”幻のスクープ”となった。

谷垣の名前が浮上したのは改造の前夜。自民党発足以来、初めての「総裁経験者の幹事長起用」にマスコミは慌てふためいた。

人事案がこれだけ事前に報道されたのも珍しい。当初は石破の幹事長留任が既定路線とみられていたが、新聞各紙は「首相が安全保障法制担当相を打診する」と報道。実際に打診する前に、今度は「石破が固辞」と報じられた。

永田町関係者によると、情報源は安倍の側近である衛藤晟一首相補佐官や石破の側近である鴨下一郎幹事長特別補佐ら。彼らが情報を随時マスコミにリークし、自分たちにとって有利な展開になるよう誘導していたのである。首相と自民党幹事長という政権の2トップがこれだけあからさまにマスコミを使った情報合戦を繰り広げるのは異例だ。

長期政権へ3つの仕掛け

安倍が最も重視するのは「長期政権」。小泉純一郎の後継指名を受け、52歳という若さで初めて首相の座に就いたときは閣僚の不祥事が相次ぎ、体調悪化も重なってわずか1年での下野を余儀なくされた。「戦後レジームからの脱却」を掲げて憲法改正や教育改革に取り組むつもりだったが、たった1年では何の成果も出せなかった。

5年間の雌伏期間に十分な反省と準備を積み重ねてきた今回こそ、具体的な成果を残したい。それには2015年秋の総裁選で再選し、最低でも2期6年は政権を担わなければならない。その狙いが今回の人事にも明確に表れている。

第1の仕掛けは石破の「閣内封じ込め」だ。安倍と石破は前回総裁選で決選投票を争った最大のライバル同士。石破の国民人気は根強く、次期総裁選でも安倍の有力な対抗馬になる可能性があった。自民党のカネと人事権を握る幹事長に留め置いておけば党内での勢力を拡大し、自分の再選を脅かしかねない。そこで安全保障政策に詳しいことを理由に安保法制担当相への起用を考え、固辞することが伝わると地方創生担当相ポストを打診。断れない状況に追い込んだ。入閣により石破の次期総裁選出馬の目はほぼなくなった。

第2の仕掛けは自民党内の異論封じである。安倍政権の前には集団的自衛権の行使容認に向けた法整備や消費税率の10%への再引き上げ、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉など重要課題が待ち受ける。いずれも党内には慎重派がおり、異論が膨らめば政策実現の障壁となりかねない。

そこで野党時代に消費増税をまとめた谷垣を幹事長に起用。党内の最高意思決定機関である総務会を取り仕切る総務会長には、ベテランの二階俊博を充てた。組閣にあたっては派閥のバランスも考慮し、党内重鎮である各派閥領袖への配慮をみせた。

第3の仕掛けは来春の統一地方選対策だ。2015年4月は全国の多くの自治体で一斉に首長選や地方議員選が行われる。改造内閣には地方経済の活性化策をとりまとめる地方創生担当相ポストを新設。実力者である石破を充て、地方経済の再生に取り組む姿勢を明確にした。現在、編成中の2015年度予算にも多額の地方創生関連予算を計上する見込みだ。

解散は当面、先送りへ

永田町では今回の人事が決まるまで「早期解散もありうる」との見方が広がっていた。安倍が支持率の高いうちに衆議院を解散し、総選挙で勝利して来年の総裁選を無投票再選に持ち込むとの見立てである。北朝鮮による拉致被害者の帰国が実現すれば今秋、それがなくても2015年夏までには解散があるとみられていた。

しかし、内閣改造で石破が入閣し、安倍にとっての有力なライバルが見当たらないなかでは解散する”大義”がない。安倍が順当に総裁選を勝ち抜けば、2016年夏の衆参同日選、もしくは同年末の任期満了近くまで解散が先送りされる可能性がある。

新たな自民党役員を見ても、首相に早期解散の意思がないことは明らかだ。幹事長は選挙の際の顔役。仮に選挙を考えているのであれば国民人気の高い石破から、地味な谷垣に代えるはずがない。選挙対策を取り仕切る選挙対策委員長を交代させたのも解散先送りのサインだろう。

解散が先送りされれば、野党の準備期間が増える。その間に政界大再編を進められるかどうかが、安倍政権の行方を占いそうだ。
(敬称略)