ティアはリアルでいく 変えてはいけない葬儀のかたち

2020.11.20

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ティアはリアルでいく 変えてはいけない葬儀のかたち

写真:十河 英三郎(冨安代表)

コロナ禍で多くの人が「死」を身近に感じ、「死」に対する意識が以前よりも高まっているといわれています。それに伴い、葬儀に対する意識も変わってきているようです。一方、葬儀自体は感染予防の観点から縮小傾向にあり、「リモート葬儀」といった新しい形式も出てきています。しかし、葬儀は故人に別れを告げる最後の場であり、オンライン会議のように効率目的で簡単に置き換えられるものではないはずです。今後、葬儀はどうあるべきなのでしょうか? 「感動葬儀」を謳い、葬儀の場を何よりも大切にしてきた葬儀会館「ティア」の冨安徳久代表に、これからの葬儀についてうかがいました。

株式会社ティア 代表取締役社長

冨安 徳久 とみやすのりひさ

1960年生まれ。愛知県出身。1979年、アルバイトで入った葬儀会社に感動し、入学式直前に大学を辞めて葬儀業界に入る。1982年、東海地方の大手互助会に入社するも、葬儀に対する会社の方針に疑問を持ち独立。1997年、株式会社ティア設立。2006年、名証セントレックスに上場。2014年6月、東証・名証一部上場。2022年4月、東証スタンダード、名証プレミア上場。

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コロナ禍で葬儀の規模が縮小、上場後初の減収を経験

東海地方を中心に葬儀会館を運営するティアの2020年9月期連結決算は、前期比で減収減益となりました。ティアにとって上場以来、初の減収です。

「葬儀の規模が縮小しているのは最近の大きな流れで、コロナ禍でそれが一気に加速した印象です。有名なタレントさんが新型コロナウイルスに罹患して亡くなられて、『死』への意識が高まった結果、感染症拡大を懸念する喪主様の意向で近親者さえも呼ばない状況になりました。経営面からみれば、会葬者が減ることによって葬儀の単価が下がります。その結果、下半期(4月~9月)だけで8億円の減収となりました」(株式会社ティア 冨安徳久代表、以下同)

家族葬が増えただけでなく、オンラインでの「リモート葬儀」も注目を集めました。

「当社ではもともと遠方の参列者用にオンライン葬儀のシステムを用意していたため、コロナ禍でリモート葬儀が利用されるようになっても技術的な問題はありませんでした。ただ、『感動葬儀』をモットーにしているティアにとって、リモート葬儀という選択肢が正しいのか自問自答することになりました」

後悔する人を増やしたくない

葬儀は“不要不急”の用事なのか?と、冨安代表は考えました。大事な親族、お世話になった恩人が亡くなったら、葬儀に参列して最後の別れをしたいはず。そう思ったのは、冨安代表の個人的な体験がきっかけでした。

「2020年8月に、大変、恩義のある方が亡くなりました。私の父親の葬儀にも来てくださった方で、どうしても葬儀に行きたかったのですが、喪主を務める息子さんに連絡すると『リモート葬儀でやる』と言われました。せめてお花だけでも、香典だけでも、とお伝えしたのですが、すべて辞退されました」

葬儀当日、リモートで葬儀に参加した冨安代表でしたが、画面に故人の葬儀の様子が映っているにもかかわらず、感情移入ができなかったといいます。しかも、会場の映像には100人近くの参列者が。

「翌日、息子さんに電話で聞いたところ『来ないでくださいとお願いしたのですが、皆さんいらっしゃってしまい……』と。そのときに、私も拒まれても行くべきだったと後悔の念が浮かびました。葬儀は不要不急の用事ではないのです。私のように、葬儀に関して後悔する人を増やしたくないという思いを強くしました」

「葬儀への参列を待っている人がたくさんいる」と力強い

リモート葬儀は選択肢の一つだが、それがすべてではない

“冠婚葬祭”と一括りにされることがしばしばですが、ブライダルと葬儀が大きく違うのは、基本的に延期ができないということ。それを前提に、ティアはコロナ禍においては特に感染症予防に尽力してきました。

「感染症予防対策は万全にしていますし、受け入れのオペレーションもしっかりやっています。どこまで参列者を呼ぶか迷うご遺族がいらっしゃったら、『皆さんに来てもらってください』と自信をもってご案内することができます。一時は、新型コロナウイルス感染症が拡大するなかどう対応すればいいかわからずに、社員の気持ちが負けていました」

人は何かあったときに原点に返ると、進むべき道が見えるもの。「哀悼と感動のセレモニー」を経営理念としてきたティアの原点は、故人との触れ合いにあるのだといいます。

「葬儀業界で革新的なスタイルでやってきたティアですが、変えてはいけないこと、守らなければいけないことまで変革するつもりはありません。故人様と対面して最期の別れをする、これは葬儀の基本、変えてはいけないことです。

