二酸化炭素と水素から都市ガスを生成 親炭素技術「メタネーション」とは
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二酸化炭素と水素から都市ガスを生成 親炭素技術「メタネーション」とは

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2050年までに実質ゼロの「脱炭素」を宣言した日本。この用語は身の回りの生体も含めた多くの物質が炭素を骨格としてできあがっていることを考えると適切な語ではありませんが、“二酸化炭素の削減”を意味する語として、すでに定着しています。「親炭素」は二酸化炭素の有効利用と表す言葉ですが、最近、二酸化炭素と水素を原料にして、環境に負荷をかけない都市ガスを作る次世代技術「メタネーション」が注目されています。

都市ガス業界がメタネーションの実用化を急ぐ理由

メタネーションは二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を反応させてメタンを作り出す化学反応で、1902年、フランスの化学者ポール・サバティエ(1912年ノーベル化学賞受賞)によって発見された古い化学反応(サバティエ反応)ですが、120年後の今、脚光を浴びています。

メタネーションの英語表記は「Methanation」で、もともとは一番簡単な炭化水素(炭素と水素からできている化合物、石油がその代表で、いわゆる燃料)である炭素数1個のメタン(Methane CH4)の派生語。メタンに導くということで「メタン化」が日本語訳です。

少し専門的になりますが、この反応は発熱反応であることから、反応を促進させるためには低温高圧下の条件で、触媒(ニッケルやルテニウム系金属触媒など)が必要とされています。

いま脱炭素の実現に向けて期待されているのは、都市ガスにこのメタネーションの技術を用いることです。

一般的な都市ガスはガス田から採取した天然ガスが原料で主成分はメタン、燃焼させればCO2が発生します。このCO2と水素を原料に合成メタンを作り(メタネーション)、これを都市ガスとして利用すればエネルギー効率は高まり、しかもCO2は循環するだけになります。これは夢のような話です。

循環に関して言えば、植物はCO2を吸収、水と太陽光によりデンプンをつくり酸素を発生(光合成)、その酸素を動物が吸ってCO2を吐いていますので、自然界ではCO2はもともと循環していることになります(生物学的循環)。

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都市ガスは家庭のみならず、CO2を大量に排出する発電所や工場などでも広く使われているので、このメタネーション技術が実用化すれば大幅なCO2削減が見込め、実質的にCO2排出量は相殺されて「カーボンニュートラル」な都市ガスができあがります。バイオマスエネルギーを使うのと同じことです。

したがって、2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする政府目標の達成に寄与する有効な手段の一つとして注目されているのです。しかも、この方法は既存のガス供給網をそのまま使うことができ、巨額の新たなインフラを整備する必要がないので、そのメリットは大きいといえます。

国内外のメタネーション実証試験状況

メタネーション技術を推進させるため、2021年6月28日、経済産業省は大手ガス会社や商社、それに製鉄や海運など20社余りが参加する官民協議会を設立し、初めての会合を開きました。

協議会では今後、各企業と連携しながら、より効率の高いメタン合成の方法や、原料となる水素を安く調達する供給網の在り方、それに制度面での課題について検討を進めることになっています。

政府はメタネーション技術利用の拡大を目指していて、2030年には都市ガス全体の1%以上、2050年には90%以上を合成メタンから作り出す目標を掲げています。

国内では2019年、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、国際石油開発帝石(INPEX)、日立造船と共にメタネーション試験設備をINPEXの長岡鉱場(新潟県長岡市)の越路原プラント敷地内に完成させ、実証試験を進めています。

INPEXは、メタンの生産量を2025年に今の50倍に引き上げ、2030年以降に実用化を目指しています。

また、ドイツの大手自動車メーカー・アウディは2013年から、Audi e-gasプロジェクトを開始、ドイツ北部にメタネーションの工場を自社で建設。風力発電で電力を得て、水を電気分解して水素を生成し、二酸化炭素と反応させて合成メタンを作っています。それを都市ガスに使うほか、天然ガス併用モデル車「g-tron」の燃料として使用し、車社会での脱炭素化を目指しています。

フランスでもEngie社(旧ガスドフランス)のグループ会社GRTgazが、メタネーションの産業用実証実験Jupiter1000を2018年に開始。再生可能エネルギーで製造した水素を使ってメタネーションを行っています。

技術開発が加速

将来的な可能性を見据えて、メタネーションの技術は今も進歩し続けています。

大阪ガスは、金属をベースにした安価な固体酸化物を用いた電気分解素子SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell、水蒸気やCO2を高温で電気分解するもの)を開発、これを用いて水をCO2と共に再エネによる電力で電気分解することによって水素とCOを生成し、さらに触媒反応によってメタンを合成する新手法を開発しました。

メタン合成時の排熱を有効活用できるためエネルギー損失が小さく、従来のメタネーション(約55~60%)や水電解による水素製造(約70~80%)に比べ、約85~90%と高いエネルギー変換効率が期待されています。大阪ガスは、メタネーションの技術を2025年の大阪・関西万博で活用する計画を明らかにしています。

東京ガスは7月7日、横浜市鶴見区の技術開発拠点で、2021年度内にメタネーションの実証試験を始めると発表しました。既存技術である「サバティエ(反応)」の実証に加え、より一層の高効率化を目指す「ハイブリッドサバティエ」の革新的技術開発を複数の機関と連携して進めるとのことです。

また、IHI(元石川島播磨重工業)は、メタネーションの反応を加速させる高活性で長寿命の触媒をシンガポールの研究所と共同で開発しています。

技術的バックアップで早期の実用化へ

メタネーションによる都市ガス供給はメリットが大きく、都市ガス業界は2030年までの実用化を急いでいます。ただし、現時点において通常の都市ガスと比べると製造コストが高くなるデメリットがあり、これを克服する必要があります。

そこで経産省は、2050年までに合成メタンを2500万トン供給し、合成メタンの価格が現在の液化天然ガス(LNG)の価格40~50円/Nm3(Nm3=ノルマルリューベは標準状態0度1気圧の気体の体積)と同水準となることを目指しています。

問題はCO2の回収と水素を作る費用がかかることですが、それも最近の技術開発により解決されつつあります。CO2の回収方法と水素の製造方法について、すでに実証試験も進んでいます。

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メタネーションの普及にはコスト削減が不可欠ですが、技術的なバックアップとともに、水素価格の低減に向けたサプライチェーンの確立など、国、自治体、企業など官民一体の取り組みを強力に推進することが必要でしょう。