人は触れ合わなければ感動は生まれません。葬儀のスタイルは年々自由になっていますし、『リモート葬儀』も選択肢の一つとして応えることが葬儀会社の使命だと思います。しかし、ティアでは『リモート葬儀』に関して、ご家族の希望があれば対応すればいいことであって、積極的に推奨するつもりはありません。AIの時代になろうとも、ティアはこれまでの葬儀のスタイルを変えない。変えてはいけない仕事のひとつだと社員にも言い聞かせています」

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コロナ禍を経て事業が筋肉質に

最近はワクチンの話題に注目が集まっていますが、自粛ムードで葬儀業界全体が苦しい状況は変わりません。しかし、ティアはこれまでの経営で、コロナ禍を乗り越える体制ができ上がっていたと冨安代表は言います。

また、コロナ禍においては、徹底的に無駄なコストを洗い出し、看板広告や駐車場を整理して必要のない分は契約を解除して固定費の圧縮に努めました。

「ティアでは、以前から葬儀に関するモノや人財の内製化を進めています。棺も海外工場で生産したものを直接輸入し、生花祭壇や供花も自社で対応するようにしています。その結果、ティアが考える価格を実現して、葬儀業界のニュースタンダードを切り開いてきました。コロナ禍においても利益が確保できるように、看板広告や駐車場の解約、業務内容の見直しといった固定費の削減を進めています。

単価の下落は業界全体にとって厳しいものがありましたし、当社でも葬儀単価の低下により下半期は減収となりました。一方、葬儀件数と中核エリアのシェア獲得に徹底的してこだわり、第4四半期(7月~9月)に名古屋地区のシェアはナンバーワンになりました。これまでに積み重ねた信頼の結果だと自負しています」

「香典はネットを介してもいいかもしれない」と冨安代表

2021年9月期の出店計画は、「家族葬ホール」(土地200坪・建物60坪)を中心に展開する方針。「家族葬ホール」は一般葬儀会館の半分~3分の1程度の規模で、[1ホール=1家族]で葬儀を執り行うため、一般葬儀会館のように複数の家族が同じ建物に集まることを防ぐことができます。

「地域の出店戦略についても、今後は『家族葬ホール』の出店がキーになると考えています。コンビニの跡地をそのまま利用できるため、出店にかかる費用も抑えられ、『家族葬』という現代の葬儀スタイルにも合致しています」

「家族葬ホール ティア焼山」

ティアは、2021年9月期のスローガンとして「コロナに負けるな!守れ、伝統!名古屋ナンバーワン!ティアを超える新生ティア」を掲げました。withコロナの状況下でも「感動葬儀」を武器にさらなる成長を遂げようとしています。

コロナ禍と日本人の死生観、そして葬儀社の使命

2020年8月、ティアは、全国の40歳以上の男女1000人を対象に、「コロナ禍における『葬儀』に対する意識と実態」についてインターネット調査を行いました。

コロナ禍で「死」に対する意識が変わったと回答する人が全体の約4割を占め、「死」に対する意識が変わったという人がとるアクションとして、「生前整理」(45.2%)、「家族との話し合い」(44.7%)、「エンディングノートの作成」(19.0%)、「相続の準備」(13.5%)、「遺言書の作成」(11.9%)がトップ5という結果となりました。

「日本では、生前に『死』を考えることは忌み嫌われてきました。親が生きているときに事前に葬儀について相談する生前見積りなどもってのほか。しかし、死生観をもって生きる方が、充実した人生を歩めると私は考えます。これまで、生前見積りという業界のタブーを破ってビジネスを続けてきました。その根底にあるのは、『日本人に死生観をもってほしい』という切なる願いです」

「エンディング・ノートを通じて自分自身を見つめ、想いを後世に遺すこと、自分の最期を思い描くことは、生きることの充実や先祖への感謝に繋がるのです。」(ティアのエンディングノート冒頭より)

人はいつ病気や事故で命を失うかわからない。明日があるなんて、誰にもわからない。それなのに、日本人は「死」と向き合う意識が薄い。限られた時間を生きている意識がない。そう、冨安代表は考えてきましたが、コロナ禍で状況が変わりました。

「おそらく新型コロナウイルスの感染症拡大が初めて、日本人に死生観を植え付けたのではないかと思います。日本人の死生観が変化を見せている今こそ、ティアは発信力を強めなければなりません」

冨安代表はこれまでに約40回の「命の授業」を講演

緊急事態宣言下の社長セミナーで、「雇用は守る。給与も下げない」「大変なのは自分だけではないという意識は持ってもらいたい。負けないでほしい」と社員に伝えた冨安代表。ティアの「感動葬儀」を守っていくためには、社員に安心して働いてもらうことが必要だと考えているからです。

「私たちはコロナ禍にあって、自分たちの気の弱さによって、本来あるべき『感動葬儀』が出来なかったのではないかと考えることがあります。起こったことは仕方がありません。『では、次はどうするの?』と考え続けることが大切です。このような誰も経験したことが無いような予測不能な事態にあっても、信念を貫ける会社であり続けるために、私はこれからも発信し続けます」